“脱ガラパゴス”のためのケータイ戦略とは――海外競争力を高める“5つの提言”:端末メーカーに残された時間はわずか(2/2 ページ)
「なぜ、日本のケータイが海外で受け入れられないのか」――携帯メーカーや通信業界が抱えるこの問題を、さまざまな角度から検証しているのが夏野剛氏率いる超ガラパゴス研究会。その議論の結果として公開された“5つの提言”はどのようなものなのか。
提言2:技術だけでは勝負できない
メーカーに向けたという2つめの提言は、「マーケティング力とコスト競争力という観点を持てば、世界に出やすくなる」というもの。技術力に定評がある日本の端末メーカーだが、今や“技術力のみでは世界で勝負できない”というのが、研究会の見方だ。「技術力だけで勝負しているメーカーはほぼ皆無。(成功しているメーカーは)強烈なブランディング力やマーケティング力、コスト競争力を兼ね備えているか、そのどれかを追求している」(夏野氏)
例えば世界シェアトップのNokiaは、少品種を大量生産することでコスト競争力に優れた携帯電話を新興市場に投入してシェアを拡大。世界シェアで2位、3位につけているSamsungとLG Electronics(以下、LG)は、徹底的にブランディングを行って2位、3位の地位に上り詰めた。
ここで注目すべきは、SamsungとLGの戦い方だ。両社はシェアトップのNokiaと同じ低価格端末で戦うことを避け、中・高価格路線の端末の投入とブランディングの徹底で徐々にシェアを拡大。この戦略で10年前には5%未満の世界シェアにとどまっていたSamsungが今や20%のシェアを獲得し、7年前から世界進出を始めたLGは10%のシェアを獲得するに至った。「世界中の4分の1から3分の1の携帯端末が韓国製になっている。10年前はそういう状況ではなく、これから10年後に日本の端末メーカーのシェアが30%になっている可能性も十分ある」(夏野氏)
ただ、世界シェアの拡大を実現するためには、それ相当の努力や思い切り、戦略の明確化が必要になり、そこで重要なのがブランディング力やマーケティング力というわけだ。
日本の携帯電話のユーザースタイルは、アジア圏を中心に雑誌などで広く紹介されており、「クールジャパンになっている」と夏野氏。また、中国では原宿や渋谷の認知度が高く、日本語の雑誌が人気を博しているなど、「こうした日本の文化を土台に、マーケティングやブランディングをするチャンスがあるのではないか」(同)と指摘する。「“携帯文化をまとめて輸出できるようなことを考えるのはどうか”ということを、マーケティング面の提言としたい」(同)
提言3:これからは“ハードとソフトをどう組み合わせるか”を端末メーカーが考える
「携帯端末だけでは価格競争に巻き込まれる。ハードとソフトは分離不可能であると認識した方がいい」というのが、3つ目の提言。これまで日本の端末メーカーは、キャリアの仕様やサービスと連携させるかたちで端末を開発してきたが、日本のキャリアのサービスが通用しない海外向けには、自社で“ソフトとハードをどう組み合わせるかを考えるべき”ということだ。「(海外進出にあたっては)日本のキャリアのやり方をうまく使ってメーカー独自のソフトの使い方を考えた方が付加価値をつけやすいのではないか」(夏野氏)
ソフトとハードの連携に長け、一気にスマートフォン市場でのシェアを大きく伸ばしたのがAppleだ。音楽やアプリの配信サービス、クラウド連携サービスなどを自社で手がけており、端末の使い勝手のよさや充実したサービスが人気を博して、スマートフォン市場の世界シェアを12.1%まで伸ばした。
日本には、アニメやマンガのほかにも文化に根ざしたさまざまなコンテンツがあり、ソフトを作る上では「文化がない国の企業に比べると認められている状態にある」(同)と夏野氏。こうした日本文化をソフト開発に生かすべきと提案した。
提言4:経営陣に多様性を 外部登用も積極的に
「ガラパゴスがガラパゴスといわれる最大のゆえんは、雑種交配のパターンが限られていること。それなら異種交配や多様性を取り入れることで、ガラパゴスを超えられるのではないか」――。4つ目の提言は、海外進出を目指す企業に対するマネジメントの提案。これまでとは異なる市場でビジネスを展開する場合には、「同じ会社で長年国内ビジネスをやってきた人だけが役員、というのは、かなりのハンデになる。海外の視点が入っているか、異なる視点が入っているかということに不安を覚える」(夏野氏)といい、外部登用も含めて新たな血を入れて議論を活性化させるべきと話す。
現代の経営は難しくなっており、「過去の延長線上で物事を考えるだけではなかなか成功できない」と夏野氏。トップが率先して新たな価値をどう生み出すかを提案していくことが重要で、消費者が何を求めているのか、どんなものになればお金を出すのかという時代の風を読み取るセンスがトップに求められていると指摘する。そのためにも、マネジメント層の中には、ある程度、こうした話ができる人材を置くべきという考えだ。また、女性や外国人、他業界/他社の人をトップからボトムまで入れていくことで、「日本企業のポテンシャルをさらに生かすことができるのではないか」とも付け加えた。
最近では日本の中でも世代によって考え方やリテラシーが異なり、海外に進出するとなれば、さらに多様なターゲットに対してビジネスを展開することになる。「さまざまな人を相手にすることを許容できる経営をする必要がある」(夏野氏)
提言5:キャリアは海外展開するなら本格的に
5つ目は通信キャリアに対する提言で、「大きなリスクをとって、本格的に海外展開する気があるのかどうかをはっきりしたほうがいいのではないか」というものだ。メーカーの中にはキャリアの海外展開に期待しているところもあり、「やらないならそう明言した方がメーカーが戦略を立てやすい」と指摘した。
海外に進出するなら、欧州キャリアなみに本格的にやるべきだという。例えば英Vodafoneは国外売り上げ比率が83%、ドイツテレコムは74.5%、スペインのテレフォニカは62.1%など、売り上げの半数超が国外収入となっている。すでに市場が成熟しているという点で日本と欧州は似ているが、欧州キャリアは高い比率でグローバル展開を進めているところが異なるというわけだ。
日本の通信キャリアも“海外展開している”とはいうものの、「欧米の通信キャリアと比べると、その割合はないに等しい」(夏野氏)。海外に進出するなら、端末メーカーなどの周辺企業にも利益をもたらすくらいの規模にするべきというのが、研究会の考え方のようだ。
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