「攻めた設計」の結果か JAXA「SLIM」総括会見で明かされたスラスター脱落に至った推定シナリオ(2/2 ページ)
JAXAは26日、小型月着陸実証機「SLIM」のプロジェクトを総括する会見を行い、着陸直前に起きたメインエンジンのトラブルについての調査結果を公表した。
「SLIM」が成し遂げたこと、そして今後
目標地点から60mほどずれたとはいえ、SLIMはそれまでの数km〜十数kmの着陸地点精度を100mオーダーに引き上げることに成功。当初から目指していた「従来の『降りられるところに降りる探査』から、『降りたいところへ降りる探査』へのパラダイムシフト」を実現した。
坂井マネージャは「この技術は今後、サステイナブルな(持続可能な)月惑星探査を行うために必須の技術。技術的な成果にとどまらないインパクトを有する成果」と胸を張る。
また、SLIMは着陸寸前に2つの小型ロボット(探査プローブ)を放出し、これらが連携して月面に逆立ちするSLIMを写した。とくに撮影した「SORA-Q」はタカラトミーが中心になって開発したということもあり「宇宙業界への参入障壁が低くなっていることを民生業界にアピールできた」という。
“越夜”を想定していなかったSLIMが、結果として3回の夜を越えて動作を確認できた点も大きい。「各種の機体データを取得できた。例えば越夜の後は、探査機内部の各部の温度が高くなっていた。越夜が探査機に与える影響など、なんらかの知見が得られる可能性が高い」としている。
何度も通信できなくなりながらも復活を繰り返したSLIMは、日本中の注目を集めた。SLIMプロジェクトの公式Xアカウント(@SLIM_JAXA)の投稿は、閲覧数が数百万に達するものが複数あり、着陸運用のライブ配信は同時接続数30万以上を記録。YouTubeのアーカイブは200万回以上再生された。「ネットを通じて社会への訴求ができたと思う」。
そしてもう一つ。SLIMは、NASAとの国際協力の一環として、リフレクター(反射板、LRA)を搭載していた。月周回軌道からレーザーを照射して反射光を調べることで、精密な測距が行える。5月には実際にNASAの月周回機「LRO」(Lunar Reconnaissance Orbiter)がレーザー測距に成功している。「NASAは継続的に測距を試みるとのこと。SLIMは、今後も月面上で測距の標的・基準点としての役割を果たし続ける」(坂井マネージャ)
SLIMの運用は8月26日に終わった。JAXA内での手続きが完了するとSLIMプロジェクトも解散するが、SLIMにはまだ役割が残っているようだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
JAXA、月着陸実証機「SLIM」運用終了 「通信復旧の見込みはない」
JAXAは26日、小型月着陸実証機「SLIM」の運用を終了すると明らかにした。23日にSLIMの活動を停止させるコマンドを送信した。
逆立ちした「SLIM」、国連切手になる
国連の「月の国際デー」記念切手に、日本の小型月着陸実証機「SLIM」が逆立ちした状態で映っている写真などが採用された。
SLIM、2度目の“越夜”に成功 極寒に耐え、再び航法カメラの画像を送る
月面着陸に成功した小型月着陸実証機「SLIM」が2度目の“越夜”に成功した。JAXA(宇宙航空研究開発機構)のSLIM公式Xアカウントが明らかにした。
「SLIM」、スラスターが1つ脱落しながらも100m精度の着陸に成功していた 運用再開の可能性も【追記あり】
JAXAは25日、小型月着陸実証機「SLIM」について、着陸直前にスラスターの1本が脱落して推力が半減したものの、目標点から55m離れた場所に軟着陸したと発表した。
日本初、「SLIM」月面着陸に成功も、太陽光パネル発電せず “ピンポイント着陸”は「ほぼ実証できた」
JAXAは1月20日、小型月着陸実証機「SLIM」が、同日午前0時20分ごろに月面着陸したと発表した。着陸後、探査機とは正常にテレメトリデータを通信できており、ソフトランディングには成功したとしている。

