“550台のiPhone”は、教育をどう変えるのか――青山学院大学 社会情報学部の取り組み:iPhoneの導入事例(2/2 ページ)
学生と教員にiPhone 3Gを配布し、授業やキャンパスライフなどで活用している青山学院大学 社会情報学部。550台のiPhoneは実際の授業でどのように使われ、どんな形で生徒の学習をサポートしているのか。同学部で助教を務める伊藤一成氏に聞いた。
iPhoneをセカンドモニターとして活用
このLMSを使った授業の事例として紹介されたのが、プログラミングの基礎を学ぶ「コンピュータ実習」の授業だ。プログラミングの高級言語を初心者が一から学ぶのは、なかなか難しく、伊藤氏の授業ではビジュアルプログラミング言語「Scratch」を使って教えている。Scratchは原則としてキーボード操作が必要なく、マウスの操作のみでプログラミングが可能だ。本来は小中学生向きに、プログラミングの楽しさを教え、発想力やイマジネーションを鍛えることを目的とされているものだが、伊藤氏の授業では、ロジックとアルゴリズムに特化して学習する教材として、論理的思考能力を養成するために採用している。
この授業では、iPhoneをセカンドモニターとして活用。PCのディスプレイは学生1人に1台ずつ用意されているが、1つの画面にScratchの操作画面と教材資料のパワーポイントなどを表示すると、複数のウインドウを切り替えながら操作することになり、プログラミングに集中できなくなる。そこで、伊藤氏の授業では、PCのディスプレイはScratchの操作のみに利用し、教材資料はiPhoneで見ることになっている。「iPhoneは授業資料のインプットだけ、PCはアウトプット専用。つまりiPhoneが先生です」(伊藤氏)
この方法は学生から非常に評判がいいという。中には「やっぱり紙の資料がいい」という学生もいるが、伊藤氏がアンケートを取ったところ、学生の約6割がiPhoneで見る方法がいい思っているという結果が出た(3割は紙資料、1割はPCがいいと回答)。また、教員にとってもiPhoneで教材を見てもらう方が断然いいという。「紙資料だと、印刷して配布するのも時間がかかる。また、学生から先週やった内容の質問がきた際に、『じゃあ、先週配布した資料を見て』というと、だいたい持っていない。iPhoneだったら、先週の資料もすぐ出せます」(伊藤氏)
メニューの「教材倉庫」には、授業用資料として、パワーポイントをPDF化したものが収められており、学生はいつでも見ることができる。また、課題のヒントや解答も掲載しており、誰がいつ解答を見たかということも記録され、教師が把握できるようになっている。「行動はチェックされているので、むやみやたらに解答を見ないようにと指導しています。ただ、分からなくて、ずっと放置状態になるのもよくないので、どうしても分からない場合は見てもいいことになっています」(伊藤氏)
iPhoneで教材を見ながらPCで作業するというシステムは、統計学の授業でも使われている。Excelで統計処理をする場合、多くのセルを使うので画面は広ければ広いほどいい。画面を有効活用するために、iPhoneをセカンドモニターとして使うのは好都合だ。また、iPhoneを使ってリアルタイムアンケートをとり、集計したデータを各学生のPCに配布し、集計したばかりのデータをそのまま学生に分析させるというユニークな試みも行われている。
事例3:高校から大学の接続教育に活用
最近は入試が多様化しており、推薦入試では11月、12月くらいで合格者が決まる。大学では、“合格が決まってから大学入学までの教育をどのような方法で行うか”という接続教育が重要視されている。
青山学院大学社会情報学部では、推薦入学者を対象に英単語学習を課している。11月末から3月までの期間で英単語6000語を覚えるというもので、この学習システムは2008年度に伊藤氏がゼロから2日間で構築したという。ただ、当時はドコモ端末でCookieが使えず(2009年夏モデル以降の端末から対応)、セッション管理が他の端末と異なることから、PCとドコモ以外の携帯電話にしか対応できなかった。
そこで、2009年度はPCとドコモも含めたすべての携帯電話に加え、iPhoneやAndroid端末にも対応させた。この英単語学習システムはWebアプリとして提供するもので、英単語を見て、その意味を20数択から選択するというもの。携帯電話で20以上の選択肢から選ぶのは操作的に厳しい部分もあるが、iPhoneならフリックとタッチで済むので簡単だ。また、各課題に取り組む期間は厳密に決められている。選択肢の数を多くすることや期間を限定することは、英語を担当する教員の要望に沿った格好だ。
問題を解いて提出すると結果が表示され、学生は課題の習熟度を振り返ることができる。英語の教師は学生全員のデータをiPhoneで把握でき、登録されているメールアドレスを利用して学生にアドバイスを送ることができ、伊藤氏は将来はこれを音声入力でできるようにしたいと話す。「英語の教師が『もっとがんばれ!』と録音してメールで送り、学生がそれを聴ける、というような感じで。PCのメールだと学生がいつ見ているのか保証されないが、携帯電話を使えば現実感が高まると思います」(伊藤氏)
この取り組みでは、異分野の教員と話し合ってシステムを作り上げたことが収穫だったと伊藤氏は振り返る。「文系学部でよくあることですが、先生方は『こんなシステムがあったらいい』といいうアイデアをたくさんお持ちなんですが、具現化する術がない」。業者に頼むと数百万から数千万円のコストがかかるため、検討レベルで終わっていたような案件を、今回は文理のコラボレーションで具現化できたことになる。
「社会情報学部としてはシステムやアプリケーション、コンテンツを生成できる人材をできるだけ早い段階から育成したいと思っていますし、学生が具体的な成果を創出していくような土壌を醸成していきたい。僕個人としては、これが青山学院大学 社会情報学部の文理融合のスタイルではないかと思っています」(伊藤氏)
教育にiPhoneを利用する取り組みについては、今後もさまざまな仕掛けを考えていると伊藤氏は意気込む。「新しいモバイルネット社会は大学を革新しうると思っています。大学がそれによって活性化すれば、社会が活性化するはずだという考えのもとに、いろいろやっていきます」(伊藤氏)
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