言葉のプロに聞くSNSで話題の若者言葉
「オラオラ」はなぜ、「オラつく」という形で動詞化されたのか?
編集部より
記者の知人がデート相手をこう評したことがあります。「店員さんにオラついててちょっと感じ悪かった」と。「オラつく」は最近SNSでよく見かける若者言葉の一つ。横柄な感じや強気な態度の人に対して使われているようですが、どのようにしてこの言葉は生まれ、利用されるようになったのでしょうか。日本語の文法や語彙を研究する熊本大学の茂木俊伸准教授にお聞きしました。
茂木俊伸
熊本大学大学院 人文社会科学研究部 准教授。専門分野は日本語学(現代日本語の文法、語彙)。「ことば研究館」の「ことばの疑問」で解説を担当した「若者ことばの『やばみ』や『うれしみ』の『み』はどこから来ているものですか」はTwitterやFacebookなどのSNSでも話題を集めた。
(Twitter:@tmogi_nichibun)
こんにちは、熊本大学の茂木です。「エモい」に続き今回はITmedia NEWSの記者から質問をもらった「オラつく」という言葉についてお話します。
「オラつく」は「オラオラ」という言葉がもとになっていると考えられますが、「オラオラ」はもともと「オラオラ、そこをどけよ!」のように乱暴に相手へ声を掛ける感動詞でした。これに加えて、新しい言葉を積極的に収録する『デジタル大辞泉』では「俗に、強引または強気な態度・性格を表す語」という新しい使い方も掲載されています。「オラオラ」が擬態語としての用法を獲得し、それが動詞化されて「オラつく」になったのではないでしょうか。
しかしここで1つ疑問があります。なぜ「-つく」という形で動詞化されたのかという点です。擬態語や擬音語(オノマトペ)の動詞化には「-する」「-る」「-つく」という3つのパターンがあります。「ぐずぐず」なら「ぐずぐずする」「ぐずる」「ぐずつく」といったように。
「オラオラ」でも同じように「オラオラする」「オラる」「オラつく」という言葉が発生していないか、Twitterで最近1カ月の使用実態を見てみました。どうやら数としては「オラつく」が一番多く、次が「オラオラする」、最後が「オラる」という順になっているようです。
「オラオラする」と「オラる」には、“横柄な態度で威圧感を与えるような行動をする”という意味だけでなく、“圧倒的な連続攻撃を加える”という用法もあるようですが、それを含めても「オラつく」の方が多く、「オラオラ」から作られる動詞の代表は「オラつく」であるといっても良さそうです。
しかし、オノマトペの動詞化規則としては「-する」が最も一般的で、「-つく」を付ける語は限定されています。例えば笑う様子を表すオノマトペでも、「にやにや」は「にやにやする」と「にやつく」の両方が使えますが、「にこにこ」は「にこにこする」だけで「にこつく」にはなりません。
「ぐずつく」「にやつく」以外にも、「いらつく」「ぐらつく」「ばたつく」「びくつく」「べたつく」「むかつく」―――といった動詞ができていることからも想像できるように、「-つく」は、マイナスのニュアンスを持つオノマトペを動詞化するとされています(※)。
(※)参考:田守育啓&ローレンス・スコウラップ『オノマトペ―形態と意味』(1999年、くろしお出版)
では、「オラオラ」の場合はどうでしょうか。「オラオラ」は人の様子、特にその態度や性格に対する評価を表す擬態語でした。「強気」であれば積極性がプラス評価されることもあるでしょうが、「強引」あるいは、感動詞時代に持っていた「粗暴」といった側面を表すとなると、基本的にはマイナス評価が伴われると考えられます。実際に動詞「オラつく」も、人の振る舞いを批判的に見たり、冷笑したり、たしなめたりするような状況で使われることが多いようです。
一方でオノマトペを動詞化した他の若者言葉を見てみると、「いちゃる」(いちゃいちゃ)や「じわる」(じわじわ)のように、「-る」という形で新語を作ることが多いようですから、「オラオラ」の動詞化として「オラる」ではなく「オラつく」が台頭したというのは不思議です。
それでも「オラつく」がよく使われるのは、「-つく」という形を可能にするマイナスのニュアンスに強く焦点を当てることで、「オラオラ」している人から感じるどうしようもない不快感やこっけいさを表したいから――ということなのかもしれません。
誰に教えられたわけでもなく、若者たちが「-つく」のルールを使って自分の表したい感情が伝わる“適切な”表現を新しく作って活用しているのは、とても面白い現象だと思います。
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