「いつでもどこでも好きな端末で読書」――ドコモとDNPが目指す電子書籍の姿
「サービスのキーワードは、リアルと電子の連携、オープンでマルチな展開」――NTTドコモと大日本印刷は、今秋にも電子書籍事業に乗り出す。ドコモ回線対応のマルチデバイスにサービスを対応させ、将来的には他キャリア端末への対応も視野に入れる。
「いつでもどこでも好きな端末で読書ができるようにしたい。サービスのキーワードは、リアルと電子の連携、オープンでマルチな展開だ」
NTTドコモと大日本印刷(DNP)は8月4日、電子出版事業における提携を発表した(関連記事)。両社は今後、共同事業会社を設立し、10月末〜11月ごろにドコモのスマートフォン向けに電子書店サービスを開始する方針だ。コンテンツは、コミックや雑誌、新聞なども含めて10万点以上を用意する。
“ハイブリッド型書店”を打ち出して、リアル書店や紙書籍との連携を図るのが特徴の1つ。また、iモード端末や、冬商戦でドコモが投入する電子書籍端末、タブレット端末など、多様なデバイスにサービスを広げていく。決済にはドコモの課金プラットフォームを活用するが、将来的にはドコモ端末以外での利用や、海外展開も視野に取り組むという。
紙やリアル書店と連携 デバイスもフォーマットもマルチに対応
「紙の書籍と電子書籍。その2つのフォーマットをお客様が時々のニーズに応じて選択する時代。相乗効果がでるように、ハイブリッド型の書店を目指す」――NTTドコモ 代表取締役副社長の辻村清行氏は事業の方針をこう語る。DNPグループの丸善、ジュンク堂、文教堂といった書店や、オンライン書店「bk1」と電子書店を連携させる考えで、DNPの代表取締役副社長の高波光一氏も「紙やデジタル、プリントオンデマンドなど、読者は好きな形式で購入が可能になる」と、“ハイブリッド”なサービス像を強調する。
連携の詳細についてDNP 常務取締役 北島元治氏は、「この場で話せないことが多い」と前置きした上で、利用者に付与するポイントの共通化や、電子書籍で書籍の一部のみを公開して書店へ誘導する売り方、本と電子書籍とのセット販売、本と電子書籍を一括で管理できる書棚サービスなどを“考えられる例”として挙げる。紙とデジタルの価格付けに関しては「現在はコンテンツホルダーと、リアルな本も含めた商品展開、商品作りを話し合っている段階」(北島氏)とし、内容は語られなかった。
コンテンツのファイル形式は、「EPUBなど形式は複数あるが、(ユーザーが)自由に使えるようにしたい。1つにこだわらず、複数に対応する」(辻村氏)。さらに、マルチデバイスへの対応も進め、iモードを使ったケータイでの利用も来年の4月ごろには対応する考え。メーカーブランド端末への対応も視野に入れるほか、iPadや他キャリアの端末への対応も検討していくと辻村氏はコメントし、“オープン”な事業方針を強調した。
また辻村氏は複数のデバイスで同期できる「しおり機能」を来春にも実装することを明かし、1つのコンテンツをマルチデバイスで共有するサービス像を示した。さらに「コンテンツに関してもオープンにしていく」(辻村氏)として、幅広い出版社や企業と協業してコンテンツを増やしていく方針を打ち出す。当初の10万点あまりのコンテンツはDNPが収集したものだが、将来的には「(DNPと取り引きのない)出版社、あるいは凸版さんなどが手掛ける電子コンテンツを電子書店で扱うことも、十分に考え得る」(辻村氏)。
今回の発表にあたり、出版社からは講談社と小学館が、端末メーカーからはNEC、LGエレクトロニクス・ジャパン、サムスン電子が取り組みへの賛同を表明している。
強みはDNPのノウハウとドコモの顧客基盤
DNPはこれまで、PCや携帯電話向けに電子書籍事業を展開しており、秋に国内最大規模の電子書店をオープンすることを今回の発表に先駆けてアナウンスしている。こうした取り組みで得た電子化のノウハウや出版社との関係と、ドコモが持つ「5600万人の顧客基盤と良質な回線」(辻村氏)や課金システムを組み合わせることで、「両社の間にWin-Winの関係を作れると確信している」(高波氏)という。
一方ドコモは、共同事業会社が書籍代で収入を得るメリットに加え、電子書籍事業によるデータARPUの向上に期待を寄せる。「テキストのみならデータ量はそれほどでもないが、これからは動画などのマルチメディアに対応した新しい書籍コンテンツが出てくる。こうしたものがトラフィックを増やす」(辻村氏)。また、課金システムの手数料も想定される収入だ。報道陣が、Appleが3割の手数料を請求していることに触れると、辻村氏は「30%は高めというのが率直な感想」と答え、手数料が3割を下回る可能性を示した。
辻村氏は「出版市場は約3兆〜4兆円の規模だが、その中の2割から3割が電子コンテンツに移る」と今後の電子書籍ビジネスの盛り上がりを予想する。共同事業会社では、「数百億円」の売上を1つの目標として、事業を展開するという。ただし、共同事業会社の出資比率などの詳細は「決まっていない」とし、他企業が参画する可能性も含めて、検討していくとした。
KDDIがソニー、凸版印刷、朝日新聞社と共同で電子書籍事業に取り組むことを発表し、ソフトバンクモバイルも電子書籍サービス「ビューン」を展開するなど、携帯キャリアの電子書籍事業が加速している。さらに、KDDI陣営は取り組みのオープン性をうたい、幅広い企業や端末に対応する方針を示している。報道陣からは、こうした中で各社が連携する可能性があるかという質問が挙がった。これに対しDNPの高波氏は、「KDDIさんらの取り組みは情報がほとんどなく、どういうことをおやりになろうとしているか分からない。お話いただければ、ドコモさんと相談し、組むことができるか独自にやったほうがいいのかを検討する。孫さん(ソフトバンク)の方も色々と話があるが、具体的にどうするのかよく分からず、はっきりとすれば検討する」とコメントした。また辻村氏は「電子出版ビジネスはまだ黎明期。いろんな所が手を挙げて、書店を開設している状態だが、書店が1つだけというのは考えられず、複数あっていいと思う。それらが連携し、徐々に市場が求める数にまとまると考えている」と付け加えた。
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