神棚職人が本気で作った「推し壇」はなぜ受け入れられた? はせがわに聞く“宗教×推し活”の親和性:古田雄介のデステック探訪(2/3 ページ)
仏壇や神棚の販売で一世紀の歴史があるはせがわは、推しグッズを祭るための飾り棚「推し壇(おしだん)」も手がけている。一見ギョッとする取り組みだが、2023年10月の発売から安定した支持を得ているという。これもまたデステックだ。
“社内チャレンジ企画”から生まれた
推し壇は、当時入社2年目だった女性社員の発案から生まれた。同社には所属やキャリアを問わず経営陣に商品企画などをプレゼンする“チャレンジ企画”という取り組みがあり、そこで熱い思いをぶつけて採用に至ったという。
その社員は既に退職しているが、当時のやりとりを企画総務部の小林知世さんはこう振り返る。
「(その社員には)推しがいまして。推しは自分を支えてくれる存在であり、そのアクスタやぬいぐるみなどのグッズを大切に扱いたい思いは、当社の使命である『心の平和と生きる力を実現する』につながるはずだと。亡くなったご家族やご先祖さまのように手を合わせる対象ではないかもしれないけれど、きれいに丁寧に祭りたい。それを支える製品が弊社なら作れるし、作りたいのだと熱弁していました」(小林さん、以下同)
経営陣は50~60代の男性が中心だ。まずは推しという概念を理解し、界隈におけるアクスタ(アクリルスタンド)の位置付けをつかんでもらうところから始める必要があった。それにもかかわらず、反対意見は出なかった。
「やはり危機感があり、そのためのチャレンジ企画という面もありますから」
同社が、長谷川仏具店として福岡県で創業したのは1929年だ。高度成長期に法人化し、半世紀前に現在の社名に変更した。それから関東や中部地方に進出し、1997年には墓石事業にも本格的に乗り出している。
現在もM&Aによりグループを拡大して事業を広げているが、同時に供養関連の商品だけでは成長が厳しくなっている現実と長年向き合い続けてもいる。
国内の年間死亡者数は、1980年代から漸増している。その一方で、1990年代頃から葬儀や法要の縮小化が進んでおり、仏間の一面を全て使うような高価で大きな仏壇は敬遠されるようになって久しい。
同社の個人投資家向け説明会の資料でも、宗教用具の市場規模は右肩下がりを続けること、それによって競合他社とのシェア争いが激化する流れがはっきりと予測されている。
従来の事業も大切にしていきたい。けれど、これまでにない何かを育てていかなければ持続的な成長は見込めない。その成長の種の1つが推し壇だったというわけだ。
世間からの批判も少なめだった
ただ、“新風”を求めるのは会社側の都合でしかない。世間からはある程度の反感や批判が届くことを覚悟していた。しかし、そちらの声も想像よりずっと少なかったという。
「お仏壇や神棚などの文化に対して失礼ではないかというご意見は、確かにいただきました。ただ、全体としては『面白い商品を出しているね』といったように、好意的に受け取ってくださる方が多く、ホッと胸をなで下ろしました。率直にありがたかったです」
リリース直後から注目を集めていたのは冒頭に触れた通りで、売れ行きにしても急きょ増産体制を整える必要が出るほどだったという。推し壇も一部の店舗で陳列しているが、これまでの販売実績の約半数はオンラインショップが占める。購入層の詳細は不明ながら、SNSでの反応を見る限り、これまでの同社の購入層よりずいぶん若い人に響いていると推察される。
仏壇や神棚を求める従来の顧客は50~60代の男女が中心だ。近隣の店舗を家族で訪ねて品定めするのが通常のパターンとなる。販路も関心を持つ層も異なる可能性が高く、それがミスマッチによる反感を抑えたのかもしれない。
さらに、仏壇仏具のトレンドの変化が追い風となっている可能性もある。
昭和の昔、金物の飾りをふんだんにちりばめた大型の金仏壇を仏間に置く家が多くあった。しかし、平成から令和にかけての売れ筋は、リビングに置けるコンパクトで装飾を控えめにしたモダンなタイプだ。同社の仏壇の売れ行きでは、後者のタイプが8割を占める。
本来の仏壇は各宗派の本尊を祭るものだが、本尊も位牌もなく、故人の遺影と小さな骨つぼだけを置く人も珍しくないそうだ。供養の場ではあるが、必ずしも伝統的な宗教の様式は求めない。そうした世間の意識の変化が経営陣に危機感を抱かせると同時に、推し壇を許容する空気を助けたのかもしれない。
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