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「M4チップ」と「第10世代iPad」こそがAppleスペシャルイベントの真のスターかもしれない(3/3 ページ)

Appleのスペシャルイベントで華々しく登場した新しいiPad Pro/iPad Airシリーズだが、注目ポイントは他にあると林信行氏は語る。その心は?

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M4チップ搭載iPad Proの先に広がる楽しみな未来

 少し前まではAI関連の処理というとGPU、つまりグラフィックス処理用に作られたプロセッサを使って処理を行うのが人気だったが、最近ではAI処理に最適化した「NPU」(Neural Processing Unit)や「AIプロセッサ」という言葉を目にすることが増えた。

 Appleは、他社に先駆け今から7年も前にそうしたプロセッサを世に送り出していたと主張している。2017年に出た「A11 Bionic」のことだ。名前の「Bionic」は、このAI対応を示唆したもので、実際に同プロセッサからApple Neural Engineと呼ばれるAI処理に特化した機構が組み込まれている。

2017年発表のiPhone 8/iPhone 8 Plusで採用された「A11 Bionic」(バイオニック)
2017年発表のiPhone 8/iPhone 8 Plusで採用された「A11 Bionic」(バイオニック)

 ただし、A11 Bionicに限って言えば、当時主流だった画像認識用アルゴリズムを研究して、それに最適化したもので、ほぼiPhone 8やiPhone Xのコンピュテーショナルフォトグラフィーの実現が主な目的だった。

 しかし2017年の夏、大きな転機が訪れる。「Attention Is All You Need」という、その後、AIの歴史を変える「Transformer」というAIアルゴリズムを紹介した論文が発表されたのだ。

 Transformerは学習時間が短い上に高精度な結果を出す画期的なAIアルゴリズムで、今日のほとんどの生成AIを可能にした技術だ。

 もちろん、今や生成AIの代名詞的存在であるChatGPTも、この技術なしでは存在し得なかった。そもそもGPTとはGenerative Pre-Trained“Transformer”の略で、「生成系のあらかじめ学習済みのTransformerアルゴリズム」という意味だ。

 OpenAIは、この「Transformerアルゴリズム」に懸けてChatGPTに繋がるGPTを開発、大成功を果たしたが、2017年に研究熱心なAppleのプロセッサ開発チームも同様にTransformerに未来を懸けた。「もし、これからTransformerアルゴリズムが世界を席巻することになった時、我々はそれを処理する上で最高のプロセッサになることを目指そう」と決断したと言われている。

 こうして出てきたApple SiliconのMシリーズだが、これまでAppleは大々的にうたっていないものの、実はTransformerアルゴリズムの実行に極めて向いているプロセッサなのだ。

 少し詳しい人向けに書くと、Appleの研究者は綿密な研究の末、あらゆるデータ型の中でコスト的にTransformerの処理に最も向いているのが「8ビット整数」でのデータ処理だと結論づけて、Apple Neural Engineをそこに向けて最適化したという。

 Appleが宣伝していなかった、そんなMシリーズの隠れた魅力に気がつく人たちが出てきた。

Appleの研究者らが論文発表した、独自のマルチモーダル大規模言語モデル「MM1」
Appleの研究者らが論文発表した、独自のマルチモーダル大規模言語モデル「MM1」

 Mac 40周年記念のインタビューで、Appleのハードウェアエンジニアリング担当上級副社長で次期CEO候補というウワサもあるジョン・テルヌス氏が、2023年くらいから米国で多くのエンジニアがLLM(大規模言語モデル/ChatGPTのような言語処理のAI)を動かすのにMacが向いていることに気がついて話題となり、Mac上でローカルLLMを実行することが流行し始めたという(ChatGPTのようにインターネット経由で利用するのではなく、アプリとしてMac本体にインストールすること)。

 筆者の観測範囲では、2024年の3月くらいから日本のソーシャルメディアでもMacがローカルLLMの実行に向いていると気がついて話題にするエンジニアが増えているのを見かけている。

 もっとも、彼らが使っているのはMacに搭載されているM2やM3シリーズだ。

 これに対してiPad Proに搭載されるM4チップは、既に述べたように38TOPSと飛躍的に性能向上をしている。

 残念ながらMacと違ってiPad Proでは、オープンソースのLLMなどをダウンロードして、コンパイルしたり、実行したりとMacほどの自由度はない。だから、MacのようにエンジニアがローカルLLMの実行環境としてiPad Proを買うことはないだろう。

 とは言え、今秋以降にAI最適化が行われたiPadOSが登場し、2025年以降、その上でAIをエンジンとした次世代のアプリが増え始めることを想像したり、iPad Proの高性能を生かした、これまではできなかったような高度なAIアプリケーションを作る人が出くるのではないかと想像したりすると、かなり楽しみになってくる。

※記事初出時、一部表記に誤りがあり修正しました(2024年5月10日午後1時05分)。

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