Appleのイベントで感じたリアルとアナログの適度なバランス そして日本の存在感:WWDC22(2/3 ページ)
AppleのWWDC22がスタートした。2022年はオンラインだけでなく、一部の開発者やメディアなどが本社のApple Parkに招かれ、ハイブリッド形式で行われている。現地に飛んだ林信行氏が見たものとは?
WWDCで静かに存在感を放った日本企業
今回のWWDCでの発表内容は既に多くの記事で報じられている通りで、Apple TV用のtvOSを除く4プラットフォームの最新OSの詳細が発表された。
iPhoneの次期OSは「iOS 16」で、ロックスクリーンのパーソナライズや進化した集中モードなどが特徴だ。
iPadの次期OSは「iPadOS 16」で、パソコンに迫る複数アプリ同時利用での作業や、他の人と共同作業をする機能の強化などが行われている。
Apple Watch用の次期OSは「watchOS 9」だ。新しい文字盤や投薬の管理、レム睡眠など睡眠状態の認識などが特徴となり、まだまだ未知な部分が多い「眠り」の調査にも役立てられるという。
そして最新のmacOSは「macOS Ventura」となる。いくつかのウィンドウをセットにした作業環境を切り替えられる「Stage Manager」(ステージマネージャ)機能やビデオ会議でiPhoneをWebカメラ代わりに使える「Continuity Camera」(連係カメラ)機能が目玉となっている。
そして今回のWWDCのハードウェアの目玉が、Apple Siliconで2世代目のプロセッサとなる「Apple M2」の発表と、それを搭載した「MacBook Air」、「13インチMacBook Pro」の発表だった。
ただ、これらの分類からは外れるが、今回、1つのOS並みに大きな存在感を放っていたのがiOS機能の一部として紹介されたCarPlay機能だ。
従来の車載情報システムのディスプレイに加え、ステアリング(ハンドル)の奥のスピードメーターなどを含む計器類の表示など、車内の複数のディスプレイの表示をiPhoneが担うという提案だ。自分の好みに合わせてパーソナライズされたデジタル表示の計器類や、進化したAppleマップによるナビゲーション表示が目をひいた。
これまでCarPlayは、Appleマップによるナビゲーション表示と、音楽やオーディオブック、Podcastの再生、メールやメッセージの読み上げといったiPhone上のコンテンツの表示だけに機能が限定されていたが、新たに自動車のスピードやエンジンの回転数、エネルギー残量など車側の情報をiPhoneが取得して表示するという点で、これまでのCarPlayと比べて大きく進化している。
Appleが、自動車産業との関わりをさらに深める注目の取り組みではあるが、これまで大概、こういった新しい取り組みに対して日本メーカーは消極的なことが多かった。しかし、今回は違って、日産自動車や同社が日本国外で展開しているブランドのINFINITI(インフィニティ)、HONDA(本田技研工業)や同社がアメリカ合衆国/カナダ、中国などで展開している高級車ブランドのACURA(アキュラ)が、Ford、Lincoln、Mercedes-Benz、Jaguar、Land Rover、Audi、Volvo、Porscheと言った海外メーカーと一緒に名を連ねていた。
Appleと他社との共同の取り組みと言えば、スマート家電との連携を実現するAmazonやGoogleとも協力して進めている「Matter」という業界標準規格もある。
Appleは初期設定の簡単さなどで、既に定評のあったHomeKit技術の一部を開放して同規格に提供しているが、こちらもこれまで欧州や韓国企業が積極的に対応を進める中で、日本企業は蚊帳の外だったが、今回、京都発で日本らしい情報家電のあり方を模索しているベンチャー企業、mui Labが日本企業として初めて対応企業の中に名を連ねた。
mui Labは作為がなく、自然のままであることを指す「無為自然」という老子の言葉から取った社名で、海外では「Calm Technology & Design」を掲げる。これまでのテクノロジー製品のような「押し付けがましい」情報提示の方法ではなく、生活の中でさりげなくつつましい情報提示や、機器のタッチ操作を提供する木製パネル「muiボード」を作るメーカーで、WWDCと同時期にイタリアのミラノで開催中の世界最大となるデザインのイベント「ミラノデザインウィーク」にも出展し、静かな存在感で話題作りを行っている。
2つの国産自動車メーカーやmui Lab以外にも、WWDCではいくつかの日本企業が静かながら確かな存在感を示していた。
ちなみに日本企業の中で、1社だけ圧倒的な存在感を示していたのはゲームメーカーのカプコンだろう。WWDCは、Appleプラットフォーム向け製品を作る開発者のイベントで、開発者が真の主役だ。
通常、WWDCの基調講演では何人かの開発者がゲストとして登壇するが、今回現れたのはカプコン 先行技術研究チーム長の伊集院勝氏ただ1人だけで、字幕表示ができるハイブリッド講演(講演映像のパブリックビューイング)というスタイルを生かし、3分近くにわたって日本語でスピーチを行うと、会場からは喝采が沸き起こった。
スピーチは、2022年後半にリリースされるMac向けのバイオハザード ヴィレッジについてで、MacのグラフィックスAPI「Metal 3」(プロセッサの性能を最大限に生かしたグラフィック表現を後押しする技術)を活用することで、Apple Silicon搭載Mac上でゲーム専用機に負けない驚くべき映像表現が可能になると熱弁を振るった。
MacはApple Siliconのプロセッサ「Apple M1」登場以降、これまでにない勢いで売れ行きが伸びているが、その優れたグラフィック性能故にゲーミングPCと肩を並べる存在としても期待度が高まっているという。
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