「Mountain Lion」でさらなる飛躍を目指すポストPC時代のMac:WWDC 2012リポート(2/2 ページ)
WWDC 2012の基調講演で行われた発表のうち、Mac関連の話題を中心に林信行氏が解説する。次期Mac OS「OS X Mountain Lion」が目指すものは――。
iOSユーザーを取り込みつつ、Macならではのアドバンテージをアピール
魅力的なMacBook Airも追い風となり、Macはここ数年で急速にシェアを伸ばしてきている。WWDC 2012の基調講演で、OS X Mountain Lionを紹介したOS X担当の上級副社長、クレイグ・フェデリギ氏によれば、現在Macのユーザー数は6600万人で何と5年前の3倍にまで増えているという。だが、それ以上に驚きなのが、そのうちの2600万人、つまり40%が、昨年リリースされた最新バージョンのOS X Lionを使っているということだ。
この40%という比率を達成するために、アップルは9カ月しか要さなかった。Windows 7では26カ月を要していることから考えても、Macユーザーは最新OSへの環境移行が速いことが読み取れる(同様にiOSもライバル製品と比べて、最新OSの利用者の比率が圧倒的に高いことが特徴となっている。ただ、新しいOSを出すだけでなく、ユーザーが確実に新OSに移行できるような体制を用意しておくことも大事で、これがきちんとできていることもアップルの強みといえるだろう)。
フェデリギ氏は、7月にリリース予定の最新OSに対して「Mountain Lionでも、我々の使命は同じだ。ノート型とデスクトップ型製品に対して、マルチタッチのトラックパッドやマウスでの操作に最適化された最も先進的なOSを提供することだ。ただ、それと同時に、今度のリリースでは、新しい世代のデバイスと一緒に使うことが、より自然になるようにも心がけた」と語っている。
実際、彼はその後の講演で200以上の新機能の中から8個の機能を紹介したが、その多くは、iPhone/iPadとのシームレスな連携に焦点を当てた機能だった。その中でも、最も重要なのが「iCloud」だろう。昨年10月の発表から、同サービスの利用者はすでに1億2500万人にのぼっているという。
OS X Mountain Lionでは、新しいMacを買ってきても、iCloudのIDを入力するだけで、Mail、アドレスブック、カレンダー、リマインダー、FaceTime、iTunes、GameCenter、AppStore、ノート、Safari、メッセージといったアプリケーションの初期設定がすべて自動で行われる。そして、iPhoneやiPad上の同等アプリケーションとも常に情報の同期がとれている状態で、何か新しい情報があればすぐにそれがほかのデバイスにも反映され、参照や変更が可能になる(このうちリマインダーやメッセージは、MacではMountain Lionで新たに用意されたアプリケーションだ)。
これらはいずれも「書類」という概念のないアプリケーションだが、iCloudは、書類を保存するタイプのアプリケーションでも、MacとiOS機器間の連携を可能にする。「Documents in the Cloud」という機能で、Pagesなどの書類保存型アプリケーションの開くダイアログを見ると、そこに新たに「iCloud」という項目が表示され、クラウド上に保存した書類を開いたり、保存したりすることができる(さらにMacに限り書類をグループ化して整理することもできる)。
書類はiPhone、iPadなどでも同時に開くことができ、いずれか1つで加えた変更は、即座にほかの機器の画面上でも反映される(書類を開いていなくても、次に開いたときに最新の変更が反映された状態で見ることができる)。
音声入力、共有、AirPlay、GameCenter、そして通知センターも、いずれもすでにiOSで提供されていた機能をMacで利用可能にしたものだ。OS X Mountain Lionのほうが、現行のiOS 5より新しいので、新たに変更になった点もいくつかあるようだ。例えば、共有機能のメニューをよく見てみると、iOSでは秋リリースのiOS 6まで対応予定がないFacebookへの共有機能も用意されている。
GameCenterではハイスコアの共有だけでなく、対戦ゲームに誘う機能なども用意されている。1人で何台ものiPhone、iPadを持っていなくても、Mac、iPhone、iPad間でゲームの対戦が可能になる。
見たままのMacの画面を、そのままAppleTV接続のテレビやプロジェクターに映し出すAirPlayも期待の機能だ。今後、講演会場などでAppleTV備え付けのプロジェクターが増えれば、Mac、iPad、iPhoneの利用者に限り、ケーブルの着脱なしに簡単に画面表示の切り替えができる(もっとも、今日多くのイベント施設でHDMI対応プロジェクターすらほとんどみかけないことを考えると、実現はだいぶ先になるかもしれないが。是非、会場に設置してあるプロジェクターの種類を明記するようにしてほしい)。
ただ、こうしたiOSから輸入した機能の中でも、最も重要な1つが通知センターの実装だろう。アップルは現行OSのLionからフル画面操作のアプリケーションを推し始めているが、こうしたフル画面アプリケーションが増えれば増えるほど、通知センターの役割はますます重要になる。というのも、せっかくフル画面操作を実装しても、アプリケーションを頻繁に切り替えていては、作業に集中ができず、従来のマルチウィンドウ操作に対してあまりメリットが感じられないからだ。
一方、Mountain Lionでは、例えばフル画面で仕事に集中していても、予定の直前になったり、重要なメールが届くと、そのことを通知で知らせ、指2本をトラックパッドにおいて左に払えば、画面右側から出る黒背景のエリアで、通知の概略を教えてくれる。Twitterでの連絡など簡単なものであれば、通知センターからそのまま返信することもできる(WWDCの基調講演では、通知センターから音声入力したメッセージをTwitterで返すデモが行われた)。
WebブラウザのSafariは、業界最速のJavaScript実行エンジンを搭載したことに加えて、CoreAnimationというOS内技術を使ったスムーズなスクロールを実現。また、ウィンドウ上部のアドレスバーが検索フィールドも兼ねるようになり、Google Chrome同様、ここにURLを入力すれば、そのWebページが、それ以外の文字を入れると、過去の履歴や検索の結果がメニューとして表示される。さらに、ウィンドウ左上にiCloudのアイコンが付き、iPhoneやiPadで開いているウィンドウやタブを簡単に開けるようになった。
操作の方法にも多少の変更が加わっている。現行のLionから、ピンチアウト/ピンチインの操作でWebページの拡大と縮小が可能になったが、めいいっぱいまで縮小した状態で、さらにピンチインの操作を続けると、Mountain Lionでは開いているWebページが縮小表示され、その左右にほかのタブが表示されるようになった。このタブは例えば、アニメーションなどを含んでいれば、それらを再生しつづけた状態のライブ表示状態で、これをスワイプ操作で払って自在に切り替えることができる。このCPUとGPUパフォーマンスを贅沢に使った快適Webブラウジングは、iPadなどと比べた際のMacのアドバンテージとなるものだ。
iPadやiPhoneとは違うMacならではのアドバンテージを生かした機能といえば、「PowerNap」にも注目したい。iOS機器や、これまでのOS X Lionでは、スリープ状態にしてしまうと、そのまま動作が止まってしまっていた。これに対して新機能のPower Napでは、バッテリー消費を大幅に抑えつつも、カレンダーやリマインダー、メモの同期、Find My Mac機能(紛失したMacの所在を調べる機能)、iPhotoの同期、そしてメールの受信、さらにはTime Machine機能を使ったバックアップやOSのアップデートといった処理を継続することができるのだ。これはSSDを含むフラッシュメモリ主体のアーキテクチャを採用したからこそ実現できた機能なので、対応機種は第2世代のMacBook AirとMacBook Pro Retinaディスプレイモデルの2機種に限られるが、これまでのPCの利用とは一線を画す重要な機能となりそうだ。
このほか、WWDCの基調講演でクレイグ・フェデリギ氏が見せたスライドには、VIP登録をしたメールだけを通知する機能や位置情報に基づくリマインダーといったiOS向けにも用意されている機能だけでなく、複数デバイスへのバックアップ、画面共有時にドラッグ&ドロップ操作でファイルをコピーする機能、プレビューでの注釈の検索、フォームの入力機能、さらにはアプリケーションの提供者の身元を保証し、マルウェアのダウンロードを防ぐGatekeeper(ユーザーのレベルにあわせて3段階のアプリケーション実行レベルを設定し、マルウェアのない環境を維持しようというもの)についても書かれていた。
スマートフォン・タブレット市場で支配的な立場を築いたiOSとの連携強化でユーザーを取り込みつつ、iOS機器とは一線を画した使い心地とWindowsに対しても明白なアドバンテージで、勢いづいたシェアをさらに拡大しようとするMac。その最新OSは、この7月、PC用OSとしては衝撃的な1700円という価格で提供される。
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