PC畑を歩んできたエプソン販売の栗林社長が改めて「お客さま」本意の方針を掲げる理由:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(1/3 ページ)
不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第14回は、エプソン販売の栗林治夫社長だ。
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「行動の軸をお客さまに置き、成熟領域の深化と成長領域の探索に挑む」――。
2024年4月1日付で、エプソン販売の社長に就任した栗林治夫社長はこう切り出した。エプソンダイレクトの社長を務めるなど、28年間に渡り、PC事業に携わってきた経歴は、同社トップとしては珍しい。
だが、その経験がエプソン販売の成長戦略に生かせるとの期待も高まる。インタビューの前編では、PC事業の経験を振り返ってもらうとともに、エプソン販売の社長として重視する姿勢や、「行動の軸をお客さまに置く」という新たな方針の狙いについて聞いた。
「行動の軸をお客さまに置く」はどうやって生まれたのか?
―― 社長就任以降の約4カ月間は、どんなことに時間を使いましたか。
栗林 私自身はダイレクトビジネスに長年携わっており、法人向けビジネスの経験が少ないですから、まずは全国のパートナーやお客さまを訪問し、私のことを知っていただくというところから始めています。また、社員との対話会を部門ごとに実施し、部長や課長に直接会って話をして、私の考え方や方針を伝えてました。
―― 社長就任に併せて「行動の軸をお客さまに置く」という姿勢を打ち出しました。この理由を教えてください。
栗林 多くの企業が考える存在意義とは、お客さまの役に立ち、社会に貢献することです。これは基本だと考えています。お客さまにはさまざまなワークフローがあり、そこには課題が生まれており、解決策を提示することが必要です。
エプソンでは、プリンタやプロジェクター、PC、ロボティクス、財務会計ソフトといった商材を持っており、それぞれの商品が果たす課題解決力には高いものがあると自負しています。しかし、個々の商品で個々の課題を解決するだけでなく、もっと複合的な課題にも対応する必要があり、エプソンは、ここができていなかったという反省があります。
複合的な課題を解決するには、よりお客さまに寄り添い、お客さまに軸を置き、課題の本質というものを突き詰めていかないと実現できず、お客さまの役に立つという目的が達成できないと考えています。そこで、中期活動方針として「すべての行動の軸をお客さまに置き、寄り添い、お客さま価値を持続的に実現し続け、価値創出を加速させる」ことを掲げました。
―― この方針は、栗林社長のこれまでの経験がベースになっているのですか。
栗林 私はエプソンダイレクトで約15年間に渡り、PCビジネスやダイレクトビジネスに携わりました。セイコーエプソンやエプソン販売の期間を入れると28年間に渡って、PCビジネスに関わっています。
社長就任後の社員向けメッセージでは、最初のページで私がPC事業に長年携わってきたことから説明しました。入社直後は、セイコーエプソンのコンピュータ事業部PC商品企画グループで、PC-98互換機に携わり、その後、98互換機の撤退と、DOS/Vパソコンへの事業転換にも関わりました。
そして、エプソン販売のPC販売推進を経てエプソンダイレクトに異動し、営業/マーケティング/事業推進/経営全般に携わってきました。2020年からエプソン販売に戻り、PC事業以外の領域も広く担当する形になり、ビジネス営業本部で東日本エリアを担当後、販売推進本部に異動しました。
エプソンダイレクトではWebを通じた直接販売を行い、ここではインテルのCPUをいち早く採用したPCを提供したり、低価格で実現したりといった価値を提供することが特徴の1つではあったのですが、それはテクノロジーが変化するタイミングに限定されたり、海外で大量生産するPCメーカーにやはり価格では対抗できなかったりといった課題がありました。
PC USERの読者であればお分かりだと思うのですが、PCはプリンタのように独自のインクジェット技術で差異化できる商品ではなく、CPUやOSが決まっており、メーカーとしての価値を出すことが難しい商品だといえます。どこに価値を出すのかといったことを突き詰めていったとき、その答えを持っているのがお客さまであるというのが、長年、PCビジネスをやってきて学んだことです。
ある日、お客さまに対して、なぜエプソンダイレクトのPCを選択していただけたのかということを聞いてみました。日本で生産し、日本にサポート拠点があり、修理が早いといった点を評価していただいたり、余計なアプリが入っていなくていいという声もいただけたりしました(笑)。
また、ハイエンドモデルが売れている理由を探っていったら、映像編集の用途に使われていることが分かり、そういったお客さまと共に事前検証を行いながら、より求められる仕様に進化させるといったことも行いました。頻繁なWindowsのアップデートに困っているというIT部門の声に対しては、Windows Embedded OS(現在のWindows for IoT)を採用することで解決を図るといった提案も行いました。
PCは要素技術では他社と差別化ができませんから、お客さまに課題を聞いて、それを元に差別化するポイントを見つけるしかありません。エプソンのPCビジネスはダイレクト販売ですから、これが功を奏して、お客さまから直接お話を聞いたり、あるいは非常に早くレスポンスをいただいたり、それを製品化に反映したりといった強みを生かして差別化ができました。
私には、PCビジネスで、お客さまを軸としたダイレクトビジネスをやってきた経験があります。これはエプソンのPCビジネスの大きな特徴です。だから、「すべての行動の軸をお客さまに置く」という中期活動方針を打ち出したわけではないのですが、その経験は生かしたいと思っています。プリンタも、以前のように、速い、きれいといったことだけが差別化になる時代は終わり、別の価値を提供する必要があります。そのためには、お客さまを軸にすることがより大切になってきます。
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