Windows 8総責任者の辞任が「Windows Blue」にもたらすもの:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
Windows 8開発責任者のスティーブン・シノフスキー氏は米Microsoftを退社し、ハーバードビジネススクールの教壇に立つ。同氏の辞任は次期OS「Windows Blue」にどのような影響をもたらすのだろうか。
シノフスキー氏辞任は時代の節目を象徴する人事
このような話を聞いて、米Appleの故スティーブ・ジョブズ氏を思い出す方も多いだろうが、筆者はシノフスキー氏と同時期にAppleを退職したスコット・フォーストール氏を想起した。
AppleのiOS担当上級副社長だったスコット・フォーストール氏は、まさにタッチパネルによる技術イノベーションを主導してきた開発者で、今でこそすっかり定着しているが、登場当初は驚きの連続だった初代「iPhone」のユーザーインタフェースを設計してきた。
フォーストール氏の退職理由は、品質が十分ではない自社提供の地図サービスへと切り替えたことの責任に加え、顧客に対する謝罪を拒否したことを原因として挙げる人が多い。ナビ機能を実現するために十分な機能を、地図サービスを提供していたGoogleから得られないなど、今後、iOSを進化させるうえで自社の地図サービスに切り替えることの重要性は以前から指摘されていた。
とはいえ、今回は提供を諦めるという選択肢もあっただろう。誰もが目を疑うような低品質の地図を、そのまま製品版として提供した正確な経緯は不明だが、もしフォーストール氏がリリースまでの修正が可能だと説明し、強硬に移行を主張したのであれば今回の人事も分からなくはない。
しかし、この2つの人事は、その根っこに似たものを感じている。iOSの使いやすいユーザーインタフェース設計は、哲学的なまでの強いこだわりがなければ生み出せない。もちろん、そこにはジョブズ氏の強い意志もあったのだろうが、1人の人間がこだわりを持って作り上げたからこその構造的な美しさがある。
大きな技術イノベーションに素早く対応していくには、強烈なリーダーシップが必要不可欠ということだ。しかし、AppleやMicrosoftが、その強引さを必要としているかは疑問だ。
20年以上の歴史を持つWindowsのデスクトップに決別し、タブレット時代を行くWindows 8を作ったシノフスキー氏。強烈な個性と意志の強さがなければ、なし得なかった仕事である。基礎ができたなら、次はそれを熟成し、周囲となじませていくプロセスが必要となる。後任のラーソン─グリーン氏は和を重んじ、複数の部署間での協業を進めることに長けたユーザーインタフェース開発のエキスパートだ。
熟成の機会へとフェーズを移そうという今、Microsoftで彼女が後任となり、またAppleでフォーストール氏が更迭され、デザイン部門で協調性を発揮してきたジョナサン・アイブ氏がユーザーインタフェースまで見るようになったのは偶然ではないだろう。
スマートフォン、タブレットを巡り急変した業界は、大きな地殻変動が落ち着き、今後は腰を落ち着けて地盤固めを行うプロセスに入り始めた。大きなテクノロジイノベーションの次に来るものは、各種技術の融和、熟成であることを、新しい人事は予兆しているのかもしれない。
そしてWindows Blueへ
Microsoftは今後、Windowsを毎年アップデートしていく方針という。開発コード名で「Windows Blue」と呼ばれる新Windowsは、Windows 8で大幅に変更した技術基盤を熟成させていくことに力を入れるようだ。
製品が向いている方向を調整した後は、それを熟成させなければならない。大きな改修の後には、大きなゆがみも出やすい。毎年のようにWindowsをアップデートする計画は、決して毎年、大きな変化を業界にもたらすという意味ではない。むしろ大きな技術イノベーションの時期を終え、腰を据えてWindowsストアアプリを中心としたエコシステムを再構築しようという意思の表れだ。
しばらくは、デスクトップになれたWindowsユーザーから「前のほうがよかった」という圧力、「Windowsストアアプリなんて、まだ十分な機能がそろっていないのに、今後の戦略の中心に置くなんて……」との批判が強く出るかもしれない。
「スタートメニューが復活だ!」といったジョーク記事も出回っている。しかし、「リボン」は大きな批判にさらされながらも、現在は評価されている(と表現すると、また古くからのユーザーには物議を醸すだろうが、利用シナリオに合わせたリボンの設計や、カスタムリボンによる各種業務への適応性の高さなど歓迎する声のほうが今は大きい)。
大きな刷新が評価されるには時間がかかるものだが、これからWindowsが前に進むには、Windows 8に集まるレガシーWindowsユーザーからの批判に耐える度量が必要だろう。毎年、新たなWindowsをリリースするという計画が実行されれば、その方針はそう遠くない時期に明らかになるはずだ。
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