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“後出し”の生成AI「Apple Intelligence」がAppleの製品力を高める理由本田雅一のクロスオーバーデジタル(5/5 ページ)

生成AIにおいて出遅れを指摘されているAppleが、開発者向けイベントに合わせて「Apple Intelligence」を発表した。数ある生成AIとは異なり、あくまでも「Apple製品を使いやすくする」というアプローチが特徴だ。

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GoogleやOpenAIの生成AIサーバとは競合しない?

 Apple Intelligenceは、良くも悪くもハードウェアとソフトウェア(OS)を一貫して提供できるAppleだからこそできる生成AIだ。

 他社がクラウドだけで同様の機能を実現しようとしたら、用いるクラウドサービスを1つの会社のものに統一するか、異なるクラウドサービス間で個人情報を含むデータを連携(共有)させる仕組みを導入しなければならない。しかし昨今は、「クラウドサーバ上に個人情報を置くだけでも危険」という風潮もあるだけに、クラウド間連携による生成AI実装はハードルが非常に高いだおろう。

 繰り返しだが、Apple IntelligenceはAppleだからこそできる生成AIなのだ。

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ハードウェアとソフトウェアを一貫して提供しているAppleならではのAIといえる

 しかし、Apple Intelligenceは他社の生成AIとは競合しないと筆者は考えている。どうしてなのか。

 まず、Apple Intelligenceは、あくまでも製品の使いやすさや機能性を高めるための存在だ。汎用(はんよう)性の高いAI(いわゆる「AGI」)を実現するための競争に加わった訳ではない。あるいは、LLMの大規模化を進めて、AIに人間みたいな振る舞いをさせるためでもない。

 そうしたことを試したい人向けに、AppleはSiriを通して外部のLLMに質問できる仕組みも用意している。具体的にはOpenAIと連携し、Siriから「ChatGPT」をシームレスに呼び出せるようにしている。

 LLMには、医療関係の情報に詳しいものもあれば、法律に詳しいものもある。PCにおけるブラウザエンジンの切り替えと同じように、必要に応じて好きなモデルを選べばいいのだ。

 繰り返しになるが、Appleはデバイスのメーカーである。 デバイスの価値を高めるために言語モデルを開発したわけであって、その先は自由にユーザが選ぶべき――そういう発想に基づいている。


外部の生成AIを使いたい場合は、Siriから「ChatGPT」を呼び出せるようになっている

 唯一、Apple Intelligenceと競合しそうなのが、Microsoftが「Copilot+ PC(新しいAI PC)」向けに実装する予定の小規模言語モデル「Phi Silica」くらいだろう。ただ、Apple IntelligenceとPhi Silicaには大きな違いもある。

 Apple Intelligenceのオンデバイス言語モデルは、約30億パラメーターであることが公表されている。Phi Silicaの約33億パラメーターと比べるとやや小規模だが、Appleは「テストでより良い成績を挙げている」と主張している。

 違いはパラメーターの数よりも、むしろ処理方法にある。「オンデバイスではあふれてしまう処理を、クラウドに投げてしまおう」という発想は、Phi Silicaにはない。


Microsoftは、Copilot+PC向けに小規模ローカルAIモデル「Phi Silica」を開発した。API経由でアプリから呼び出せることはApple Intelligenceと同様だが、あふれた処理をクラウドに流すという実装はしていない

当初は「米国英語」のみ 「日本語」はいつサポートされるのか?

 Apple Intelligenceは、2024年秋に製品版がリリースされる「iOS 18」「iPadOS 18」「macOS Sequoia」において実装される。

 ただし、Appleは利用できるデバイスを制限しているため、上記のOSが稼働する全てのiPhone、iPadやMacでApple Intelligence使えるわけではない。また、上記OSの開発者向けβ版は既に配信が始まっているものの、現状のβ版にはApple Intelligenceが実装されていない

 さらにいうと、Apple Intelligenceの正式実装は2024年末予定で、その時点では言語は米国英語のみをサポートする見通しだ。他の主要言語への対応は、2025年以降となる。「主要言語」には日本語も含まれているものと思われるが、具体的な時期は明らかになっていない。この機能を日本国内で提供するためには、日本国内あるいは比較的近い外国にデータセンターを置く必要があると思われるが、その計画についても不明だ。

 Appleは今後、継続的に新しいAI機能を開発し、Apple Intelligenceに追加していくという。また、ChatGPT以外の外部生成AIとの連携機能の開発も進めていくという。

 果たしてApple Intelligenceは受け入れられるのか――今後の展開に注目だ。


Apple Intelligenceは「AI for the rest of us(残りの私たちのためのAI)」だという。果たして、このキャッチコピー通りに誰1人も取り残さない生成AIとなれるのかどうか、注目したい
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