「家電を買って明るい農村!」政策でPCが売れる?:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)
金融危機で沿岸部の富裕層が損をして、農村は「なにそれ?」であっても、貧富の差が“超えられない壁”の中国で、格差是正政策が進んでいるとかいないとか。
農村で家電特需はありえるのか?
以前紹介した中国農村のIT事情(こちらとこちら)で紹介したのは、内陸部にある山奥の村だった。一番近い町もバスで数時間とか、そもそも長距離バスが走るところまで乗り合いトラックで山道を走るとか、そんな世界だ。上海、北京はもちろんのこと、その村が属している省の省都に行ったことがある人すらごく限られている。
省都に行くのがひと苦労なこの村でPCを買うとしたら、近くの大きな町にある数少ないPCショップを利用することになる。そういう町にあるPCショップを紹介した記事で述べたように、そういう町には、レノボの代理店、HPの代理店、そしてPCを組んでくれるPCショップの3店しかない。筆者が過去に訪れたことのある地方の町でも、存在を確認できたのは、レノボの代理店とPCパーツショップ程度だ。
PCの流通事情がこういう状況になるので、PCメーカーがいくら家電下郷政策に合わせて専用モデルを用意したところで、中国全土に代理店と販売網を整備しない限り、内陸部にある農村住民には、商品の存在すら知ってもらえないことになる。
一方で、人口が集中する中国東部の沿岸地域から中部内陸部にいたる、その多くの土地が平地で占められるエリアでは、道路網が山間部より整備されているおかげで省都へも短時間で行ける。省都まで行かずとも、2番手3番手の街でも、そこにある電脳街では「どれにしようか」と迷うほどのPCが用意されている。このように、“農村”といっても、その環境は山間部と平野部で違う。
PCより必要なものがいくらでもある
では、大都市に行ける農村住民なら家電下郷政策がきっかけとなってPCを購入するのかというと、そう単純ではない。なぜなら、農村住民のほとんどは、家電を「新規に購入する」段階にあるからだ。加えて、都市部や農村部に関係なく、コストパフォーマンスを最も重視する中国人の気質も忘れてはならない。依然としてコンテンツが“ほぼ無料”で入手できる中国では、ハードウェアの価格がコストパフォーマンスを決定する(ここでいうパフォーマンスとは、“そのハードウェアで再生できるコンテンツがどれだけたくさんあるか”、であることに注意)。そのため、所得の低い農村部では、VCD/DVDプレーヤー、携帯プレーヤー、そして、最近では「山寨機」と呼ばれる携帯電話などの価格の安いハードウェアが主に普及している。
PCにしても、コストパフォーマンス(こちらは、価格とスペックを比較した場合の意味)が高いショップブランドPCのユーザーは、メーカー製PCのユーザーに比べて多い。家電下郷政策で新規にPCを購入しようという農村住民なら、やはり、ショップブランドのタワー型PCを選ぶだろう。同じ価格なのにディスプレイのサイズは小さくて搭載しているCPUの動作クロックは低く、内蔵するメモリやHDDの容量が少ないノートPCは、中国人から「コストパフォーマンスが低い」と評価されるので、購入の選択肢からは外れてしまう可能性が高い。価格が安いNetbookにしても、中国人のPC利用目的の多くがDVD-Videoの視聴であるため、ワンスピンドルでは選んでもらえない。
しかし、そういうことよりも、農村住民に必要なのがPCでなく「携帯電話」であることが肝心であったりする。携帯電話がないと都市部へ出稼ぎに行っても仕事が見つからないのだ。次に大事なのが「バイクか車」で、これがないと広大な農村では移動すらできない。「テレビとDVD」の優先順位はその次ぐらいにやっとくる。それもコストパフォーマンスの高い「山寨液晶電視」を選ぶだろう。
「白物家電」に必要性はこれらに比べるとかなり低くなる。野菜も肉も豆腐も魚も肉まんも、近所の青空市場でいつでも購入できるから冷蔵庫はそれほど必要ではない。エアコンも、寒ければ燃やして暖を取るし、酷暑でも日陰は涼しい乾燥した中国の内陸部ではクーラーも必要とされていない。
農村で家電を安く購入できるようにする家電下郷政策は、所得が低くて購入することすらできなかった農村住民にとって悪いものではない。しかし、「上に政策があれば下に対策がある」という中国では、家電下郷に登録した店舗であっても、「安価な家電下郷対象モデルは薄利だから販売しなくない」というのが本心だ。農村住民が家電のことを何も知らないことをいいことに、不当に価格を上げて販売したという話も関係者から聞いている。家電の普及を促進して農村の生活を向上させる、とは単純にいかないようだ。
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