Leopardへの助走――Mac OS Xの誕生からTigerまで:林信行の「Leopard」に続く道 第6回(4/4 ページ)
2007年10月22日、アップルの時価総額がIBMを抜いた。10年前に誰がこんな事態を想像しただろうか。アップルにとっての21世紀、それは革命の始まりだった。
Tigerで振り出しへ
「Mac OS X 10.4 “Tiger”」のリリースは、それから1年半後の2005年4月29日だった。その特徴を挙げていくと、「Dashboard」機能や検索機能の「Spotlight」に加えて、画像表示ソフトの開発に便利な「CoreImage」と動画に便利な「CoreVideo」、データの扱いに便利な「CoreData」といったAPIを搭載するなど、開発者がそれらの技術を利用して初めて見えてくる新機能も多かった。
このTigerは、その後2年半にわたってメジャーアップデートが行なわれない、かなり長寿のOSになったが、これには理由がある。
実はこの2年半の間に、アップルは1つの大きな変革を行っている。それはMacのアーキテクチャの刷新だ。自ら開発にも関わったCPUであるPowerPCを捨て去り、インテルCPUへの移行を決意したのだ。
両CPUの構造は大きく異なり、とても簡単に移行ができるものではない。しかしアップルは、まるでMC68000からPowerPCへの移行の時のように、再び軽々とやってのけた。
このアクロバットには2つのヒミツがある。1つはご存じの通り、RosettaというCPU命令の逐次翻訳機能を手に入れたことだ。
そしてもう1つのヒミツ、それはアップルが社内で秘密裏にインテル版Mac OS Xを作り続けていたことにある。
OPENSTEP for Machは、もともとインテルCPUで動いていた。当然、初期のRhapsodyにはPowerPC版に加えてインテル版が用意されていたが、実はそれ以後も公開していなかっただけで、アップルはMac OS Xの各バージョンでインテル版の開発を続けていたのだ。
MacがインテルCPUへ移行する頃には、それまでのMacユーザーだけでなく、UNIXユーザーやiPodユーザーをも引き付けた巨大なプラットフォームに成長した。そしていまやClassic環境も用済みとなりつつある(Classic環境維持とインテル版Mac OS Xの進化を天秤にかければ、後者のほうが費用対効果が圧倒的に高い)。
ここでCarbon技術が移行への足かせとなったが、アップルはこのCarbonアプリケーションのインテルCPU移行をスムーズにするために、Xcodeという極めてよくできた開発環境を無償で提供していた。こうして長い紆余曲折を経て、Mac OS Xはより純粋な形でのOPENSTEPの進化形にその姿を変えていったのだ。
ただし、OPENSTEPの焦点が企業だったのとは違い、Mac OS Xの目は常に同じ2001年に発表されたデジタルライフスタイル戦略を見据えていた。
2007年1月、アップルはデジタルライフスタイルカンパニーとして社名を変更し、Mac OS Xを携帯電話や、リビングTV用のApple TV、iPodにも広げていく。そして2007年10月26日、LeopardをMac新時代のスタート地点として着地させたのだ。
エピローグ:歴史を明日へつなげよう
ここまで数回にわたって掲載したMac OSの物語、「理想と現実のギャップにあえいだ黎明期のMac O」から始まり、前編/中編/後編に分けてなお、とうてい語り尽くせなかった「System 7で幕をあけた激動の1990年代」には、画像があまり用意できなかったにも関わらず、大きな反響をいただいた。
それぞれの記事の右上に並んでいる「+Bソーシャルブックマーク」というアイコンをクリックしてもらうと、「はてなブックマーク」のコメントとして同じ時代を体験した方々の意見が多数書き込まれている。
テクノラティなどのブログ検索で、これらの記事のタイトルで検索をしてみると、同じ時代の自分の体験を語っている人を大勢見かける。
これをきっかけにアップルやMac OS Xの歴史に興味を持った方は、ぜひ「Macテクノロジー研究所」や、soraeの連載「ジョブズ・アンド・カンパニー」、小説家の三浦しをんさんなどを輩出したboiledeggs.comの「Apple ここだけの話」、さらには拙著の「アップル・コンフィデンシャル2.5J」(アスペクト刊)なども参考にしてほしい。
そしてこの時代を知る人、情報を持っている人は、ぜひエキサイトの「エキサイトism Appleウィキ」の編集に加わってほしいと思う。
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