「Apple Watch Series 4」を試して分かった“iPhone以上の大進化”:本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/4 ページ)
「XS」「XS Max」「XR」といったiPhoneの新モデルに注目が集まっているが、実は最も進化し、今後われわれの生活を大きく変えていく可能性があるのは「Apple Watch」なのかもしれない。そう予感させる新モデル「Series 4」を発売前に試したレポートをお届けする。
ヘルスケアとメディカルの間をつなぐ存在に
機能的な面をいえば、Apple Watch Series 4にECG(心電図)を計測する機能が追加されたことは大きなトピックだ。裏面に配置された電極が手首の皮膚と接触し、反対の腕を伸ばしてDigital Crownに指先を載せると、身体の中の微弱な信号を読み取って心臓の動きを捉える。
同様のソリューションは他社のウェアラブルデバイスにもあるが、Apple Watch Series 4の優位性は、既に米国食品医薬品局(FDA)からの認可を得ている点が大きい。
心臓疾患を抱える患者が不調を訴えて病院に行ったとしても、必ず病院内で発作が現れるわけではない。心電図を取っても異常を把握できない場合も多いそうだが、異常を感じたとき、自ら身に付けているApple WatchでECGを計測(30秒間計測)しておけば、心電図レポートとしてアプリ内でまとめてくれる。
その後、メディカルIDに登録した医者や連絡先に電話やSMSを送るなり、あるいはPDF化された心電図レポートを送ることで、専門医のアドバイスを受けることが可能になる。
現時点において認可が取れているのはFDAのみであるため、残念ながら米国以外の日本を含む地域では利用できないが、ハードウェアとしてはどのApple Watch Series 4モデルにも実装済みだ。ユーザーが米国での利用者だと確認できればECGアプリが有効となり、また各国での認可が降り次第、その国のユーザーに開放される予定だ。
なお、ECGアプリが有効になる条件についてAppleは公表していないが、一つ明らかなのは購入した国には依存しないこと。すなわち、米国で購入したからといって日本でECGアプリが使えるようになるわけではないことに注意してほしい。
ECGセンサーと心電図作成、専門医との連絡など一連のプロトコルをアプリとしてまとめたのは代表的な例だが、Appleは他にもヘルスケアと医療の間をつなぐソリューションをApple Watchに盛り込んだ。
Apple Watch Series 4では内蔵するジャイロのダイナミックレンジが向上し、加速度センサーの感度も8倍向上した。この精度の向上はワークアウトの検出精度や動きのより正確な追跡にも役立つが、最も役立っているのが転倒検出だ。
誰にだって、さまざまな理由で転倒し、あるいはどこかに落ちてしまう、階段や急坂を転げるなどでけがをし、動けなくなるリスクはある。老人であればなおさらだろう。
残念ながら“意識して自ら転倒しても検出はされない”とのことで、本当に滑って転ぶなどの危険がなければ検出されないそうなのだが、80代の親を持つ身としてはヒシヒシとその必要性を感じている。
なぜなら多くの健康な老人は、自分が若いときと同じように元気であることを誇りとしている場合が多いからだ。健康ではなくなった時点で患者であり、患者になる前に予防的に“見守りデバイス”を身に付けてほしくとも、彼らはなかなか身に付けようとしてくれない。
しかしApple Watchのような、見守り用ではないウェアラブル機器であれば、装着してくれるのではないだろうか。
この他、常時心拍をモニターするApple Watchの特性を生かし、徐脈(心臓の鼓動が遅くなること)を検出し、危険な領域にまで脈拍が下がった際に利用者に通知し、またテキストメッセージや音声通話などを登録した連絡先に発信する機能も追加されている。
このように運動を促し、日常生活の習慣を改善することで健康をもたらすウェルネスの領域から、より積極的なヘルスケアへと進み、さらにはメディカル(医療)領域への橋渡しをしようとしていることが分かる。
将来はエッジAIの末端に位置する製品に?
さて、最後に少し視点を変えてみよう。
筆者は(まだずっと先の話になるだろうが)、いずれはApple WatchにもiPhoneのような「Neural Engine」が搭載されるのではと予想している。その際には「S12 Bionic」といった名前になるのだろうか。
荒唐無稽と思うかもしれないが、クラウドベースの電子メールで連絡を取り、スケジュールを共有しながら旅行の計画を立てているとき、まるで自分の休暇計画を知っているかのようにリゾートホテルや航空券の広告が届く、といったことを不快に思う消費者は一定以上にいるはずだ。
Appleは自社製品でクラウドAIを使うことに対し、常に否定的な態度を示してきた。クラウドを情報の保管庫や情報交換の場として活用はするが、事業モデルはあくまでも製品の販売に軸足を置いている。
watchOS 5では、通知に対してその場で何らかの応答、返信を行える仕組みが導入されており、その振る舞いによってその後の通知方法やアクションの優先順位なども変わるのだそうだが、その情報はApple Watch内に完結している。
“未来のApple Watch”が、ユーザーのバイタル(身体)データに最も近いコンピュータになっていくとき、クラウドAIとエッジAI(コンピューティングという観点でいうなら、分散と集中)のどちらに向かうのか。人間に近くなるほどプライバシーには敏感になるものだ。“人間が直接触れる製品”へのこだわりと消費者の距離感の取り方は、シリコンバレーのライバルとの大きな違いだと思う。
既にスマートウォッチ市場ではライバル不在と思えるほどの存在になっているApple Watchだが、このまま先頭を走り続けるのだろうか。本格派のライバル登場も望みたい。
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