「AirPods Pro 3」先行レビュー 誰でも体感可能なレベルの音質向上は予想以上:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)
Appleの「AirPods Pro 3」は、内部のSoCは先代から変わりないものの、中身はフルモデルチェンジと言っても過言ではないレベルで刷新されている。発売に先駆けて、その実力をチェックしてみよう。
9月9日(米国太平洋夏時間)にiPhone 17シリーズと同時に発表された完全ワイヤレスイヤフォン「AirPods Pro 3」は、先代(Lightningモデル/USB Type-Cモデル)と比べて大きな進化を果たしている。先代も初代と比べれば大きな進歩を果たしていたが、今回は単なるマイナーアップデートにとどまらず、音質/機能性/ユーザビリティーの全てにおいて根本的な改善が施されている。
正直に告白すると、ここまで大きな改善が望めるとは、事前には想像していなかった。世界で最も多く売れている完全ワイヤレスイヤフォンと言われるAirPodsシリーズだが、特に音質には常に疑問が付きまとっていた。これが、AirPods Pro 3では本格的に“底上げ”されている。
その他、ノイズキャンセリング能力やバッテリー駆動時間の向上なども魅力だが、やはり基礎的な音質向上はこれらを上回ると言ってもいいだろう。
低音の再生能力向上が全体音質の改善に寄与
Appleのオーディオ製品は、どれも無難で聞きやすい音質が特徴だ。これはAirPods Pro 3でも変わらない。決して刺激的な音は鳴らさず、長時間聞いていても聞きやすいチューニングが施されている。見方を変えると、それは「つまらない音」ということでもあり、実際にそう評されることもある。しかし、筆者はこれはこれでAppleのオーディオの長所だと捉えてきた。
しかし、AirPods Pro 3では低音の量と質が大きく改善されたことで、再生帯域全体のバランスを見直すことができたようだ。何よりも、音楽表現の再現性が格段に向上している。新しい「マルチポート音響アーキテクチャ」により、耳に届く音の流れがより精密に制御され低音の深さと伸びやかさが実現された結果だろう。
低音の再生能力が低いオーディオ機器で、中高域から高域にかけて情報量を出しすぎると高域寄りのバランスとなり、デジタルノイズによる聞きづらさも加速する。この辺りのバランスを取ることに力を入れていたのが、Appleのオーディオ機器だった。
言い換えるなら、低域の改善が「聞きやすいが、品位は高くない」音作りを大きく変えたといもいえる。
実際に聞いてみると分かる「改善」 「方向感」と「性格性」はあと一歩
セルジオ・メンデスの「Look of Love(Feat. Fergie)」での試聴では、マスタリングエンジニアの部屋で聞いたラージモニターの低音に近い再現性を確認できた。中低域をプッシュして演出した人工的な低音ではなく、しっかりと伸びやかに表現された自然な低音だ。ただし、大きく左右にパンされる超低音の効果音については方向感が曖昧で、位相表現にやや課題が残っている。
ジェニファー・ウォーンズの「Way Down Deep」を聞いてみると、冒頭の緩い張りの低音パーカッションや不安定な低音のうねりはもう少し正確性が欲しいところだ。とはいえ、これらの低音表現は従来のワイヤレスイヤフォンでは考えられなかった。その上で、定位表現の質について評価していること自体が、この製品がより高いステージに登ったことを物語っている。
低音の改善は効果てきめん
先述したように、低音改善の恩恵は中高音域にも及んでいる。
Didoの「Don't Believe in Love」を流してみると、中低域の張りが良くベースの弦に指が当たる感触が明瞭に感じられる。中低音域から高音域にかけてのリニアリティーの高さが印象的で、クローズドハイハットのキレも良い。
何より、ドライな録音のDidoのヴォーカルがゆがみなく心地よく伸びやか表現され、サ行の擦過音も強く感じることなく自然だ。まるで声帯の震えが見えるかのような“わい感”の少なさは、ボーカル曲のファンなら魅力的に感じるだろう。
唯一、改善すべき点としてキックドラムの低音域が他の帯域とややそろっていないことが挙げられる。全帯域でそろって音が立ち上がるような一体感があればさらに良くなるだろう。
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