なぜAppleは「iOSとmacOSを統合しない」と断言したのか WWDC 2018現地レポート:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
毎年恒例の米Apple開発者会議「WWDC 2018」が開催。一部で期待された新ハードウェアの発表はなかったものの、今後のmacOSとiOSについて注目すべきトピックがあった。現地からレポートする。
iOSアプリの成功をmacOSに移植したいApple
では、なぜこのようなうわさが出てきたのだろうか。火のないところに煙は立たないものだ。しかし、これに対してもAppleは丁寧に回答をしている。
Macが生産性重視のコンピュータであることを述べた上で、Macに対してiPadやiPhoneのアプリのように、シンプルにWebサービスの価値を活用するアプリも求められていることに言及した。
しかし、Macと比べてはるかに稼働台数が多いiOSデバイス向けアプリの方がMac専用アプリよりも市場が活性化していることは明らかだ。Appleは今回のWWDCで、iOSのAppStoreを通じて開発者に支払われた金額が、合計1000億ドルに達したことを明らかにした。
そこでこのモメンタムの大きさをMacユーザーに還元するためのプロジェクトを、Appleは過去数年にわたってトライアルしてきた、というのが筆者の解釈だ。
それは、iOS向けに開発されたアプリを、簡単にmacOS向けにポーティング(移植)するための仕組み作りである(現時点において、どのような枠組みでそれを実現するのかは明らかにされていない)。
そもそもiOSは、macOSの前身である「Mac OS X」が基礎となっているOSだ。しかし、ユーザーインタフェースの違いから両者のアプリの間には超えられない溝がある。
macOSアプリは「AppKit」、iOSアプリは「UIKit」というクラスライブラリを通じてユーザーインタフェースが構築されている。iOSアプリでは、マウスやトラックパッドを用いた操作、ウィンドウサイズの変化に対する表示レイアウトの最適化、スクロールバーの有無、コピー&ペースト、ドラッグ&ドロップといった部分が互換アプリの開発を難しくしている。
そこでUIKitのフレームワークに手を加えて、Mac上でも破綻なく動くようにしておき、macOS側にあらかじめUIKit対応のクラスライブラリを組み込んでおくことで、iOS用アプリが動作するようにするようだ。
今年は自社開発の一部アプリの対応にとどまるが、来年には開発者向けに提供することを明らかにした。この仕組みを用いると、開発者はiOSアプリを開発すると同時に、簡単なユーザーインタフェースの調整を行うだけでmacOSユーザーにも同じアプリが提供可能になる。
WWDC 2018の段階では、Appleが新しいOSにそれぞれ組み込むNews、株価、ボイスメモ、ホームといったアプリがこの仕組みを利用している。これらはiPhone、iPadそれぞれの動作もユーザーインタフェース、機能含め刷新されている。そして、その刷新されたデザインイメージ、機能がそのままmacOSでも動いていたのだが、最後の最後になって、それが新しい開発フレームワークによるものだと明かされたのだ。
Apple以外の開発者に公開されるのは来年だが、長期的にこの取り組みを進め、macOS向けアプリの増加につなげることができるならば、iOSのモメンタムを活用した開発者の収益機会増に加え、Macそのものの売り上げ、パソコン市場における存在感を高めることにもつながるだろう。
Appleが訴求しているMac AppStoreの改善も、iOS向けAppStoreの改良を基にしており、その結果に注目したい。Mac AppStoreがソフトウェア流通の中心地になれば、セキュリティ問題などに対する1つの「関所」として機能し、将来的には安全性を担保する根拠ともなり得るからだ。
個人的に最も興味を持ったのは、iOSデバイスとMacをタイトに連動させる「Continuity Camera」だ。このフレームワークを用いると、macOS側からiOSデバイスにリクエストしてカメラ機能をリモートで使うことができる。基調講演のデモではiPhoneで撮影した写真を直ちにMacで表示してKeynoteに挿入する以外にも、ドキュメントスキャナー代わりにiPhoneのカメラを用いてMacのKeynoteに書類の画像を挿入する例などが示された。
「Continuity Camera」のデモ。Macの近くにあるiPhoneやiPadで写真撮影を行うと、直ちにMacに表示できる。iPhoneのカメラで書類を撮影し、Macのドキュメントスキャナー代わりに使うことも可能
MacとiPhone・iPadは、それぞれ利用に適したフィールドが異なるデバイスだ。その「異なるフィールドの製品」が一体化して動作するとしたら、将来に向けて進化の「ヘッドルーム」も広がるだろう。今後、進化する方向性のスタート地点として注目したい。
関連記事
次期macOS「Mojave」は今秋リリース 「ダークモード」を搭載
山から砂漠へ。「iOS 12」発表 パフォーマンスの改善、自分の顔をアニ文字化、Siriのショートカットなど
Appleが「WWDC 2018」で「iOS 12」を発表。一般向けには2018年秋リリースする。パフォーマンスの改善、自分の顔でアニ文字を作成できる「Memoji」、Siriのショートカット機能、写真アプリの「For You」機能などが主なトピック。Appleが「watchOS 5」を今秋公開 ワークアウト機能や通知機能を強化 トランシーバー機能も追加
Apple WatchのOS「watch OS」が2018年秋にバージョンアップする。ワークアウト機能や通知機能の強化が行われる他、トランシーバー通話できる機能なども追加される。新iPadだけじゃない Appleが教育現場でGoogleと大きく違うこと
Appleはコンピュータシステムを用いたハードウェア製品の企業であり、Googleは検索エンジンをスタート地点にした広告事業の企業といえる。スマートフォンやテレビ向け端末などでも、そうした立ち位置の違いが垣間見えることが少なくないが、教育市場においては、さらに違いが明確になっている。「iPhone X」に毎日触って納得したこと ホームボタン廃止は全く問題なし
2017年11月3日、ついに「iPhone X」が発売された。既に関連記事が出尽くした感もあるが、毎日使ってみて「なるほど」と納得する部分もある。iPhone 8は本当に保守的すぎるのか Apple Watch Series 3と使って得た結論
毎年恒例の新製品発表会から発売を経て、「iPhone 8」のレビューは一通り出尽くした感がある。完成度が高い一方、保守的すぎるとの声も少なくないが、実際に「Apple Watch Series 3」と組み合わせて使ってみると、違った側面も見えてきた。「iPhone X」「iPhone 8」のどちらを選ぶべきか 実機で感じた決定的な違い
米国の発表会で「iPhone X」と「iPhone 8」に触れた印象を振り返りながら、Appleが進もうとしている方向性について考える。Apple新モデルで「MacBook」と「21.5インチiMac」を推す理由
米Appleの開発者会議「WWDC 2017」で発表された多数のMac新モデル。個人的に気になったのは、全くの新シリーズではなく……。新MacBook Proが得たものと失ったもの
長らく変更のなかった「MacBook Pro」がついに刷新された。基本スペックはもちろん、キーボード周りやコネクタの構成も大きく変わっており、それらの影響を考える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.