「Mac Pro」並みの動画編集能力を持ち運べる! M2 Max搭載「16インチMacBook Pro」の実力を先行チェック:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/4 ページ)
Appleが2月3日に発売する新しい14インチ/16インチMacBook Proは、見た目が全く変わっていないものの、チップ(SoC)がM2 Pro/M2 Maxに変わっており、思った以上にパワーアップを遂げている。M2 Maxチップ搭載の16インチMacBook Proを先行して試してみた上で、インプレッションをお伝えしようと思う。
より進んだ「A15 Bionic」をベースとするM2チップファミリー
ベンチマークテストを通して、M2 Maxチップは予想通りに高性能であることが分かった。最も高性能な構成でも熱だれを気にしなくて良いということは、すなわち欲しい性能と使いたいアプリから、それに見合う性能のチップやモデルを選べるということでもある。
ということで、ここからはM2チップファミリー全体に視野を広げて、M1チップファミリーと比較しながらそのポートフォリオを眺めてみよう。
M2チップファミリーは、Mac向けApple Siliconとしては「第2世代」となる。初めての製品にして、ファミリーの基本となる「M2チップ」は、2022年7月に「13インチMacBook Pro」と「MacBook Air」に搭載される形でデビューを果たした。
新しいMac miniのエントリー構成はM2チップを搭載しているが、これら2つのモデルと基本性能に大きな差はないだろう。ただし、ボディーサイズに余裕がある分だけ、少なくともファンレスのMacBook Airよりもピーク性能は維持しやすいものと思われる。言い換えれば「M2チップの性能を余すところなく発揮できるデスクトップMac」といえる。
今後、M2チップ搭載のMac miniの評価が出そろえば、さらに増えるであろうM2チップ搭載Macの性能を推し量るのに役立つはずだ。
そしてこのM2チップを基本に、CPUコア、GPUコア、Media Engineの性能を向上し、CPUコアの最大クロックを200MHz引き上げたものが、今度登場したM2 ProチップとM2 Maxチップである。
M1チップファミリーの同等品と比較した場合、M2チップファミリーはSoCを構成しているコア数やコンポーネントの基数やプロセスにも違いがある。
半導体の設計は、利用する製造プロセスに合わせて行われる。そのため、Mac向けApple Siliconは、モバイル向けのApple Siliconで採用されたCPUコア(Pコア/Eコア)、GPUコア、Neural Engine、DSP、ISPなどの設計を流用しつつ、搭載するコアの数や動作クロックを最適化し、追加のセキュリティー機能、メモリコントローラー、I/Oコントローラー、Media EngineなどMacに必要な要素を追加して出来上がったのがM2チップファミリーと考えれば分かりやすい。
先代のM1チップファミリーは台湾TSMCの「N5」プロセスで生産されており、iPhone 12シリーズなどで使われた「A14 Bionicチップ」の設計が基礎となっている。そのため、M1チップファミリーの主要なコンポーネントはA14 Bionicに搭載されたものと共通である。
一方、M2チップファミリーは、台湾TSMCの「5NP」という改良された5nmプロセスで製造されている。これはiPhone 13シリーズなどで採用されている「A15 Bionicチップ」と同じプロセスだ。
要するに、M1チップファミリーとM2チップファミリーの違いは、単純な各種コアの数や動作クロックだけにとどまらず、コアの処理効率やピーク性能にまで至るということである。
例えばNeural Engineについて、コア数は16基で変わりないにも関わらず、Appleは「最大で40%性能が向上している」としている。これはNeural Engineの設計強化に加え、動作クロックも引き上げたからだ。
加えてCPUコアやGPUコアの性能も向上している。いろいろテストすると分かるのだが、CPUコアのうちPコアの性能向上は小ぶりである。よりパワーアップしたのはCPUのEコアとGPUコアだ。M2 Pro/M2 MaxチップではEコアが2基増えているが、これが思いの外にパフォーマンスアップにつながっている。
このEコアは「省電力だが性能が低いコア」ではなく「十分に高性能な電力効率の良いコア」と捉えた方が正確で、実態にも近いだろう。
「M2 Maxチップ」のGPUは外部GPU並みのパフォーマンス
M2チップとM2 Maxチップの関係は、M1チップとM1 Maxチップの関係に近い……のだが、性能上昇の幅はより大きくなっている。その理由は、先述の通りCPUコアやGPUコアの強化に支えられている。
これは筆者の推測だが、A2チップファミリーが採用した5NPプロセスの効果に加えて、SoC全体の電力管理が進んだのだと思われる。ベースになったと思われるA15 Bionicも省電力マネジメントが向上していたからだ。
加えて、半導体の電力効率の向上も大きいと考えている。N5プロセスとN5Pプロセスの配線ピッチは同じだが、N5Pプロセスは同じ性能であれば最大10%の消費電力削減を、同じ消費電力削減であれば最大5%の性能向上を実現したという。
これは製造プロセスの特性でもあるのだが、同じ性能で動かす場合ならSoC全体の熱密度の管理の難易度を下げられる。結果として、より大規模な回路を集積し、稼働クロックも引き上げやすくなったのだろう。
ユニファイドメモリの帯域に関しても、M2チップで拡張された幅(毎秒100GB)からさらに広がって、M2 Proチップでは毎秒200GB、M2 Maxチップに至っては毎秒400GBにまで達した。搭載できる容量もM2 Proチップでは最大32GB、M2 Maxチップでは最大96GBとなっている。
さらに、M2 MaxチップについてはM1 Maxチップと同様にMedia Engineを2基構成としているが、SoC全体の動作クロックの上昇とメモリ帯域の拡大に伴うピーク性能の向上も果たしているようだ。
CPUコアの性能こそ、1つ下のM2 Proチップと同じだが、内蔵GPUの性能を極大化したことで、“内蔵GPU”でもかつてのデスクトップ向けGPUに匹敵するレベルに迫っていることは本当にすごいことである。
約4年前(2019年)に登場した「Mac Pro」と比べるのは若干フェアとはいえないかもしれないが、発売当時に用意されていた動画処理用アクセラレーター「Afterburner」の機能も、部分的ではあるものの2基のMedia Engineでカバーすることができる。当然ながら、CPUの演算性能ではM2 Maxチップ搭載のMacBook Proの方が“上”である。
そう考えると、恐らく2基のM2 Maxチップを連結することになるだろう「M2 Ultraチップ(仮)」は、Mac Pro向けのハイエンドGPUと“完全に”匹敵する性能を叩き出せそうだ。
Mac Pro向けの動画アクセラレーションカード「Afterburner」。一部の機能とはいえ、M2 Maxチップでも税込み28万円のカードと同等の動画エンコード/デコード機能を備えていると考えると、M2 Maxチップ搭載のMacBook Proが途端に安く見えてくる
もっとも、Mac Proを“完全に”代替できるApple Silicon搭載Macは登場していない。その理由は2022年末の記事で触れた通りだが、少なくとも動画編集という分野に絞るとMac Proを代替しうるパフォーマンスを、いつでもどこでも持ち運べて、しかもバッテリーの持ちもそこそこ良いという所まで進化した。
「Final Cut Pro」「DaVinci Resolve」「Adobe Premier Pro」といったMedia Engineを使いこなす動画編集アプリならば、8K(7680×430ピクセル)のProResを“軽々と”扱えてしまう。中間ファイルの生成が高速なのはもちろん、専用プロセッサがエンコード処理を担当するため、CPUコアが解放されて作業効率の低下を防げる。中間ファイルの生成の高速化は消費電力の抑制にもつながり、バッテリー消費も抑制される。作業時の発熱という悩みからも解放される。
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