使って分かったM4チップ搭載「iPad Pro」のパワフルさ 処理性能とApple Pencil Pro/Ultra Retina XDRディスプレイ/新Magic Keyboardを冷静に評価する:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/4 ページ)
Appleが5月15日に発売する新しい「iPad Pro」は、想像以上にパワフルだ。しかし、用途によっては「iPad Air」でもいいかもしれない――iPad Proを中心に、実機に触れつつレビューしていこう。
「Ultra Retina XDR ディスプレイ」は“素晴らしい”
少々複雑な話を先に終えたところで、製品のインプレッションに戻ることにしよう。本来ならば、こちらの方が、主な評価ポイントになる。
新しいiPad Proに搭載されている「Ultra Retina XDRディスプレイ」に関しては、素晴らしいという感想しか浮かばない。仕事柄、筆者も多くの有機ELディスプレイを評価してきたが、ここまでリニアリティが高く、階調もホワイトバランスも安定したものは見たことがない。
筆者は今まで、iPad ProならミニLEDを適用した液晶ディスプレイでも十分だし、超薄型化は不可能ではないと思っていた。しかし、この新しいディスプレイは、そうした妥協含みの評価を吹き飛ばすだけの品質を持っている。
その特性もあり、一般的な有機ELディスプレイのレビューでは「黒が黒らしく、完全に消灯できる」ということが強調されることが多い。しかし、その画質に最も大きく影響するのは「ローカルコントラスト」だ。簡単に説明すると、ローカルコントラストは「近傍の画素が、きちんと意図通りのコントラストで描かれているかどうかを評価する指標」と考えるといい。
ミニLEDを適用した液晶ディスプレイでは、真っ暗な領域を作りたければ当該領域を担当するLEDを消灯するだけでいい。しかし、いくら“小さなLED”とはいっても、近隣に黒くない領域がある場合は、LEDが点灯してしまうことを避けられない。また、当該の領域内において、コントラストは液晶パネルそのもののコントラストに依存してしまう。
従来のiPad Proでは、視野角を重視したIPS液晶パネルを採用してきた。ミニLED化したとしても、コントラストはどうしても犠牲となってしまう。要するにローカルコントラストは高められないのだ。
この違いは、微細なディテールの違いとなり、それは質感表現のリアリティーと大きく相関する。つまり、新しいiPad Proのディスプレイは、実に生々しい、本物のような質感を表現できるようになったといえばいいだろう。
このようなディスプレイは、写真へのこだわりを持つプロフェッショナルはもちろん、HDR(ハイダイナミックレンジ)の映像を作る際に的確な視覚表現を行いたいプロフェッショナルの映像制作者にもありがたいだろう。少しだけ見方を変えると、映像制作者が意図する、こだわった表現をそのままの形で受け取りたいという人にもお勧めだ。
Appleのディスプレイは、「暗室における正確な表現」といったプロフェッショナル用途だけではなく、「評価環境における映像の見え方」を強く意識したチューニングがされている。Appleが単に「HDR」ではなく、独自の「XDR(Extreme Dynamic Range)」と呼んでいるのは、そういった違いからだ。
一方で、反射原稿、つまり「紙への印刷の風合い」の再現を求めるクリエイターにとっては、ミニLED適用液晶ディスプレイとの差はそこまで大きくない。一般的なLCDのディスプレイと比べても、許容範囲かもしれない。
色の正確性だけを見れば、新しいiPad Airの液晶ディスプレイもレベルは高いので、イラストレーターが新しいiPad Proを選ぶ動機は少ない(=iPad Airでも十分)かもしれない。iPad Proがいいのか、それともiPad Airがいいのか――実機を見て“感覚的な違い”を確かめてみるのも良いだろう。
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