不登校児童生徒をメタバースで救えるか? レノボが大阪教育大学とタッグを組んだ理由(1/4 ページ)
レノボ・ジャパンと大阪教育大学が、教育と研究などの分野で協力し、教育課題の解決等を目的とする包括提携協定を結んだ。調印式は、開設されたばかりの大阪教育大学天王寺キャンパスにある「みらい教育共創館」で実施され、「1人も取り残すことのない教育」支援の方法が提示された。
レノボ・ジャパンと大阪教育大学は4月16日、教育と研究などの分野で協力し、先端技術の活用による教育課題の解決や「Society 5.0」に対応した教育の実現を目指した包括提携協定を締結した。
大阪教育大学は「令和の日本型学校教育」を担う教師の育成を先導し、教員養成の在り方自体を変革する“けん引役”を担う「教員養成フラッグシップ大学」として文部科学大臣から指定を受けている(※1)。
一方で、レノボ・ジャパンはGIGAスクール構想で導入された全国900万台の学習用端末のうち、200万台を納入してきた。同構想以前から、教育関連教育現場で利用できるコンテンツの提供や運用支援を行ってきた実績もある。両者は、これまでの教育分野での知見を共有すべくタッグを組むことになったという。
協定の調印式は、大阪教育大学の天王寺キャンパス(大阪市天王寺区)内にある「みらい教育共創館」で行われた。本稿では、その様子をお伝えする。
(※1)2024年現在、4つの国立大学(東京学芸大学、福井大学、大阪教育大学、兵庫教育大学)が指定されている
「みらい教育共創館」で行われている2つの取り組み
調印式の会場となったみらい教育共創館は、大阪市との協働事業として4月13日に開設されたばかりの施設だ。10階建てで、1〜2階は学び合いのできる「協働学習フロア」、3〜4階は高さ2.4m/幅8mのスクリーンに2台のプロジェクターを使って1つの映像を投影できる「未来型教室フロア」、5階は教員養成研修やセミナー/シンポジウムなどに利用できる「産官学連携拠点フロア」となっている。5回には、5組の法人が入居する「オープンラボ」も備える。
6〜10階は大阪市総合教育センターが利用しており、教育委員会と教育現場で働く教員との密な連携を可能にしている。
レノボ・ジャパンは、インテルと共同で未来型教室フロアのネーミングライツを獲得すると共に、同施設にノートPC「ThinkPad L13 Yoga Gen 4」を60台提供している。
みらい教育共創館でのレノボ・ジャパンの取り組みには、メタバースを活用した不登校児童生徒も含む「インクルーシブ(包摂)教育」と、遠隔システムを活用した「STEAM教育」の2つがある。レノボ・ジャパンの安田稔副社長は、これら2つをテーマにした理由を「学校現場を取り巻く課題解決のため」と語る。
小中学校課程で不登校となっている児童/生徒の数は、2022年に29万9000人まで達した。不登校児童/生徒の増加は、一時期の「コロナ禍」による外出制限だけが原因とはいえない状況になってきているという。
不登校の児童/生徒に対して学びの機会を与えたくとも、学校現場では人員不足などにより支援の手を回しきれないことが、課題の1つとなっている。
そこで同社では、メタバースを活用して児童/生徒の相談を受け付ける体制と、学びの場を整備できる「レノボ・メタバース・スクール(LMS)ソリューション」を開発。不登校の児童/生徒にメタバースなどを通して支援する実証試験を、このみらい教育共創館を舞台に実施する。
別の課題もある。社会全体でのDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる中、児童/生徒にICT教育を行える教員が不足していることだ。
少子化の進行により、労働人口自体も減少傾向にある。DX化が進んで企業がICT(DX)人材を欲しても、その需要を満たすICT人材は供給しきれない。ICT人材の不足は、2030年には54.5万人にまで達するという試算もある。
現在、国を挙げてICT人材の育成を試みているが、そんな状況ゆえに専門性の高いICT教育を行える教員の数も足りていない。各校でそんな教員を確保するのは、現状では難しい。
そこでレノボ・ジャパンは、みらい教育共創館の5階に「Creative-Lab」を設置し、遠隔でSTEAM教育を体験できる環境を整備した。同社の遠井和彦氏(教育ビジネス開発部 担当部長)は「高度な技術を学ぶための(ハイスペックな)PCを1人1台持つ必要はないが、なければ学べない。Creative-Labは、1人1台端末により廃れつつある『パソコン教室』の新しい形の提案でもある」と解説した。
次のページ以降では、「不登校の児童/生徒を支援するメタバース」と「遠隔授業によるSTEAM教育」について、取り組みの詳細を取り上げる。
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