最も華やかで最もモヤモヤする Apple M1搭載「iPad Pro」レビュー(2/5 ページ)
Apple M1やLiquid Retina XDRディスプレイ搭載、そして5G対応と盛りだくさんの新型iPad Proだが、実際のところはどうなのか。旧モデルとの比較を含めて検証する。
M1チップは事実上のA14X Bionicだが……
仕様について、もう少し掘り下げておきましょう。まずは一番の目玉のM1チップについてです。2020年、MacBookシリーズやMac miniにApple独自設計のSoCが採用され、高速性と省電力性が大きな話題になりました。そのチップが今回のiPad Proにはそのまま搭載されています。
でも思い返してみると、CPUコアやGPUコアの増やし方はA12 BionicとA12X Bionicの関係とそっくりで、A14 Bionicからの処理能力向上の仕方も似ています。
つまり、仮にA14X Bionicが作られていたら、だいたいこれくらいの性能だっただろうということです。逆に言うと、M1チップはA14X Bionic相当のプロセッサに、大容量メモリや外部インタフェースなど、PCが必要とする足回りを増強したものとも言えます。
一方で、M1チップは主に冷却ファンがあるMacに搭載されるものとして設計されたなりの、「限界の高さ」も持ち合わせています。CPU演算だけの条件でも、全コアをぶん回すと瞬間的にはシステム全体とはいえ30W前後の電力を飲み得る大出力ぶりです。
ファンレスのタブレットまでを想定していたと思われるA12X Bionicの頃に、どれくらいの電力になっていたかを測ることはできませんでしたが、タブレットが触っていて気持ち悪い程の高温にならないために、長時間の駆動では10W程度に丸める必要があるでしょう。
ですから、瞬発力でぶん回せるベンチマークの結果がMacと同じだからといって、その通りの性能向上が実用的に得られるかについては、ちょっと気を付けておいた方が良い気がしています(まあ快適だし余裕しゃくしゃくという使用感しかないので、気にしないのが正解かと思いますが)。
Liquid Retina XDRは品質の底上げよりもHDR対応のため
さて、2021年のiPad Proでもう1点の目玉は、12.9インチモデルのみに採用された、Liquid Retina XDRディスプレイがあります。これは基本的にはこれまで通りの液晶ディスプレイですが、従来では面全体を一括で照らしていたバックライトを細かく2500個以上のエリアに分け、それぞれを必要なだけ光らせるという動作になっています。
これで何が得られるのかというと、
- HDR映像に対応できる
- 暗い部分が多い表示では省電力が期待できる
- 締まった黒が表現できる
ですね。HDR映像が何か分からない人は、最近のスマホを持っているならばすぐ体験できるかもしれません。YouTubeアプリで「HDR Demo」などで検索して見つけた映像を全画面表示などで試して、「このきらめき方は普通じゃない」と感じたら、それです。
HDR映像の表現には、明るい部分では従来の最大輝度のさらに何倍もの高輝度に対応する必要があります。それを従来の液晶でやってしまうと、消費電力がとんでもないことになったり、黒浮きが激しくて見苦しい画面になってしまったりします。それを解決するためには暗い部分を無駄に光らせない必要があり、画素が自発光する有機ELか、液晶ならばバックライトを分割して休ませる技術が必要になります。
その副産物として、HDR映像を見ていない時も省電力になる場合があったり、黒い部分がよく締まって見えたりするわけですね。
一方で、良いことばかりでもありません。コスト/重量/サイズの増加、バックライトのエリア制御に伴うアーティファクト(視覚的な副作用)の問題があります。実際に価格は従来モデルから高く、わずかに重く、わずかに分厚くなっています。
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