インタビュー

前編 妥協なきデザインのUltrabookから富士通を変えていく「FMV LIFEBOOK UH75/H」完全分解&開発者インタビュー(4/5 ページ)

見た目も中身も徹底的にこだわり抜いた富士通初のUltrabook「FMV LIFEBOOK UH75/H」。その洗練されたデザインから内部の作り込みまで、開発陣に思う存分語ってもらった。

サテンレッドの天面は、塗装と継ぎ目のなさに注目

―― ボディカラーを「サテンレッド」と「サテンシルバー」の2色展開にしたのはなぜでしょうか? これまでは2色展開といえば、ブラックやホワイト、シルバーなどの無難な色が多かったと思います。

手嶋氏 色に関しても強くこだわっています。サテンレッドについては、コンセプトの折り紙に通じていて、紙を折ったときのエッジに入るハイライトの美しさや、力強さを表わすのに最適な色として選びました。ワインレッドのような暗い鈍い赤ではなく、光が反射したときにオレンジ色っぽく輝き、まるで太陽がギラッとするような強い印象を持たせることを狙っています。

 サテンシルバーはビジネス向けという意識もありますが、Ultrabookとしてさらに薄く軽く見せることを考えました。渋めの暗いシルバーではなく、あえて明るめの白に寄ったシルバーを選ぶことで、より軽さを強調しています。

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岡本氏 例えば、これを真っ白な塗装にしたら、シャープなエッジやデザインの先進感にブレーキをかけてしまいます。ハイライトやハイシャドーがしっかり見せられる色、しかも金属感が出るというところまで気を遣いました。赤については、富士通のコーポレートカラーを持ってきて、初のUltrabookをセンセーショナルに訴えたいという意図もあります。

カラーはサテンレッド(写真=左)とサテンシルバー(写真=右)の2色展開だ

―― このサテンレッドの塗装は確かに素晴らしい出来栄えですね。この鮮やかな赤は金属ボディのノートPCではなかなか見られません。

松下氏 構造設計の立場としては、とんでもなく大変な手間をかけた天板でしたね。赤の塗装はファイブコート、つまり5層に重ね塗りしています。通常、こうした工業製品でファイブコートまでして高級感を出す製品は、クルマなど高額なものになりますが、納得のいく表面仕上げを実現するには、それだけの塗装が不可欠でした。

 金属感やシャープなエッジを演出するうえで、底光りを引き出すことにこだわったのですが、光の反射で色あせたような高級感とはほど遠い赤になってしまったら台無しです。そこで、底光りと高級感の両立を求めた結果、マグネシウム合金の板に2回ブラックのプライマを塗った後に、明るいレッドシルバーの塗装をして、その上に下地が透ける赤色とUV塗装を重ねています。ファイブコートとすることで、ようやく意図した赤色が出せました。

 天面と底面の素材は、マグネシウム合金を使っています。これは軽さと剛性を確保するためですが、表面処理の視点では下地が暗すぎて、そのまま明るい色で塗装してもきれいな発色になりません。なので、最初に下地の暗さを目いっぱい消し去った後で、鮮やかな赤を重ねています。塗装工程の担当はかなり苦労をしていて、頭が上がらないです。

―― 最初に天面を遠くから見たときはアルミニウムの1枚板かと思いました。金属ボディでもワイヤレス通信の電波を通すため、天面のアンテナカバー部分だけ樹脂になっているノートPCは多いですが、UH75/Hの場合、アンテナの内蔵部分との継ぎ目が見えないのは見事です。

松下氏 まさにそこは騙すくらいの勢いで頑張りました。天面には、通常はアンテナエリアに継ぎ目がありますが、今回は樹脂と金属の境目が見えないように塗装しています。境目が出ないような前処理としては、マグネシウムの天板に対してプラスチックのアンテナカバー部を成形する形になっていて、部品がくっついているような一体感が出た状態で製造したものに、後処理で塗装を重ねています。こうして、1つの物体のようにしか見えないような天面が出来上がります。

小中氏 富士通として、使い勝手や安心感を捨てるわけにはいかないので、アンテナのパフォーマンスも確保できるよう天面に内蔵しました。薄さやデザイン重視のモデルでは、アンテナを液晶ディスプレイの下部に配置しているような製品も見られますが、それではアンテナの感度が下がってしまいます。なので、デザインとアンテナ感度の両立を図って、このような手間のかかる作り方をしました。

1枚板のようなフラットで美しい天面は、実はマグネシウム合金と樹脂を組み合わせたものだ(写真=左)。天面を外して裏側を見ると、マグネシウム合金の天板上部に小さな穴を数多く開け、そこに樹脂を重ねて溶着することで、一体化したパーツに仕上げているのが分かる(写真=右)

FMVのデザインを変えるきっかけに

―― これまでのFMVブランドのデザインを見ると、UH75/Hのこだわりぶりは少し異質にも思えます。ラインアップ全体のデザインを俯瞰(ふかん)した場合、UH75/Hはどういった位置付けになるのでしょうか?

藤田氏 異質に見えるとのことですが、僕の中ではノートPCとして、極めて正統進化のデザインだと思っています。大きな画面に使いやすいキーボードが付いていて、薄型軽量で持ち運びがしやすいこと、富士通としてノートPCの理想をこれまで追求してきた結果が生かされている、「正しい進化をした形」という認識です。

2011年7月に発売されたWindowsケータイの「F-07C」

 富士通は過去にいろいろと、言い方は悪いですが、奇妙なモバイルPCや携帯端末を作ってきました。最近の例では、ミニノートPCのLOOX UやWindowsケータイの「F-07C」といったものです。こうした製品はガジェットが好きな方や先進的なユーザーの方によい反応をいただけましたが、一般受けする製品ではありません。小型化や軽量化のため、使い勝手やバッテリーの優先順位を下げた部分もあります。

 そういう意味で今回のUH75/Hは、先進のスペックで使い勝手もよく、携帯性にも優れていて、幅広い方に使っていただける製品ということで、デザインにも自然と力が入りました。使い勝手のよいPCとしても、デザインとしても、強くアピールできるUltrabookができたと思います。これぞ「ザ・富士通のノートPC」という冠を付けたいくらいの自信作です。

―― 今回のデザインは正統進化とのことですが、確かにUH75/Hほど決定的な製品はなかったにせよ、FMVのデザインを長年見続けていると、個人的には、ここ数年で少しずつ着実によくなってきたという印象はあります。

藤田氏 ありがとうございます。現状では、ブランドイメージの調査結果を見ると、富士通のFMVと聞いて、安心、安全、信頼という面でご評価いただいている一方、デザインがカッコイイという声はトップ10に入ってこないような状況です。デザイナーとしては、天面のインフィニティマーク(∞のようなロゴマーク)を見たら、「このパソコン、カッコイイな」と思ってもらえるレベルまで、デザインのイメージも引き上げていきたいですね。

 例えば、プロスポーツのユニフォームやF1の車体にはスポンサーのロゴが入っていますが、最初は「ちょっとダサイかも……」と思うようなデザインでも、好成績を残したり、いいチャレンジを続けていたりすると、ブランドイメージも次第に高まり、カッコいいものとして認知され始め、それが広がっていきます。UH75/Hはそのきっかけ、FMVをもっとカッコよくするきっかけにしたいですね。

 今回はカタログの表紙にもEXILEのメンバーが並んでいて、これまでのFMVとまったく違うビジュアルです。マーケティングサイドでは「ファミリー向けのFMV」というイメージを維持することとの葛藤があったと思いますが、個人的にはUH75/Hにバッチリ合っててよかったです。

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