法人向けiPhoneマーケット最新動向――なぜ、“ビジネスでiPhone”なのか?:iPhoneとビジネスのミライ(2/2 ページ)
2009年夏にiPhone 3GSが登場して以来、生産性の向上や業務の効率化を目指して導入する企業が増えている。スマートフォン元年といわれる2010年、iPhoneの法人活用はどのような広がりを見せるのか。
変容しつつあるiPhoneアプリ開発のトレンド
iPhoneを導入する際、利用する機能を“アプリ”で開発するのか、“Web”で開発するのかを選ぶのも重要なポイントだ。法人向けiPhoneアプリ開発の提案についてジェナでは、iPhone“アプリ”のみならず、iPhone“Web”による提案を行うケースも最近は増えている。これは、iPhoneの標準ブラウザであるSafariがHTML5に対応していることに因るところが大きい。
HTML5では、ローカルストレージ(Client-side database storage/SQL API)と呼ばれる機能により、ブラウザがデータベース機能を持ち、オフライン時でもアプリのように動的なデータを参照できる。iPhone“Web”の機能がiPhone“アプリ”の機能に近づいたため、審査が必要なiPhone“アプリ”ではなく、公開が容易なiPhone“Web”による開発を選ぶクライアントも増えている。
例えば、iPhoneから特定の社内システムにアクセスするためのiPhoneアプリを開発する場合、アプリの配布方法はAppStoreを通して全世界にアプリを公開するか、エンタープライズ配信(AppStoreを介さずに、企業内の認定ユーザーへ社内専用アプリケーションを配布する方法)で社内ユーザーに配布するかの2通りしかない(厳密には、アドホック配信というアプリ開発時の検証用に用いられる配布方法も存在する)。
企業によっては、運用上の理由から上記のAppStore経由の配信とエンタープライズ配信のいずれも採用できないケースが発生しており、アプリに比べて運用が容易なWebが採用されるケースも多々あるわけだ。
ただ、誤解を招かないように申し上げておくが、これはアプリ開発のニーズが減少しているというわけではない。お伝えしたいのは、iPhoneでコンテンツやサービスを公開したいのであれば、アプリだけではなく、Webという選択肢も大いにありうるということである。
iPhoneが創る“ビジネスのミライ”とは
2010年4月にはドコモのソニエリ製Android端末「Xperia」がリリースされ、その後も時期は未定ながらソフトバンクモバイルやauからAndroid端末が登場することが分かっている。また、4月末に予定されているiPadの国内販売の動向も気になるところである。そしてもちろん、スマートフォンのグローバルスタンダードといわれるBlackBerryからも目が離せない。はたして未来の法人向けスマートフォン市場は、どのような進化を辿るのだろうか。次回以降、iPhoneを中心とした法人向けスマートフォン市場の最新情報やケーススタディを通して、本稿のタイトルでもある「iPhoneが創るビジネスのミライ」について解説しよう。
企業のプロモーションにもiPhone
生産性向上のためのツールという枠にとどまらない、幅広い法人活用が進んでいるのもiPhoneの特徴といえるだろう。その1つがプロモーション用途での活用だ。企業がプロモーションにiPhoneを活用する場合、大別すると2つのケースが存在する。1つは「サービスプロモーション」、もう1つは「ブランドプロモーション」である。
サービスプロモーションの具体例としては「ぐるなび」「HOME’S」「楽天トラベル」に代表される、既存サービスのiPhone対応によるプロモーションが挙げられる。既存のWebサービスをiPhoneに対応させることで新規ユーザーを獲得する――という、シンプルだがビジネスに直結する効率的なプロモーションである。最近では、ドミノ・ピザがGPS機能を利用して野外にピザを配達するアプリをリリースするなど、iPhone独自の機能を活用したアプリも増えている。
ブランドプロモーションの具体例としては「シャネル」「グッチ」「エルメス」などのラグジュアリーブランドのアプリが代表的だ。iPhoneが持つマルチメディアコンテンツの表現力を最大限に生かした、スタイリッシュなムービーや最新コレクションのイメージ、マップ機能と連動したショップ情報など、従来の携帯端末では表現しきれなかったブランドの魅力が詰まったコンテンツを提供している。「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」では、2010年2月に最新コレクションをiPhone上でライブ中継するというリアルタイム性の高い取り組みも行っている。
日本のプロモーションでは、2010年3月のドラえもんの映画公開にあわせてリリースされた「ドラえもんiPhoneアプリ」が記憶に新しい。iPhoneのホーム画面上に全16アプリのアイコンを順番に並べるとドラえもんの顔になるというプロモーション手法は非常に斬新であった。(かくいう筆者もダウンロードした。)
iPhoneを活用した企業のプロモーションでは、従来の携帯電話の常識を覆す「次世代モバイルプロモーション」といえるものも登場しており、今後の新たな展開が楽しみな分野だ。
プロフィール:手塚康夫
株式会社ジェナ代表取締役社長。慶応義塾大学環境情報学部在学中より複数のモバイル関連ベンチャーに参画し、2006年に株式会社ジェナを設立。創業時より法人向けモバイルソリューションに特化したコンサルティング事業を展開。2009年に法人向けiPhone総合サービスを開始し、iPhoneビジネス活用ポータル「iPhone Business Paradise」の中の人として法人向けiPhone市場の開拓に日々励む。Twitterアカウントは @iphone_business 、OneTopiのトピック「iPhoneビジネス」のキュレータも務める。
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