早期の国内シェアトップを目指す――NECとカシオ日立、事業統合の狙い
大きな落ち込みを見せている携帯端末市場で、再び生き残りをかけた大きな合従連衡の動きが起きた。NECとカシオ日立が事業を統合し、国内シェアトップを目指すともに海外展開を強化する。
「国内の端末市場は縮小傾向にあり、いずれ合従連衡が起きる。いい関係の者同士が早めに手を組み、早めに協力したほうがいい結果が出るのではないかということで、早い段階で手を打った」――9月14日、NECカシオ モバイルコミュニケーションズ設立発表会に登壇したNEC取締役 執行役員専務の大武章人氏は、このタイミングで事業の統合を決めた理由について、こう説明した。
日本の携帯端末の市場規模は、2007年の5000万台から2008年には3500万台に落ち込むなど急速に縮小しており、端末事業から撤退するメーカーや端末事業を売却するメーカーが続出。残る端末メーカーも、生き残りを賭けた新たなビジネスモデル模索し続けている。こうした中、NECとカシオ日立モバイルコミュニケーションズ(以下、カシオ日立)が合従連衡の動きに出た格好だ。
両社は2010年4月に各社の携帯電話端末事業を統合し、合弁会社のNECカシオ モバイルコミュニケーションズを設立。両社合わせて国内第2位となる端末シェア(2008年度出荷台数ベース)を早期にトップに引き上げるとともに、海外の端末販売を強化し、2012年に国内で700万台、海外で500万台規模まで出荷台数を伸ばす計画だ。海外市場については、すでにカシオ計算機が防水・タフネスケータイの投入で高い評価を得ている米国市場をベースに、欧州やアジアでの展開を目指す。
なお、NEC、カシオ、日立のそれぞれのブランドについては今後も活用していくことで一致しており、それぞれのブランドを冠した端末をリリースするとしている。「それぞれのメーカーブランドをしっかりベースに置きながらの新展開。相互補完によるシナジー効果が期待できる」(カシオ計算機 常務取締役の高木明徳氏)
あらゆる面で“ちょうどいい”補完関係
「シナジー効果を出せる最適解だと考えている」――カシオ日立モバイルコミュニケーションズ 代表取締役社長の大石健樹氏は、両社がさまざまな面で相互補完できる最良の組み合わせであることを強調する。
W-CDMAやLTEの対応端末を手がけるNECと、CDMA端末を手がけるカシオ日立が組めば、「全方位展開が可能な通信スキルを持つことになる」と大石氏。今後、携帯電話のネットワークはLTEが主流になると見られているが、その過渡期にはGSMやW-CDMA、CDMA2000とLTEのハイブリッド端末のニーズが高まると予想され、こうした市場に端末を供給できるのは大きな強みになる。
海外展開についても、一度撤退し、再参入のチャンスをうかがうNECにとって、米Verizon Wirelessや韓LG Telecomに端末を供給するカシオ日立の販路は魅力的だ。カシオ日立は米Verizon向けには、キャリアブランドの端末を提供しており、この点でも自社ブランドを展開して失敗したNECにとっては、リスクの少ない形で参入するよいチャンスになると見ている。
ただNECの大武氏は海外展開は慎重に進める考えで、「技術をベースに、ニッチな領域で際だつ端末を提供するところをスタート地点にする」と話す。防水タフネスケータイが米国で高い評価を得ていることから、確かな技術を特定のニーズがある市場にきっちり届けることで「100万台出さなくても利益が出る形」のビジネスモデルを構築したい考えだ。
熾烈な競争をどう勝ち抜くか
今回の事業統合は、どちらが持ちかけたということではなく、2007年から2008年にかけて市場が大きく落ち込む中、危機感を持った両社が互いに話し合うところからスタートしたという。「今後の熾烈な世界市場における競争をどう勝ち抜くか、それぞれの強みを最大限に発揮できる形はどのようなものかという相談を進めてきた」(カシオの高木氏)
統合に関わる4社とも、生き残りをかけた合従連衡は不可避と見ており、最大限のシナジー効果が生まれるよう協力する考え。LTEの導入が目前に迫る中、関連技術でさきがける日本のメーカーにとっては海外参入のチャンスでもあり、「国内で確固たる市場を築くとともに、海外を目指す」(NECの大武氏)としている。
新会社の名前に“日立”がない理由
NECとカシオ日立モバイルコミュニケーションズの合弁会社として4月に設立されるNECカシオ モバイルコミュニケーションズは、企業名に“日立”の名前がない。この理由についてNECの大武氏は、「出資はするが経営には参画しないというスタンスのため」と説明している。
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