マイクロソフトはAIを全製品に展開 日常とビジネスはどう変わる? AIとの向き合い方は?(2/2 ページ)
日本マイクロソフトが、報道関係者に向けてAI技術の利活用に関する説明会を開催した。提携するOpenAIの技術を中心に、全製品へのAI(人工知能)搭載を目指している同社だが、その狙いはどこにあるのだろうか。
「Microsoft Azure」の中のOpenAI
Microsoftは全製品ラインへのAIの組み込みを目指している。冒頭でも紹介したGitHub CopilotやAzure OpenAI Serviceの他、BI(ビジネスインテリジェンス)分析ツール「PowerBI」やローコードプログラミングツール「PowerApps」といったPower Platform製品群はもちろん、「Microsoft 365(Office)」や「Microsoft Dynamics 365」といったツール群にもOpenAIの開発したAIを生かした機能が組み込まれ始めている。
くしくも日本時間の3月17日、Microsoft 365を構成するアプリにも「Microsoft 365 Copilot」としてOpenAIの技術を組み込むことが発表された。その直前にも、産業向けプランニングソリューション「Microsoft Dynamics 365」にもコパイロット機能が組み込まれ、サービス内での自動化や文書による要約や提案書の作成といった機能で活用が進んでいる。
Microsoft Dynamics 365に組み込まれた「Microsoft Dynamics 365 Copilot」は、サービスの自動化、文章の要約や提案書作成の支援などを行ってくれる。CRM(顧客関係管理)やERP(経営資源計画)といった業務の簡素化を推進する役割を担う
最近でこそ、Microsoftは自社の製品“そのものに”AI機能を組み込むようになっている。しかし、Azure Congitive Servicesに見られるように、AIへの取り組みへの初期段階では画像認識、音声認識や翻訳エンジンをAPI化してサービスの一部としてパートナーに活用を促すスタイルが中心だった。
OpenAIの技術は現在、Microsoftの取り組みの一部に取り込まれたような形になっているが、Cognitive Services自体は健在で、Microsoftとしては「ChatGPTにばかり注目が集まるが、AIを活用する企業はブームに踊らされることなく、自身に必要な最適なサービスを選んで活用すべき」という見解を持っている。
「AIを導入する目的は何なのか」「AIは何ができて、何ができないのか」を見極めることが重要なのだろう。
OpenAIの技術を活用するには、まずはその性質を知ることが重要である。OpenAIはいわゆる「生成型AI(Generative AI)」の学習モデルをそろえている。プロンプトと呼ばれる一種のコマンドを送ることで回答を得るGPTをベースに、それを対話型エンジンとして昇華させた「ChatGPT」以外にも、コード生成支援を行う「Codex」、画像生成モデルである「DALL-E」などを取りそろえている。
先に紹介したGitHub CopilotはCodexを、デザインツール「Microsoft Designer」はDALL-Eを内部に組み込んでいるが、いずれも実際はAzure上で動作するサービスとなっている。
問題はこれらをどのように活用していくかという点になるが、今回の記者説明会では想定されるユースケースがいくつか紹介されている。いずれも基本的には言語能力を生かした業務補助が中心であり、AIを活用して組織全体の生産性を向上させていこうという流れである。
このようなAIをベースにしたMicrosoftのサービス群は、同社のクラウド(Azure)上で動作している。しかし1点、重要なポイントとして「データは顧客内で閉じる」ということが挙げられる。
一般向けのクラウドサービス、特に無料のサービスではユーザーから入力された(吸い上げた)データを学習モデルとして利用し、さらに強化していくというものが存在する。結果として、クラウドを介して企業秘密や個人情報が相手へと伝わることになり、企業のビジネス的にはあまり推奨されない。
それに対して、MicrosoftAIのサービスはデータの保持者はあくまで“顧客”側にあり、そこに蓄積されたデータをAIの学習データのチューニングには“活用しない”点を同社は明確にしている。このことは同じクラウド上であっても、顧客ごとにデータは個別管理されることを意味するが、少し見方を変えると、同社のクラウドにデータを置かないと、膨大な蓄積データを活用した数々のAI機能を生かせないことも意味する。
先に触れたMicrosoft 365 Copilotでは、Microsoft 365の機能/製品群と、ユーザーによって蓄積されたデータ群「Microsoft Graph」をAIで連携することがうたわれている。
これはつまり、Microsoftが今後「生産性ツール」として提供してくる数々のAIベースのサービス群の機能を“真に”生かすには、Microsoft 365を始めとする自社のシステムとしっかり連携させる必要があるということになる。いわゆる「ベンダーロックイン」とは少し異なるが、機能をフルに生かすにはサービス連携が重要というのは興味深い。
Microsoftのクラウドサービスは、あくまでもデータはユーザー(保管者)のもので、AIモデルのチューニングには使われない……のだが、見方を変えると、同社のクラウド上にデータを保管しないとAI機能を生かせないということにもなる
AI戦略で掲げる「3つの題目」
MicrosoftのAI戦略は以上の通りだが、同社では取り組みにあたり3つの題目を掲げている。
1つは「有意義なイノベーション」だ。実験的な技術ではなく、あくまで実用たりうることが重要だとしている。
2つめは「人や組織のエンパワーメント」である。人や組織の力を伸ばすことが主眼であり、AIはあくまでそれを補助する役割にあるということを意味する。
そして3つめは「責任あるAI」だ。いわゆるエシカル的思考の道義的責任の他、先述のデータ管理ポリシーにも見られるように、AIを安心して活用できる環境整備に努めるという。
その意味で一連のサービス群や思想は全て、3つの題目の延長線上にあり、同社のAIに対するスタンスをよく表している。
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