「Windows 8.1」の“納得感”と今後の課題:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)
無償公開された「Windows 8.1 Preview」を使うと、改良点がいくつも発見できる。今後は毎年アップデートを行う予定のWindowsだが、その始まりとなるWindows 8.1は道しるべの役割をうまく果たせるだろうか?
Windows 8でやり切れていなかった部分を補強した“8.1”
現在のWindows 8世代から、毎年その時代に合わせた改良を加えた中規模のアップデートを継続して行うと発表している米Microsoft。いわば「○○年型」のWindowsということになるが、2013年型となる「Windows 8.1」のプレビュー版は、既報の通り、同社の特設サイトから配布が開始された。
アップデート内容は多岐に渡り、これまで不足していたAPI機能が数多く追加されている。その数は5000と発表されているが、API数というよりは機能数と数えたほうがいいかもしれない。テクニカルセッションでは、開発者たちからの声援を得る部分も多く、言い換えればそれだけ従来は、やりたくてもできないことが多かったのだろう。
長い歴史を持つデスクトップアプリケーションのAPIに比べ、全画面ユーザーインタフェースのModern UIを採用するアプリ(Microsoftの言い方では“Windowsストアアプリ”)が利用できるAPIは、まだ十分に成熟していなかった、ということなのだと思う。
Windows 8.1は従来で言うところの“サービスパック”と同じくらい、お手軽にインストールできるアップデートだが、一方でアップデートのレベルとしてはWindows 95に対するWindows 98ぐらいの充実度、あるいはカスタマーフィードバックに基づく変更が加わっている。
APIを充実させ、Modern UIを採用するWindowsストアアプリを作りやすくする基盤作りを重視するとともに、表面から分かる部分では、設定したコンセプトに関してやり切れていなかった部分を強化している印象が強い。おそらくWindows 8リリースの時点では、開発そのものが時間的な制約で中途半端だった部分もあるのだろう。
Windows 8.1には、“なるほど、これならば納得”と思える改良がいくつもある。既にITmedia PC USERでもいくつかの記事が掲載されているので、今回はBUILD 2013のニュース速報とは異なる視点で話を進めたい。
SkyDriveの統合強化でデスクトップも変わる
1つはSkyDriveのシステムへの統合である。
Windows 8はクラウド型ストレージサービス(具体的にはMicrosoftが提供するSkyDrive)との統合を前提に設計されており、写真、音楽、ビデオなどのメディアデータ、それにOfficeに代表される文書ハンドリングを行うアプリケーションが、クラウド型ストレージサービスを中心に連動するよう設計されている。
例えば写真用フォルダをSkyDriveに掘ってそこに写真を置いておくと、SkyDrive対応デバイスからは、まるでローカルストレージに保管された写真を閲覧するかのごとく、自然にアルバム化して閲覧できる、といった、ある意味当たり前の、見方によっては賢いクラウド連動が、Windows 8が掲げたコンセプトの1つだった。
Microsoftが販売しているタブレットPC「Surface」のストレージ容量があまり大きくないのも、SkyDriveに最大100Gバイトのプランが存在しているのも、SkyDriveの統合あってのことだ。Microsoftは昨今、「内蔵○○Gバイト+SkyDrive」といった表記を好んで行う。
実際、Windows 8で追加されたModern UI向けのAPIはシームレスにSkyDriveが統合されていた。ところが、以前からのWin32 APIを使うデスクトップアプリケーションから見たストレージ構造は従来と同じだ。SkyDriveは従来からある、あるいは他のよく似たオンラインストレージと同様の、特定フォルダとユーティリティで同期されるものでしかなかった。これでは「内蔵○○Gバイト+SkyDrive」などとはとても名乗れない。
このような不整合が起きていた背景には、Modern UIアプリが使うWinRTというAPI(というよりも、実態はWin32の上に構築されるライブラリセットのような構造だそうだが)に対して、ほとんどのデスクトップアプリは(一部を除き利用は可能だが)WinRTではなくWin32を直接使っているという事情がある。
このままでは、かつてWin32からWinFXへとAPIセットを移行させようとして失敗し、その残骸を.NET Framework 3.0としてWindows Vistaに搭載したときの二の舞になりかねない。そこで、Win32APIを呼び出すアプリの場合でも、WinRTで提供していたクラウドフレンドリーな機能が、すべてではないにしろ、シームレスに使えるようになったということだろう。
クラウドフレンドリーとなったWindows 8.1は、アプリケーションにオンラインかオフラインかを意識させずにSkyDriveを利用できる。読み書き両面でのキャッシュ制御はユーザーから隠蔽(いんぺい)されるため、「内蔵○○Gバイト+SkyDrive」といううたい文句通りの使い勝手になるだろう(なっていないとしたら、次にまた改良が入るはずだ)。
SkyDriveの機能拡張がサーバ側でも進展すれば、かつてWinFS(Windows Future Storage)で追ったオブジェクトストアの夢が現代によみがえる……かどうかは定かではないが、Windows 8.xの大きな武器になっていくはずだ。
前述した5000の新APIというのが、どういった基準でカウントしたものなのか分からないが、もともとMicrosoftはWinRTとWin32の構造について公にはしておらず、プログラマーにとって必要な機能がそろっていれば、それでいいというスタンスだ。
例えばWindows 8.1にはPDFのレンダリング機能が内蔵されているそうで、PDFをパラメータにウィンドウサーフェイスに割り当てて自由に動かすといったAPIが追加されるそうだが、1つ1つのAPIがどうというよりも、iOS的あるいはAndroid的なGPU能力をたっぷり活用したアプリ体験を、もっともっとPCのパワフルさを伴って提供しようとしているようだ。これが1つの軸。そしてもう1つは、デスクトップとタッチパネルの操作間にある距離を縮めることにも、かなり腐心しているように思えることだ。
SkyDriveの例は改善点の1つでしかなく、Windows 8で一気に作り上げたタッチパネルフレンドリーなAPI環境を整理し、開発者にとって扱いやすいOSにすることが、Windows 8.1における目標の1つだったのではないだろうか。
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