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狙いはIntel Macの一掃か Appleが「M3チップ」ファミリーで描く戦略本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

Appleが11月7日から順次、「Apple M3チップファミリー」を搭載する新型Macを発売する。そのラインアップからは「Intel Macの一掃」という意思が伺える。M3チップファミリーのラインアップと、新型Macの布陣について考察していこう。

新ラインアップの目的は「Intel Macの一掃」 そして「その先」へ

 先述の通り、新しいMacBook ProにはM3 Pro/M3 Maxチップモデルには「スペースブラック」という新色が登場する。指紋が付きにくい新しい表面処理も施されているが(これはシルバーも同様)、メカニカルなハードウェアの設計は大きく変わっていない。設計に大きな変化がないことは、iMacも同様だ。

 搭載されているディスプレイも変わりないので、新しいラインアップで変わったポイントはM3チップファミリーがもたらすパフォーマンスということになる。


MacBook ProのM3 Pro/M3 Maxモデルに追加された新色「スペースグレイ」

iMacは従来と同じく7色展開となる(ポートの少ないモデルが4色となるのも同様)

 Appleの場合、自社のシステムに合わせてSoCの設計を行っている。そのため、Webの製品情報ページで紹介されている各種アプリの「性能向上」アピールが、Apple自身の目指す所であるともいえる。先述のSoC間のスペックバランスの変化も、マシンごとに想定アプリが定まったゆえのことだろう。

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 Apple Siliconは、M1、M2と確実に性能や機能の拡充を行ってきた。M3チップファミリーでは、Media Engineに改良が加えられ、AV1コーデックのデコードに対応した。消費電力当たりのパフォーマンス(いわゆる「ワッパ」)も改善しているという。

 M3チップファミリーのTDP(熱設計電力)は、M1/M2チップファミリーから据え置かれているというが、CPUコアとGPUコアのバランスに変化が加えられている。その変化具合を含めて、今後実機をテストしていこうと考えている。


M3チップのCPUコアのワッパは、競合のCore i7-1360Pもちろんのこと、自社のM2チップよりも優れているという

ワッパの優秀さは、GPUコアでも同様だ

 一方、現在の情報から分かる範囲で興味を持ったのが、14インチMacBook ProとiMacへのM3チップの搭載である。

 今回の新モデルの発表イベントでは、新モデルが「Intel Macからの乗り換えに最適」という発言が何度かあった。その“乗り換え”を促進するために生まれたのが、14インチMacBook ProのM3チップモデルと、M3チップ搭載のiMacだと思うからだ。

 Appleは、iPhoneやiPadと同様にMac(macOS)でも自社開発のNeural Engine、Media Engine、ISPなどを使ってほしいと考えている。しかし、Intel Macの場合、一番新しいモデルでも「Apple T2 Securityチップ」に統合されたISPやオーディオコントローラーなどを使うしかない。

 T2チップにおけるこれらの機能のパフォーマンスは、iPhone 7世代の「A10 Fusionチップ」と同等だ。昨今のアプリの要求にかなうものかというと、そうではない。

 T2 Securityチップを搭載するIntel Macでは、半導体から信号処理、それを応用するOSの機能やアプリ開発向けライブラリーまで統合した“付加価値”を享受できない。Appleとしては、このような状況を打破したいと考えているはずだ。


Apple T2 Securityチップの主目的は、その名の通りシステムセキュリティーの確保だが、A10 Fusionチップ相当のISPやオーディオコントローラーなどを備えている

 M3チップを搭載する14インチMacBook Proは、高負荷時も安心して使える(パフォーマンスを引き出せる)冷却ファン、バッテリー容量の大きさ(と駆動時間)、接続インタフェースの豊富さ、そして機構設計の巧みさを求めるユーザーに対する選択肢として用意したのだろう。お役御免となったTouch Bar搭載の「13インチMacBook Pro」の代替モデルとしての目的もある。

 この新しい14インチMacBook ProのM3チップモデルは「1599ドルから」というプライスを掲げている。13インチMacBook Proと比べると200ドルほど値上がりしているが、14インチモデルとしては従来よりも400ドル安く買えるようになった。

 Intel Mac時代から使っている設計(ボディー)に別れを告げて、Apple Siliconに来て下さい――そういうメッセージが込められているような気がする。


14インチMacBook ProのM3モデルは、従来モデル比で400ドル安く買える

 他方、液晶一体型のiMacを長く愛用しているユーザーに対しては、M3チップ搭載の新しいiMacでアプローチしている。

 ハードウェアの基本設計はM1搭載モデルと変わらないが、4.5K解像度(4480×2520ピクセル)の約24型Retinaディスプレイ、1080p FaceTime HDカメラ、それにスタジオ品質のマイクや空間オーディオ対応のスピーカー(6基)など、元々「21.5インチiMac(2019年モデル)」からの置き換えには十分な“素養”を備えていた(思えばこのモデル、Touch ID付きキーボードを付属した初めてiMacだった)。

 そこにM3モデルを投入する意図は、21.5インチiMacだけでなく、2020年モデルまでの「27インチiMac」ユーザーのうち、比較的カジュアルな使い方をしているユーザーに対して乗り換えを訴求するためと見る。

 27インチiMacには、高性能なCPUと独立GPUチップを搭載する製品もあった。そうしたユーザーのうち「iMac Pro」的な高性能を求めるユーザーには、既に「Mac Studio」と「Studio Display」の組み合わせという“解”が用意されている。ディスプレイ側にイメージ処理とオーディオ処理を行うチップを搭載することで、iMacが提供していた「一体型ならではの統合された体験」を提供できる。


ハイスペックを求めるiMacユーザーには、Mac Studio(あるいはM2 Proチップ搭載の「Mac mini」)とStudio Displayという組み合わせた選択肢が用意されている。しかし、カジュアルなユーザー向けの“決定的な”選択肢はなかった

 しかし、この組み合わせは高性能/高品位を志向するユーザー向けのソリューションだ。もう少しカジュアルで、しかしM1チップ搭載iMacでは受け止めきれない27インチiMacのユーザーニーズを満たすために生まれたのが、今回のM3チップ搭載iMacなのではないだろうか。

 画面サイズは及ばないが、解像度の面では4.5Kでカラーバリエーションも多い。米ドルベースなら、価格を据え置いている。円安の影響を受ける日本市場以外では、大幅な性能向上に対してリーズナブルな印象が持たれているに違いない。


画面サイズこそ少し小さくなるが、M3チップ搭載のiMacは、Intel CPUを備える27インチiMacからのリプレースに相応しいスペックを備えている

 だが、ここは日本。そしてもはや円安は定着し“当たり前”となりつつある。海外製品の価格感は以前と比べて割高な印象もあるが、今後はこれが“標準”と考えねばならない。

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