ソニー初のUltrabookはなぜこうなった?――新生「VAIO T」を丸裸にする:完全分解×開発秘話(6/6 ページ)
シルバーに輝くアルミ天板と剛性感あるフルフラットボディを備えた新生「VAIO T」。ソニー初のUltrabookはどのように生まれたのか、開発者に話を伺いつつ、分解して内部構造を明らかにする。
小型のスピーカーながら音質向上に注力
13.3型モデルと11.6型モデルで設計を共通化したVAIO Tだが、サイズ以外に大きな差があるのがスピーカーだ。
13.3型モデルはバッテリーの左右、つまりパームレスト両端の余ったスペースに大きめのステレオスピーカーを内蔵し、音質面に配慮している。11.1型モデルはバッテリーの左右にスペースが余っていないため、キーボードの上部にステレオスピーカーを内蔵しているものの、13.3型モデルに比べるとかなり小さい。
なお、VAIO Tは高音質化技術の「xLOUD」と「Clear Phase」も備えている。xLOUDは音量増強技術によって、音質の劣化を抑えつつ、内蔵スピーカーの音圧を強めることで、Ultrabookの小型スピーカーでも迫力あるサウンドが味わえるというもの。Clear Phaseでは、デジタル信号処理で音響特性を補正し、より自然でクリアな音声が楽しめる。
音質面へのこだわりについて、梶尾氏は「一時期、ノートPCの薄型化により、内蔵スピーカーのサイズが犠牲にならざるを得ないこともあったが、昨今は音楽管理をPCで行うことが一般化し、我々が思っている以上に内蔵スピーカーへの期待値が高いことが分かったため、xLOUDやClear Phaseの採用で小型スピーカーでも総合的に音質を高めるような作り込みをした」と、その背景を説明する。
Ultrabookの波に乗って実現できた“みんなのVAIOモバイルノート”
最後に毎度恒例だが、開発を取りまとめた梅津氏と商品企画担当の梶尾氏に新生VAIO Tの満足度を100点満点で自己採点してもらった。
梅津氏は「薄型軽量を徹底したい部分はあったが、商品の企画上、コネクティビティやコストを優先したため、満点とはいい難い。しかし、使い勝手はよく、拡張性も、バッテリーも、剛性感も、天板のヘアラインの質感もうまくまとまり、結果的に商品としてそれに近いところに達したと思う」との回答だ。
梶尾氏は「VAIO ZとSがすでに存在する中、Ultrabookをどう組み込むか検討し、高いモビリティと適正な価格を提示することが重要と考えた。その点でVAIO Tは90点くらいの達成度といえる。ソニーがVAIOブランド全体で共通して取り組んでいる独自技術もしっかり入れてあり、それでこの価格なので満足度は高いはず」という。
今回はインタビューの端々に、VAIOならではの作り込みの部分と、コストパフォーマンス追求の部分とのせめぎ合いを感じたが、VAIO TはUltrabookとして突出したスペックが見当たらない一方で大きな弱点がなく、低価格帯でうまく全体のバランスが取れている印象だ。特に、国内大手PCメーカーのUltrabookとして、かなり買い求めやすい価格に落ち着いている点は特筆したい。
発売から3カ月あまりが経過し、ソニーストアで販売されるVAIOオーナーメードモデルの最低価格は13.3型モデルが4万9800円、11.6型モデルが4万4800円と、かつてVAIOからも出ていたNetbook並に下がっているのは見逃せない。例えば、13.3型モデルでCore i5-3317U(1.7GHz/最大2.6GHz)、4Gバイトメモリ(4Gバイト×1)、128GバイトSSDといった実用度の高い構成を選んでも6万6800円におさまる(2012年9月26日現在)。
ハイエンドモバイルであるVAIO Zの最低価格(9万9800円)に比べて、約半額で購入できることを考えると、狙い通りの高いコストパフォーマンスを達成したといえるだろう。ほんの2~3年前まで5万円程度の予算で新品のモバイルノートPCを検討した場合、AtomやAMD Eシリーズといった少々非力なCPUを搭載したミニノートPCが選択肢の大半だったわけだが、今やVAIOのUltrabookがその候補に加わるのだから、感慨深いものがある。
筆者のようにVAIOの新作を長年追い続けていると、VAIO Zのような極限への挑戦をつい期待してしまうが、Ultrabookの波に乗ってモバイルノートPCの裾野を広げる1台として、このように“手ごろな価格で使い勝手も十分”なVAIO Tが現れたことは、幅広いユーザーにとって有意義に違いない。
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