Next GIGAで何が変わる? 文科省が「学習用端末」の要件や補助スキームの変更などを行った理由【前編】(2/2 ページ)
2019年度に始まった「GIGAスクール構想」で導入された学習用端末が、2024年度から順次更新時期を迎える。そのことを受けて、端末メーカーやプラットフォーマーが置き換えを見越した動きを活発化させている。この記事では、新たな学習用端末の要件と調達方法について見ていきたい。
端末購入の補助金は5万5000円に
スペックの底上げはもちろんだが、昨今の円安基調を考えると、現行のGIGAスクール構想から端末の調達価格の上昇は避けられない。また、故障時の予備機の確保に難儀したという話も複数あった。
時系列が前後するが、文部科学省は2023年11月10日、端末のリプレースを見据えた事務連絡を行った。この連絡には、2023年度補正予算の成立を前提を前提として、主に以下の方針が盛り込まれている。
- 端末購入に伴う補助金(基準額)を1台当たり5万5000円に引き上げ
- 公立(都道府県立/市町村立/特別区立)学校の補助率は「3分の2」とする
- 必要端末数の15%以内の範囲内で、予備端末の購入経費の手当ても実施
- 公立学校については都道府県が設置する「基金」を通して補助金を支給
- 政府(文部科学省)は、都道府県に基金の立ち上げに必要な資金を支給
- 端末の置き換えは5年間で進める
本補正予算は成立し、ひとまず2025年度分までの端末更新予算が確保された。
補助金の引き上げは、円安基調による端末価格の高騰と、求められる端末スペックの引き上げを見越した措置だ。予備機の購入も補助金の対象にしたのは、現行のGIGAスクール構想で浮き彫りとなった課題を踏まえている。
補助金の支給が「都道府県経由」になることで何が起こりうる?
本方針について、多くの報道では「補助金アップ」「予備機購入も補助金対象」という事項にフォーカスが当たりがちだ。しかし、「公立学校は都道府県の基金を通して補助金が支給される」という仕組みの変更も、とても重要なポイントだ。
Next GIGAにおいて、文部科学省は都道府県に対して補助金支給に向けた基金の創設だけでなく、「共同調達会議」の設置も求めている。名前から察することができるかもしれないが、Next GIGAでは学習用端末を都道府県単位で共同調達することを前提としているのだ。
従来のGIGAスクール構想では、基本的に学校設置者単位で端末の調達を行うことになっていた。しかし、スケールメリットを追求する観点から、都道府県教育委員会が主導する形で複数(あるいは全て)の自治体で端末を共同調達した都道府県もある。
一部に共同調達が“裏目”に出てしまったケースもあるものの、うまく機能した都道府県が多かったことから、共同調達を基本に据えたものと思われる。
都道府県が設置する共同調達会議には、“全ての”市町村/特別区(※2)が参加しなくてはならない。市町村/特別区は一定の要件を満たせば共同調達からは離脱(オプトアウト)できるが、会議からの離脱はできない(※3)。
(※2)複数の市町村が「一部事務組合」を通して学校を設置している場合、当該組合も参加する必要がある
(※3)共同調達会議は、都道府県におけるICT機器/サービスを使った教育に関する情報交換/共有の場としても機能するため。なお、共同調達から離脱した場合も補助金は都道府県を通して支給される
各都道府県における共同調達の要件は、この会議で決定される。市町村/特別区によって利用する学習用端末(やWebサービス)がバラバラである場合、“バラバラさ”をあえて保つように要件を定める可能性もあれば、これを機に“統一”してしまう可能性もある。
少し違う視点から見ると、共同調達会議の行方によっては学習用端末(OS)のシェアが“大きく”変動してしまう可能性もある。例えば「Windows」「ChromeOS」「iPadOS」がそれぞれ3分の1ずつすみ分けている都道府県があったとして、会議を通してChromebook(ChromeOS)を名指しするような要件が決定してしまえば、(共同調達からの離脱がない限り)その都道府県の公立学校におけるWindowsやiPadOSのシェアは一気に“ゼロ”となってしまう。都道府県によっては、Windowsを名指ししたり、iPadOSを名指しする要件が決められるかもしれない。
要するに、端末メーカーやプラットフォーマーにとって、Next GIGAはシェアを一気に伸ばすチャンスであると同時に、シェアを一気に失うかもしれない瀬戸際だったりする。それだけに、メーカーやプラットフォーマーは、EDIXを始めとする商談イベントや自社主催のセミナーなどを通して、教育関係者に“猛烈な”アピール合戦を繰り広げている。後編では、その辺りの様子を見ていきたい。
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