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“タフネス”ノートの新事情──NEC「ShieldPRO」編山田祥平の「こんなノートを使ってみたい」(2/2 ページ)

ShieldPROはタフネスノートPCの2番手、と思うユーザーは多いかもしれない。しかし、NECが堅牢PCに取り組んできた歴史は長い。その蓄積されたノウハウを開発スタッフに聞く。

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─―こうした装置のニーズはどうなっているんでしょうか。

山崎茂樹氏(NEC放送・制御販売本部制御端末販売部マネージャ)

山崎氏 昔はデスクトップ型のファクトリーコンピュータを作っていましたが、今ではその領域はあまり伸びなくなってきています。事業を拡大するためには、ノートPCを作る必要がありました。ノートPCを作っても、デスクトップPCは食われないのです。だから、事業領域を広げられます。それが大きな動機ですね。もちろん、営業部隊からの強い要望もありました。

 実をいうと、ユーザーはこれまで壊れるのを承知で普通のPCを我慢して使っていたんです。そのくらい、従来使われなかったところでPCが使われるようになってきています。ビジネスとしては、TOUGHBOOKとの置き換え案件もありますね。非常に反応はいいようで、とりあえず使ってみようという段階にあるのではないでしょうか。なにしろ、2006年12月5日に開催した発表会が満員で入れなかったくらいで、ユーザーから期待していただけていることが伝わってきます。カタログの減りも普段とは比べものになりません。

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 市場の規模としては年間3万台くらいじゃないでしょうか。ここは今、TOUGHBOOKの独擅場です。そこを食うというのではなく、市場を拡大していかなければならないと思っています。だから、今、TOUGHBOOKといっしょに堅牢ノートPCの市場を作り拡大していくことを考えています。フル堅牢とセミ堅牢ということでしょうか。その認知度をあげていかなければ広がりません。

中野氏 現時点ではチャネル販売がほとんどですが、近いうちにウェブ販売で購入できるようにするつもりです。30万円くらいからの価格設定にしたいですね。

─―ShiledPROの開発が終わって、今はどのようなことを考えていますか。

筐体パネルを貫通するケーブルの防滴は“サンドイッチ構造”で実現している。手前のフラットケーブルは薄いゲルシールで上下からケーブルをはさみ、奥の筒状ケーブルは厚手のゲルシールでケーブルをはさむようになる

中野氏 何度もいうようですが最も苦労したのが落下衝撃です。これに対してはフローティング構造やマザーボード上のBGAのアンダーフィル、マグネシウム筐体などで対処しました。また、防滴については、サンドイッチ構造で水の侵入を防いでいます。防滴性能のチェック工程では、携帯電話のバッテリー部分に貼られているような水没ラベルシールを使ってシールドされている部分の浸水防止を確認していきます。

打越氏 サンドイッチ構造ではいろいろな素材を試してみました。発泡剤とかも使ってみたのですが、ゲルがいちばんよかったですね。自動車関係で使われることが多い素材です。

中野氏 いずれにしても、ハイテクというよりも、ローテクですね。知恵と工夫で堅牢性が確保されていると考えてください。

打越氏 何かをたてれば何かがたたず。矛盾する部分がとても多いというのが開発して得た感想です。

中野氏 目に見える部分はローテクですが、CADを使った解析など、ハイテクがそれを支えていますからね。マグネシウム合金を使うのは工作精度を高めるためで、できるだけすき間をなくすことができます。装置全体で144本のネジを使っているのですが、メンテナンスのことを考えなければ、もっとネジを少なくできて、その結果もっと丈夫にできるはずです。でも、あえてそれはやりません。やはり、メインテナンスも重要ですから。

打越氏 開閉が想定されるところでは、ネジが内部に貫通しないようにしておくなどの工夫をしています。その一方で、頻繁に開けなくてもいいだろうという部分はネジにシーリング剤をつけてすき間を埋めてあります。

防滴性能の試験は携帯電話でも使われている浸水テストシールを使ってチェックする
筐体は上面と下面が“はめ込み”式になっており、ラバー製のパッキンをかませることで防滴を実現している
基本的に筐体を固定するネジ穴は貫通していてシーリング剤で防滴しているが、メモリスロットのように開閉が考えられる部分はメス側が貫通しないように工夫されている
ちなみに、スピーカーのように穴が必要な部分にはゴアテックスのような防水透湿性をもった素材を貼っている
ShieldPROでは、CPUとチップセットから発生した熱をヒートパイプを組み込んだプレートに拡散させ、そこから筐体に熱を伝えて発散させる。密閉された筐体に内部では空気の流れを冷却に使えないため、NECでは水冷方式の導入を検討しているという

中野氏 今後は、熱対策にますます苦労するでしょうね。パフォーマンスの要求も高くなるはずですから。密閉された筐体の中でどうやって熱を逃がすかがポイントです。すぐに限界がきてしまうのでは意味がありません。パワーマネジメントをどのようにコントロールするのかといったところで、安心したスペックを提供することが求められるでしょう。今後は、水冷の技術なども含めて、冷却対策を考えていきます。

山崎氏 とはいうものの、ユーザーは思ったよりも装置を大事に使ってくれるんですよ。それで壊れてしまって後ろめたい思いをしてほしくはない。だからこそ、経営者が配慮して、こうした製品を導入するんじゃないでしょうか。


 NECは、この春、金属に匹敵する熱伝導性を実現したバイオプラスチックを開発したことをアナウンスした。驚くような新技術が別の部門から登場するというのも、同社の強みだ。こうした素材も積極的に使われ、NECの製品の完成度を高めていくにちがいない。

 PCはコモディティになった。でも、それは比較的恵まれた環境にあるオフィスでのことだ。もし、PCが、さらなるコモディティ化を望むなら、もっと広いフィールドでの稼働を考慮するのは当然の成り行きだ。ShieldPROは、そんなニーズに対するNECからの最初に届いた回答だといえるだろう。

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