なぜPCに「AI」が必要なのか? HPのキーマン2人に聞く:HP Imagine 2024(2/4 ページ)
「AI PC」がマーケティング上の流行語になって1年少々。AIの処理を効率良く行えるNPUを搭載するCPUもバリエーションがそろってきた。AI PCを選ぶメリットはどこにあるのか、HPのエグゼクティブ2人に話を聞いた。
PCのスペックの“バランス”をどう考える?
―― Microsoftの「Copilot+PC」もそうだが、最近PCに求められるスペックが一気に引き上げられる傾向にある。メモリとストレージ容量のバランスについて、どう考えているのか?
チャン氏 まずメモリの話をすると、スピード面は規格が「DDR4」から「DDR5」に移行する過程で、サイズとパフォーマンスの両方が向上した。「今後(スペック面で)何を期待するのか?」が質問の趣旨だと捉えるが、AIの文脈で考えればより多くのプロセッサパワーを要求されるのは間違いない。同時に、そのパフォーマンスはメモリに縛られており、特にローカルで言語モデルを実行しようとすると、特にメモリが重要となる。
歴史的に、PCで優れたパフォーマンスを得るには少なくとも8GBのメモリが必要とされているが、業界として実際には16GBが最低ラインだと考えている。そして将来的には、より多くのAIモデルが効率化され、それを実行するのに32GBがちょうどいいサイズになる可能性があると思われる。特に大学でSTEM(※2)を学んでいる学生や、フリーランサーとして大量のデータや動画編集を扱っている人には、32GB(のメモリ)はちょうどいい出発点になるだろう。
(※2)科学/技術/エンジニアリング/数学
ストレージ容量については、こちらもPCのプライバシーを保護しつつ、動画を録画する場合に、いわゆるバックアップを行うアプリが登場することになる。現状では512GBや1TBがボリュームゾーンだが、PCで行う作業次第ではあるものの、より多くの容量が多く求められるようになり、人によっては「スペースは多いに越したことはない」という状況だといえる。
―― AI PCでは内蔵NPUのスペックが重視される傾向があるが、この数字は今後も増え続けると考えているのか?
チャン氏 現状のAI PCでは、NPUの性能は40〜50TOPSクラスが最高レベルだが、特定のアプリではピーク性能を向上すれば、よりパフォーマンスも向上することも分かっている。この話はNPUのみならずGPUにもいえることで、多くのアプリではGPUの方がプログラムを書きやすいという事情がある。
例えば今回のイベントではCyberLinkとのデモを紹介した。彼らは画像生成はNPU、言語理解はGPUを用いて処理を行っている。つまり、実際のAI処理はNPUとGPUの両方を用いているわけで、重要なのは(処理に使うプロセッサの)組み合わせだと考える。
NPUは、特定のアプリを実行するのに優れ、非常に電力効率がいい点が特徴だ。過去のPCの歴史を考えれば、NPUに求められる期待値は今後も上がると推測され、5年後のヘビーユーザーにとっては「40TOPSでは足りない!」ということになるかもしれない。
例えが正しいかは分からないが、NPUの存在はハイブリッドカーのようなものだと考えている。全ての道をバッテリー(のみで動く電気自動車)で走るのが現実的ではないが、これはPCにおけるNPUにも当てはまる。NPUは特定の用途に優れた能力を発揮し、CPUとGPUもまた、特定の用途において秀でている。適切なバランスが重要だ。
―― HPを含むPCメーカーは、2023年末からIntelの「Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)」を搭載した「AI PC」順次発売した。しかし、同プロセッサを搭載するノートPCは、要件の都合でMicrosoftの「Copilot+ PC」のブランドを冠するには至らず、先行して購入したユーザーを失望させている可能性がある。このことをどう考えるか。
チャン氏 確かに、Intelが「AI PC」と呼んだCore Ultraプロセッサ(シリーズ1)のNPUは、ピーク性能が17TOPSで、Copilot+PCの40TOPSという要件を満たせない。だが、重要なのはCopilot+PCはあくまでもAI PCの一側面であり、全ての体験がCopilot+ PCの求めるスペックを必要とするわけではない。現時点で最新のPCを購入すれば、以前のモデルと比べて優れているのは間違いない。お金を少し多めに払うことで、性能に“余力”を持たせられる。
一方で、(前世代のモデルを含む)AI PCを購入することは、今日でもパフォーマンスの面で優れた体験を得られることは確かだ。PCで何をしようとしているのかが重要だと考える。私たちは、単に道を走りたいだけのユーザーに、SUVや定員の多い大型車を販売しようとしているわけではない。
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