NPU搭載の「AI PC」で、これからの“パソコン”は何が変わる? アプリベンダーとの協業を強めるHP、Windows 10のEOSを見据えて:HP Imagine 2023(1/2 ページ)
Windows 10のサポート終了を約2年後に控える中、冷え込んでいたPC市場は落ち込みから回復する兆しが見えてきた。そんな中、HPはVPU(AIプロセッサ)を内蔵するPC向けSoC(プロセッサ)を備える「AI PC」を軸に販売を拡大する戦略を取るようだ。
HPは10月5日(米国太平洋時間、以下同)に、米カリフォルニア州パロアルト市において同社のイベント「HP Imagine 2023」を開催し、新製品や新サービスなどを発表した。
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その会場において、同社パーソナルシステム事業本部のケイタン・パテルCOO(最高執行責任者)がメディアのインタビューに応じた。パテルCOOはISV(独立ソフトウェアベンダー)と協力し、今後発売される予定の「AI PC」(NPUを搭載するPC)向けに、AIを利用する新しいアプリをユーザーに提供する構想を明らかにした。
2023年にへこんだPC需要 2024年は「AI PC」で需要を喚起
今回のイベントで、HPは17型フォルダブルPC「HP Spectre Foldable PC」の日本市場への投入や、23.8型ディスプレイ一体型PC「HP Envy Move 23.8-inch All-in-One PC」など、PCの新製品を発表した。合わせて、同社が2024年に投入を計画しているAI PCも“チラ見せ”している。
PC事業を担うパーソナルシステム事業本部をアレックス・チョウ事業本部長と共にけん引しているのが、今回インタビューに応じたパテルCOOだ。パテル氏はHPのインド法人においてマネージングディレクター(代表)を務めた後、2023年11月から現職に就任し、職名の通り、HPのグローバルPCビジネスの運営を担当している。
PC市場というと、HPだけでなく、Lenovo、Dell、ASUSTeK Computer(ASUS)、Acer、Appleといった主要メーカーはいずれも2023年初から前年比で出荷台数が落ち込むなど、厳しい状況となっている。これは秘密でも何でもなく、各社の決算説明などを見れば分かる“現実”だ。
この点について、改善する見込みはあるのかとパテル氏に問うと「確かに(2023年の)上期は比較的低調だった。しかし、前年比ではまだマイナスではあるものの、(出荷台数は)徐々に改善してきているのはいいニュースだ。現状は在庫が市場に残っている状況で、それによる価格圧力(値下げ圧力)があり、PCメーカーにとっては厳しい状況が続いている。しかし、HPも含めて市場在庫は健全なレベルにまで改善してつつある」とコメントした。
PCの在庫状況について最悪の状況は脱しつつあり、前年同期比で徐々に改善する方向に進んでいるという認識だ。
IDCが10月9日に公表した最新の「Worldwide Quarterly Personal Computing Device Tracker」では、主要なPCメーカーが前年同期比で出荷台数を減らす中、HPのみ出荷台数がプラスとなっている
さらにパテル氏は、AI PCの登場が今後のPC市場の状況を改善する“よい兆候”になると以下のように指摘する。
AI PCの登場は、PC産業にとって大きなチャンスとなる。AI PCはエンドユーザーの利便性の改善をもたらすからだ。
企業にとっては、従業員の生産性を上げることが可能となり、他社との競争で有利になる。クリエイターを始めとするフリーランサーや個人ユーザーにとっては、生産性の向上につながる。(どちらにしても)AI PCは顧客満足度を上げられる
PCメーカーにとって、オンデバイスAIを利用できるAI PCは、新しい価値をエンドユーザーに提供するチャンスとなる――こう強調した。
PCにAIを実装する方法は2つある
現状において、PC上でAIを使う方法は大きく2つある。
1つがクラウドベースのAIをOSやアプリに実装する方法だ。この方法の代表的な例としては、Microsoftの「Microsoft 365 Copilot」や「Copilot in Windows」が挙げられる。
この方法では、AIの処理はクラウド(サーバ)側で行うので、PC上に特別なプロセッサを用意する必要がないというメリットがある反面、ユーザーのデータを全てクラウドストレージにアップロードしないと利活用が難しいという課題がある。
それに対して、今PC業界が取り組もうとしている「AI PC」は、IntelのCoreプロセッサ、AMDのRyzenプロセッサやQualcommのSnapdragonといったSoC(System-on-a-Chip:CPUがGPUなどを1チップに収めた半導体)にAI処理に必要な推論演算を専門とする「NPU(Neural Processing Unit)」を追加することで、ローカルで(=クラウドにアクセスせずに)AI処理を行えるようにしたことが特徴だ。
NPUの搭載は、モバイル向けSoCを中心に加速している。スマホ向けSoCから派生した「Snapdragon」の上位製品を皮切りに、「Ryzen 7040シリーズ」の上位製品にもNPUが搭載された他、12月14日に登場する「Core Ultraプロセッサ」(開発コード名:Meteor Lake)では全製品にNPUを搭載するという。
一方で、OS側でもMicrosoftがWindowsに機械学習向け低レベルAPI「Direct Machine Learning(DirectML)」を実装するなど、開発者がオンデバイスAIを活用するPC向けアプリを作る環境は着実に整いつつある。
問題は、そのようなアプリが“いつ”出そろうのかということだ。
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