口コミレビューで“なかったこと”にする方法:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
「Kobo Touch」で製品以上に話題となった口コミレビューの“非表示”対応。その是非はともかく、この種の問題でメーカーができる対応に何があるのだろうか。
かなりの大技だが効果は絶大「製品型番変更」
レビュー工作とはまったく別のアプローチで、過去の低評価レビューを目立たなくさせる方法がある。ほかでもない、低い評価となった製品の型番そのものを変更してしまう方法だ。口コミWebサイトの多くは、製品の型番ごとにレビューページを用意しており、新しい製品が登場したら新しいレビューページを設ける。これを利用して、製品の型番を変更することで、低評価がついた従来のレビューページを放棄し、まっさらな新しいレビューページでやり直す。
これはかなりの大技に見えるが、それほど難易度は高くない。新たに型番を用意して、JANコードを取得するまでの手続きは簡単だ。在庫分の説明書やパッケージの差し替えは、新規に作業が発生するが、シールなどで修正できるし、その作業自体を外注先に投げてしまう手もある。部材の在庫が少なければ、破棄してもそれほどロスにはならない。カタログや販促物も同様だ。
製品本体に変更を加えないのに型番を変えられることを不思議に思ったユーザーもいるだろう。実際のところ、製品そのものにまったく変更がないのに新モデルとして販売しているケースは少なくない。要因こそ異なるが、2011年のタイ洪水で一部のPC周辺機器が値上げを行なったときも、同じモデルながら新しい型番への差し替えが行われた。「中身は同じなのに型番だけ新しくするのは、いかがのものか」という意見が聞こえてきたら、新しいファームウェアを導入したモデルを新しい型番とし、旧式ファームウェアのモデルと区別した、とでもしておけばよい。
一般的に型番が変わるといえば、製品に大きな変更を加えたと解釈することが多いので、型番変更後の製品をユーザーが別の新製品として新たに評価する可能性は高い。そんなわけで、ファームウェアをアップデートして機能を一新したのに、過去の低評価レビューがいつまでも影響して売上が伸びない場合には、型番ごと変える対応はかなり有効だ。特に、ライフサイクルが長い製品であれば、早めに手を打つことにより、初期の低評価を払拭できる。
ただ、製品本体に型番をシールではなくシルク印刷している製品になると、新しい型番のシールを貼り直して済ませるのはさすがに難しい。逆にいうと、このような状態を見越して型番を本体に直接印刷せず、いつでも差し替えられるようにしておくのが、メーカーが長年の経験で得たノウハウでもある。また、通信機器の場合は技適マークなどの技術規格を取り直さなくてはいけないため、手間もかかれば費用もかかる。さらに、国内だけで販売している製品ならまだしも、世界的に展開しているような製品であれば、一国だけの判断で勝手なことはできない。流通ルートが広ければ広いほど難しい方法だといえる。
現実的な対応策は「カラーバリエーションの追加」
型番変更より現実的な対応策となるのが、カラーバリエーションの拡大を装って、問題のあった製品を終息する方法だ。
例えば、現在のカラーバリエーションが「ホワイト」「ブラック」で、これらに対して低評価のレビューが大量発生している場合、別の名称、例えば「パールホワイト」「マットブラック」といった同一セグメントの製品を投入し、それに合わせて「ホワイト」「ブラック」を廃盤にしてしまう。変更するのは色の呼称だけで、実際の色はまったく同じでも構わない。
こうすれば、口コミWebサイトは、「パールホワイト」「マットブラック」のレビューページを新たに用意するので、低い評価は事実上“なかったこと”にできる。カラーを示す末尾の文字を除いた型番本体は従来と変わらないので、型番まるごと変更する場合と異なりパッケージ変更などの手間は最小限で済むし、技術規格などを取得し直す必要もない。店頭の在庫は若干の値引きして売り切ってしまうか、あるいは返品してから新しいカラーバリエーションモデルとして再投入してもよい。本体に大きく「ホワイト」などと表記することはないので、変更するのはせいぜいパッケージ程度、あとは販促物レベルで済む。
「同じ色で入れ替えでは、いくらなんでも露骨です」というのであれば、同じタイミングで新色の「シルバー」でも投入しておけば、いかにもカラーバリエーションの統廃合に伴って従来のカラーモデルが終息したように装える。費用対効果を考慮すると、型番そのものを変更するのに比べて現実的な方法だ。カラーバリエーションではなく、搭載するメモリの容量を変えたモデルを投入する方法も、この亜流に相当する。
ただ、口コミWebサイトの中には、こうしたカラーバリエーションごとではなく、すべての色をまとめたレビューページを用意している場合も多い。価格.comや、一部のAmazonページが、これにあたる。こうした口コミWebサイトでこの手法は効果がない。
状況の深刻さや不具合修正のレベルに応じて、使い分けられるだけの対応策を用意して実行に移し、悪い評価がなるべく表に出ないようにすることも、メーカーに求められるノウハウだ(その手法の是非は以下同文)。そういう意味で、Kobo Touchの事案は、こうしたケースにおける“メーカーとしての”経験値の低さと余裕のなさを露呈したといえるのかもしれない。
関連キーワード
レビュー | 評価 | 口コミ | カラーバリエーション | 投稿 | 楽天 | Kobo | Kobo Touch | ステルスマーケティング | モデルチェンジ | 周辺機器 | マーケティング | 牧ノブユキの「ワークアラウンド」
関連記事
- 「初回ロット即完売」に釣られる
「初回ロット即完売」「初回入荷分が即日完売」といったフレーズで売れ行きが好調と判断するのは早計だ。ええ! どうして! だってお店にぜんぜんないじゃん! - 「新しいiPad」で混乱して困惑する人々
誰もが驚いた「新しいiPad」という名前。アップルがこの名称に込めた狙いとは? そして、最も困惑しているのは、ユーザーではなく意外な彼らだったりするという。 - あのPCと“そっくり色”のマウスを作れ!って簡単にいうな
「PC本体と色が似ているほど売れる」とはPC周辺機器業界の常識。“超人気”PCとそっくりの色を作るために、PCの新製品出荷直後からアナログな苦闘が始まる。 - 目標出荷台数で全員不幸!
新製品発表で景気のいい目標値が飛び出すとき、その販売実績で桁違いといってもいいほどのズレが明らかになることが少なくない。この見込み違いはなぜ起きる? - “やりたくないのにやらされる”フルモデルチェンジ!
新製品のボディデザインが思いっきり変わると、いかにも進化したように感じる……が。この変更には、メーカーの思惑がめちゃくちゃ絡んでいたりする。 - “あの製品”がトップの座を明け渡したわけ
それにつけても「ランキング」は面白い。昔から定番のニュースネタだ。今回は、そのランキングに“踊らされる人”と“躍らせる人”のせめぎ合いを観察する。 - 「白箱」で分かるファームウェア更新の甘い罠
デザインを必要最小限にしたエコなパッケージ。いいですねえ、環境のことを大事にしていますね。え、なに? ちょっと違う? ……いやだ、だいぶ違うじゃない。 - “当て馬”マウスと“本命”マウス
量販店の陳列棚に膨大な数のマウスが並ぶ。よく見れば同じメーカーがほぼ同じ仕様の“競合”モデルを投入していたりする。なんでこんな無駄なことをするの? - 不良品は闇に消えゆく
「不良品を修理に出したら新品になって返ってきた。ラッキー」と喜んでいる人がいる。しかし、その理由を知ったとき、喜んでいる場合ではないことが分かる。 - “口コミ”サイトに“自家製”レビューが潜んでいる
製品の宣伝といえば、これまでなら広告で事足りるケースが多かった。しかし、“口コミ”の発達で製品評価の新しい“制御術”が発達しつつあるというお話。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.