ケータイカメラの付加価値(後編)――便利に撮るための機能:ケータイカメラ進化論
画素数が向上したケータイカメラには、きれいに撮るための機能に加え、便利に撮るための機能も搭載されるようになった。昨今のケータイカメラには、自動で顔を検出してフォーカスを合わせる顔検出AFや、あらかじめ登録した顔にフォーカスを合わせる顔認識AFなど、多彩な機能が搭載されている。
ケータイカメラは近年、驚くほど進化しました。前回は、いかにきれいな写真を撮るかを追求した結果、付加された機能について書きましたが、今回は写真を撮りやすくしたり、必要な情報を簡単に入手できるようにするために付加された便利な機能についてお話します。
ケータイカメラにオートフォーカス機能が導入され、ピンボケ写真が少なくなりましたが、今度は「撮りたい被写体にピントが合っていない」というユーザーの声が聞かれるようになりました。
狙った被写体に自動でフォーカスが合えば、意図した写真を撮りやすくなります。そこで次にケータイカメラに搭載されたのは、顔に自動でフォーカスを合わせる機能でした。ケータイカメラの写真は、人の顔にフォーカスを合わせているものが圧倒的に多かったことから、最初に搭載されたようです。
顔検出オートフォーカス(AF)は、被写体の中から顔を自動的に検出し、その顔にフォーカスを合わせる機能です。デジタルカメラでは2006年ごろから搭載され始め、ケータイカメラにも2007年から搭載されるようになりました。2007年11月に発売された「N905i」には最大3人まで人物の顔を検出できる機能が搭載され、ケータイカメラでも顔がピンボケになることが少なくなりました。そして顔検出AFは、あらかじめ登録した顔にフォーカスを合わせる顔認識AFへと進化しています。
顔検出AF機能もさらに進化を続け、遊んでいる子供やペットのように予測できない動きをする被写体でも追尾し続けるフォーカス機能と組み合わせて、追いかけながらフォーカスを合わせられるようになりました。この機能もまずはデジタルカメラに搭載され、ケータイカメラでは2009年5月に発売された「933SH」に搭載されました。なお、933SHに搭載された「チェイスフォーカス」という被写体追尾機能には、モルフォの主力製品の1つである「TrackSolid」が採用されています。TrackSolidは携帯電話メーカーからの引き合いが多く、2009年冬モデルから搭載端末を急激に増やした製品です。
次に難しいのが、一瞬のシャッターチャンスに合わせた撮影です。「子供の笑った顔を撮りたいのに、なかなか上手いタイミングでシャッターが切れない」とおっしゃるママさんユーザーが多くおられます。シャッターチャンスを逃さないための機能として登場したのが、笑顔になったときに自動でシャッターを切る「スマイルシャッター」や、振り向いたときに自動でシャッターを切る「振り向きシャッター」なのです。
また、写真を美しく撮るためには、明るさやシーンに応じてカメラの設定を適切に変更する必要があります。ケータイカメラにもこの機能は付いていますが、手動で設定しなければならず、また適切に設定を行うには知識や経験が必要になります。その最適な設定を自動で行うために開発されたのが、シーン自動認識機能です。
モルフォが開発した「PhotoScouter」では、撮影シーンを自動的に認識してフレーム内にある構成要素を人物や海、山、花、夕焼けなどの風景や文字、食べ物などと判別します。そして認識・判別した結果をもとに、自動で撮影モードを切り替え、絞りやシャッタースピードなども最適な設定に変更するので、ユーザーは面倒な設定変更の操作なしで、被写体やシーンに合った美しい写真を撮ることができます。
このシーン自動認識の応用で、QRコードや名刺を自動的に検出することができ、カメラをかざすだけでバーコードリーダーや名刺リーダー機能に切り替えられるようになりました。バーコードリーダー機能を探したり、アプリを起動したりする手間が省けるので、ユーザーには朗報だと思います。
余談ですが、このQRコードはまさにケータイカメラの登場によって普及した機能です。QRコードはデンソー(現:デンソーウェーブ)が開発したもので、自動車部品の生産管理に使用されていました。2000年までにJISやISOで規格化され、デンソーが特許権を行使しないと宣言したことで普及に弾みがつき、携帯電話でも広く使用されるようになりました。
QRコードの認識機能が初めて搭載されたのが、2002年9月に発売された30万画素カメラ搭載の「J-SH09」です。URLを記録したQRコードをケータイカメラで読み取ることで、URLの文字列を入力することなくサイトにアクセスできるようになりました。時を同じくして、着うたや電子書籍、EC(電子商取引)などの携帯電話向けコンテンツが大きく発展したこともあって、QRコードの需要はますます広がり、現在ではQRコード読み取り機能は日本の携帯電話の標準搭載機能になっています。
この機能も「写メール」と同様、ケータイカメラ独自の機能です。これらの機能を見ると、「ネットワークにつながっている」という特徴を生かしていることがよく分かります。今後はこのような機能を中心に、ケータイカメラは発展していくのではないでしょうか。
モルフォ 平賀督基 プロフィール
株式会社モルフォ、代表取締役社長。1974年東京都生まれ。1997年に東京大学理学部情報科学科を卒業。2002年、東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻(博士課程) 修了。博士(理学)。
2004年5月、画像処理技術の研究開発や製品開発を行う株式会社モルフォを設立。2006年6月に静止画手ブレ補正ソフトウェアがNEC製携帯電話端末に搭載されたのを皮切りに発表する製品が次々とカメラ付き携帯電話に搭載され、現在では全11製品が携帯電話端末やサービスに採用されている。2008年に「Dream Gate Award」を、2009年に「Entrepreneur Of The Year Japan」の「Challenging Spirit」部門大賞を受賞。
関連記事
- 「ケータイカメラ進化論」記事一覧
- ケータイカメラ進化論(1):ケータイカメラの誕生
今や携帯電話に必須となったカメラ機能。当初は“撮るため”だけに使われていたが、最近ではセンサーや各種の認識用途など活用の幅が広がっている。この連載ではケータイカメラの進化の過程をたどりながら、新たな活用の可能性を探る。 - ケータイカメラ進化論(2):画素数競争とケータイカメラの進化
登場から10年、画素数が100倍超にまで進化したケータイカメラ。その進化は手ブレ補正やイメージセンサーなどの周辺技術も進化させ、よりきれいな写真を撮れるよう工夫を凝らした端末が次々と登場した。 - ケータイカメラ進化論(3):ケータイカメラの付加価値(前編)――きれいに撮るための機能
ケータイカメラの画素数が向上するとともに、よりきれいに撮るための機能も進化。静止画や動画の手ブレ補正機能、オートフォーカス機能、ズーム機能など、デジタルカメラの機能が取り込まれ、ケータイカメラの性能を向上させた。 - タッチパネル携帯に新提案――iPhoneとは別の“操作感”「フォースセンサ」
若手社員「夏子ちゃん」と技術オタク「ムサシくん」が、高機能携帯を構成する技術や近未来のモバイル技術の数々を紹介。連載第3回は、iPhoneなどで採用されているタッチパネルの新しい技術「フォースセンサ」を解説。 - 被写体の軌跡を1枚の画像に合成――モルフォ、「StroboPhoto」を製品化
モルフォが連写画像合成技術を「StroboPhoto」として商品化。2009年の春夏モデルに採用された。 - VGA画面でノイズを抑えた高精細なワンセグを――ドコモとモルフォ、動画拡大技術を披露
VGAのケータイ画面でもっときれいな動画を見たい――。こんなニーズに応える画像処理技術をドコモとモルフォが開発し、CEATEC JAPANのドコモブースで披露した。低解像度の動画をソフトウェア処理で高精細に拡大するとともに、圧縮時に生じるノイズも軽減する。 - “青山のデニーズ”で思いついた技術が“夏モデル18機種”に搭載されるまで――モルフォ(前編)
「LUMIX」のテレビCMを見て思いつき、青山のデニーズで開発を決意――。こんなふうに生まれたケータイ向け手ブレ補正技術が、今や夏モデルの18機種に搭載されている。開発したのはモルフォという会社。同社の手ブレ補正技術は、なぜ多くのケータイメーカーに採用されるのか。 - 手ブレ補正、フレーム補間、その先で目指す“ケータイを変える”技術は――モルフォ(後編)
“青山のデニーズ”で生まれたケータイ向け「6軸手ブレ補正」技術で成功を収めたモルフォが次に取り組んだのが、“ワンセグや動画再生のクオリティを上げる”フレーム補間技術だ。次々とトレンド機能をケータイに載せていくモルフォが、次に開発する技術とは?
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.