Analyst Dayで分かった「Bulldozer」の強味:元麻布春男のWatchTower(2/2 ページ)
Nehalem、Westmereと世代更新が進むインテルに対し、AMDは「2011年」まで待ちの構え。その2011年に大きく変化する新世代CPUの概要が明らかになる。
AMDだから選ぶAPUへの道
ここで、ノートPC向けプラットフォームのロードマップに視点を戻すと、メインストリームノートPC向けとして2011年に登場予定の「Sabine」プラットフォームに使われる「Llano」は、最多でクアッドコアのCPUとDirectX 11世代のGPUを統合したAPUになる(LlanoはデスクトップPCにも使われる予定だ)。ただ、Llanoのアイコンが、BobcatでもBulldozerでもないことからすると、Phenomをシュリンクさせたコアになる可能性が高い。AMDが示した資料によると、LlanoはCPUとGPUを1つのダイ上に統合したAPUではあるものの、リソースの共有は限定的になるようだ。
2010年のノートPC向けプラットフォームについては、すでに2008年のAnalyst Dayで明らかにされていたが、今回のAnalyst Dayでもオプションとして提供されるDirectX 11対応外付けGPUに関する情報が明らかにされた。上位モデルから、「Broadway」、「Madison」、「Park」という開発コード名で呼ばれる3種類のGPUは、すべてDirectX 11対応で40ナノメートルプロセスルールの採用が明記されている。2010年第1四半期という登場時期から考えて、TSMCで量産される可能性が高い。
先ほども少し述べたように、Llanoは、メインストリーム向けデスクトップPCでも採用される予定だ。AMDが示したデスクトップPCのロードマップで2011年の下位ブロックにある「Lynx」プラットフォームがそれに当たる。2010年に登場する「Dorado」プラットフォームも統合タイプのグラフィックスコアを利用するが、チップセットに統合されたDoradoから、CPUに統合されたLynxに切り替わることになる。
ハイエンドデスクトップPC向けのプラットフォームでは、従来どおり外付けGPUを使う。2010年に登場する「Leo」プラットフォームを構成するCPUの「Thuban」は、最大6コアでDDR3メモリ対応ということから、シングル、デュアルソケットサーバ向けのCPU「Lisbon」に近い、あるいは“姉妹”モデルと思われる。ハイエンドデスクトップPC向けCPUをサーバと共通し、メインストリームPCと分離するのは、インテルの方針に近い。
Leoプラットフォーム向けに開発中の外付けGPUが、2009年に登場した「Radeon HD 5000」シリーズだ。AMDのロードマップで「Cypress」と示されたモデルはRadeon HD 5800シリーズとして、「Juniper」はRadeon HD 5700シリーズとしてすでに製品化されている。また、これから登場する予定の「Hemlock」は2つのCypressを用いたデュアルGPUになると思われる。
“物理的”にマルチスレッドに対応する“Bulldozer”
2011年に登場するハイエンドデスクトップPC向けプラットフォームの「Scorpius」で、いよいよ「Bulldozer」コアのCPUが登場する。「Zambezi」という開発コード名で呼ばれるこのCPUは、4コアと8コアの2種類が用意される。同じBulldozerコアを用いたサーバ向けモデルである「Valencia」は、6コアと8コアしか存在しないため、やや変則的だが、基本的なマイクロアーキテクチャは共通だ。
Global Foundriesのハイエンドプロセスである32ナノメートルSOI+HKMGプロセスで量産されるBulldozerコアは、従来とは大きく異なるコアになるようだ。Bulldozerに組み込まれる1つの物理コアは、整数演算部がスケジューラと実行パイプライン、データキャッシュで構成される2つのユニットに分かれており、同時に2つのスレッドを実行できる。浮動小数点演算部は、スケジューラが1つだが、実行パイプラインを2つに分割して実行することも、1つとして利用すること(おそらくSIMD命令などはこちらになるのではないか)も可能だ。
インテルは1つの物理コアで2スレッドを実行するのにハイパースレッディングテクノロジーを用いている。AMDの方式は、ハイパースレッディングに対して独立した部分が多く、2スレッドを同時に実行できるチャンスは増えるだろう。その分、パイプラインの稼働率が落ちる可能性もあるが、それほどヒマならスケジューラごと、片方の実行ユニットを止めてしまうことで、消費電力のムダを防ぐということもできそうだ。
このように、1つの物理コアで2つのスレッドを動かすアプローチがインテルとAMDで異なるわけだが、それより異なっているのは、次のステップだろう。インテルが現在のマルチコアの次としてメニーコアを想定しているのに対し、AMDはヘテロジニアスシステムを想定している。x86コアをたくさん並べるのがインテルなら、x86コアにGPUコアを混ぜて並べるのがAMDだ。汎用性の高いx86コアを並べるインテル路線はプログラミングが容易(それでもマルチコア対応ソフトウェアの普及には苦労している)だが、効率はそれほど高くない。
AMDが使うCPUとGPUの融合はトランジスタあたりのFLOPSは高いが、汎用性に欠けるためプログラミングに制約があり、OSやプログラムのメインルーチンを走らせるCPUとの通信というオーバーヘッドが発生する。どちらも一長一短があるわけで、高性能なGPUという資産を持つAMDに対し、それを持たないインテルという違いが、この路線の違いを生んだとも言える。
両者とも自らの弱点を克服すべく、インテルはx86コアにベクタ演算の拡張を追加し、AMDはCPUコアにGPUコアの機能を融合させていくことでオーバーヘッドを減らそうとしている。長期的に目指すところはそう違わないのではないかという気もするが、山の頂上を目指すアプローチは大きく異なる。どちらのアプローチが登りやすいのか、どちらかの登山道は行き止まりだったりするのか、もしかしてそんな山に一般のユーザーは登りたくない(一般ユーザー向けのアプリケーションが登場しない)のか。その答えが出るまで、もうしばらく時間がかかるだろう。
今回のAnalyst Dayを振り返って、2008年のAnalyst Dayの予測から大きく変わった部分が少ないことに気づく。AMDの次の大規模な革新は、新しいプロセスルールが利用可能になる2011年まで待たねばならないし、Bobcatがロードマップに復活したことも、2008年に予測していた通りだ。1年前の予測が大筋で当たるというのは、AMDとGlobal Foundriesがこの1年を順調に過ごしてきた証でもある。2011年まで手堅い製品ロードマップで乗り切って、次のイノベーションに備える、というのが2010年に課せられたAMDの務めではないだろうか。
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