人工衛星「EYE」から地球を撮影してみた 思わぬ写真が撮れた(3/3 ページ)
一般の人でも人工衛星「EYE」のカメラを使って宇宙から見た地球や遠い宇宙の写真を撮影できる。そんな夢のあるプロジェクトがついに始まった。
EYEは、2023年1月3日に米国のフロリダ州からロケットで打ち上げられた。順当に衛星軌道にのり、2月17日にはテスト撮影に成功した。
しかし3月ごろに人工衛星の姿勢制御を司るリアクションホイール(reaction wheel)に不具合が生じ、X軸/Y軸/Z軸を制御する部分のうち1つに電源が入らなくなった。地上局でも立ち上げが遅れていたこともあり、この時点で有料サービスとして「宇宙撮影」を提供することは断念した。
それでもカメラは健在で、人工衛星の基本的な姿勢制御はゆっくりではあるが可能だった。このためプロジェクトチームは可能な範囲の撮影方法を模索。8月頃にはなんとか安定した運用ができそうになっていたのだが、ここで再び災難が襲いかかる。3軸のリアクションホイールのうち、2つめも故障してしまったのだ。
プロジェクトチームはその後も検討を続け、12月には「太陽補足モード」で安定した制御が行える状態にまでこぎつけた。太陽補足モードは、リアクションホイールを使わず、太陽に背面パネル向けた状態でEYE自体が軸を持って回転している状態のことだ。
このように撮影は行えるものの、当初の計画に比べると大きな制約が生じることになった。撮影時にカメラを上下左右に動かすことはできず、画角の制約を受ける。常に太陽補足モードのため、地上の夜景などは撮れない。
さらに姿勢制御が遅くなったのでアンテナを地球に向ける必要がある地上局との通信時間も短くなり、伝送できるデータが減った。具体的には、撮影して地上に送れる写真は「1カ月で数十枚」に限られる状況だ。宇宙撮影体験の募集が当初30組で、ダウンリンクで入手できる写真が1枚に限られるのは、こうした事情による。
その代わりといっては何だが、参加者はナビゲーターがマンツーマンで宇宙撮影に関わる知識や地球の見どころを案内してくれるパッケージを“無料”で体験できることになった。色々と制約はあるものの、はるか上空から地上を撮影できるのは貴重な機会。青い地球や水平線の上にある光る大気の層など、どこかで見たような雄大な風景を自分の手で撮影できるのは魅力的だろう。
「宇宙撮影体験」の参加者募集は2月13日に始まる。
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