2011年は「大変化の年」!? 携帯3キャリアのスマートフォン戦略を読み解く(中編):神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
スマートフォン戦線で他社に遅れをとったKDDIが発表した2010年冬・2011年春モデルでは、IS seriesがそのラインアップのごく一部であるにもかかわらず、説明会ではほとんどの時間を「Android au」の説明に割いた。その「本気のau」のラインアップを分析する。
個々の端末にも目を向けてみよう。
まず冬春商戦のIS seriesで先発となるIS03だが、これはバランス感の高さとセンスのよさが光るモデルだ。他社も含めた今期のスマートフォンの中ではハイスペックとは言えないが、手にしたときのサイズのちょうどよさ、ユニセックスなデザインは特筆すべきところがある。iPhone 4のホワイトモデルがいまだ登場せず、他社のスマートフォンも大柄で無骨なものが多い中で、IS03は“女性にも好まれるデザイン”を持ったスマートフォンと言える。
機能面では、メモリ液晶を組み合わせた「コンビネーション液晶」がとても便利だ。これはメインディスプレイの表示が消えても時計や電池残量を確認できるというもので、フルタッチパネル端末の弱点である“スリープ中は何も確認できない”状態が回避できる。コンビネーション液晶は日常的な使い勝手を大きく向上させるものであり、実用性が高い。筆者は「3D液晶」や「スーパー有機EL(スーパーAMOLED)」よりも、コンビネーション液晶の方を高く評価している。願わくば今後のバージョンアップや次期モデルで、このメモリ液晶部分にEZニュースEXのようなプッシュ型のコンテンツ配信や、Androidアプリの各種インフォメーションを表示できるように進化させていってほしい。
IS03は他社の高性能なスマートフォンと比べると、スペックという点ではやや見劣りするかもしれない。しかし、実際に使ってみると、その“心地よさ”ではかなり秀でており、ユーザー体験のレベルでは(やや方向性は違うが)iPhone 4に肉薄するものになっている。スマートフォンの購入を検討しているのなら、ぜひいちど「実機を触ってみる」ことをお勧めする。
万人向けのIS03に対して、“高性能”をセールスポイントにするのがREGZA Phone IS04である。同機の特長は4インチのディスプレイと防水性能の搭載であり、今回の発表会では開発中でほとんど試せなかったものの、今期のハイエンドスマートフォンの中で十分に戦える能力を持っていそうだ。
そしてもう1つ筆者が注目したのが、韓Pantech&Curitel製のSIRIUSα IS06である。これはISシリーズの中では少し異色な端末で、グローバルモデルに基本的な日本語化のみを施し、“素のAndroid”とメーカー製のUIを搭載する。KDDIの作り込みの部分を減らすことで、最新のグローバル端末とAndroidをいち早く日本に導入するというものだ。
KDDIはIS seriesにおいて、日本の主流市場向けのスマートフォンには、日本市場に合わせた丁寧なローカライズ(地域最適化)が必要としている。しかし、少数派ながらIS06のような“すっぴんのAndroid端末”を求める層がいるのも事実である。今回IS seriesのバリエーションの中にIS06を盛り込むことで、そうしたニーズにも応えたことは重要だろう。iPhoneを持たないauにとって、今後、IS seriesの中の2割前後を、最新Android OSを搭載したグローバルモデルにすることが、ラインアップのバランスを取る上でも重要である。
今回のIS seriesは、KDDIのスマートフォンに対する戦略やコンセプトがしっかりと反映されたものになっており、端末数こそ他キャリアより少ないが粒ぞろいだ。ケータイユーザー層に訴求するというコンセプトもいい。すでにIS03の事前購入宣言の数は20万件弱になっているとも聞くが、冬春商戦に向けてかなり期待できるものなのは確かだろう。
オープン時代の提携戦略で「一歩リード」
スマートフォン時代の差別化戦略において、KDDIはサービスやアプリでも布石を打ってきた。その象徴的なものがSkype Technologiesとの戦略的包括提携だ。
田中専務が「禁断のアプリ」といったことで話題になったSkypeの導入だが、これはスマートフォンを通じて、オープンなインターネットサービスが利用されるようになる中で、キャリアが独自性を打ち出す1つのケーススタディになりそうだ。
周知のとおりSkypeは、P2P技術を用いてクライアントソフトウェアを通じてVoIPによる通話やインスタントメッセンジャー、データ交換などの基本機能を無料で利用できるサービスだ。すでにパソコンだけでなくiPhoneなどスマートフォン向けアプリも登場しており、「モバイルで使う」ことそれ自体に新規性はない。そこでKDDIは今回の提携とSkype導入にあたり、自社のネットワークインフラをSkypeクライアントに最適化。バッテリー消費量を抑えてバックグラウンド動作し、回線交換でSkype通話をする、という作り込みを行った。これによりSkype auによるSkypeは、使い勝手や通話品質ともに、他キャリアのスマートフォン上で動くSkypeアプリとは別物の品質・安定性になっている。しかも、2011年11月末までの試行期間という扱いだが、「Skype同士の通話料は無料」も実現した。Skypeは学生層を中心に国内でも利用者が増えており、Skype auによりモバイルでも利用できるようになることは、学生がターゲットになる春商戦で訴求ポイントの1つになりそうだ。
Skype auの仕組みそれ自体は旧来の回線交換網を使うため、コストモデル的にはキャリアにとってリスクを抱える面はある。しかし、オープン型のインターネットサービスを用いながらキャリアの独自性を打ち出す上では効果的である。オープン時代にキャリアはどのように提携戦略を広げて、差別化を行っていくか。この点においてKDDIは、ドコモやソフトバンクモバイルに対して一歩リードしたと言えそうだ。
課題は「Androidのバージョン」と「ラインアップ数」
今回のIS seriesとSkypeとの提携は、「auの本気」を感じるのに十分であり、冬春商戦に向けた取り組みとしても高く評価できる。しかし、その上で、KDDIのIS seriesには今後に向けた2つの課題があると筆者は見る。
1つは「Androidのバージョン」についてだ。
前述のとおり、KDDIのIS seriesの戦略では、大半の機種が日本市場に合わせてUIも含めた踏み込んだローカライズを行う。そのため端末の開発期間はどうしても長くなり、"発売時に最新バージョンのAndroid OSを搭載することは難しくなる。IS seriesの場合、ユーザーの使い勝手を向上するための独自かつさまざまな機能改善が施されているため、バージョン番号の細かな違いが大きな機能差にはならない。しかし、今回ソフトバンクモバイルが行ったように、最新バージョンのAndroid搭載をプロモーション上の訴求ポイントにされてしまうと、KDDIが苦しいのは確かだ。
また、Androidのバージョンアップ対応も大きな問題だ。先にIS01のバージョンアップ見送りが発表されたが、IS seriesのように、キャリアによる作り込みの領域が大きいと、今後もいち早く最新のAndroidにバージョンアップするのは難しいだろう。今後のIS seriesは、企画開発段階からCPU性能やメモリー搭載量に余裕を持たせておき、作り込み部分もモジュール化してバージョンアップ対応をしやすくするといった取り組みが必要だろう。キャリアサービスへの対応もAndroidの標準的な機能やアプリを使う配慮が必要だ。
2つめの課題が「ラインアップ数が増やしにくい」ことだ。
IS seriesのように作り込みを行いキャリアの独自性を打ち出すと、当然ながら、1モデルあたりの開発コストや採算リスクは増す。グローバルモデルに多少の日本語化を施して販売するのと比べて、初期の調達台数やau向けでの販売総数を多くしないとメーカー側の採算が合わないのだ。そのため他キャリアと同程度のスマートフォン移行率であったら、IS seriesのラインアップ数はどうしても少なくせざるを得ない。
この課題に対応するには、KDDIは迅速にフィーチャーフォンからスマートフォンの移行を行い、総販売台数におけるIS seriesの比率を大きく取る必要がある。ドコモのように“2正面作戦”をする余裕はないので、どこまでスマートフォン移行を推進できるかが、IS seriesの今後の成功にとって重要になるだろう。
KDDIは「ブレずに前に進めるか」
総じていえば、IS seriesの戦略は“スマートフォンの一般普及”において理にかなったものであり、市場におけるKDDIの立ち位置や、スマートフォンの可能性と限界をよく研究したものだ。筆者は、Android搭載スマートフォンの一般化において、IS seriesのコンセプトが正しいと評価している。
しかし、その一方で一抹の不安を感じるのが、KDDIがこのIS seriesの芽をしっかりと育てられるか、だ。
スマートフォンの一般普及はまだ始まったばかりであり、来春商戦で「フィーチャーフォン」と「一般ユーザー向けスマートフォン」のどちらが主役になるかは不分明である。そのためIS seriesのコンセプトが時期尚早になってしまう可能性はゼロではない。ここで動じずに、今の路線を継続できるかがKDDIの正念場だ。ここ最近の同社の敗因は、目先の営業数字だけで戦略や方針がブレてしまい、長期的な視野での投資や取り組みができなかったことにある。だからこそ、IS seriesのコンセプトを“ブレさせずに推進すること”はとても重要である。IS06以降の後継機開発や、コンテンツサービスの積極的なスマートフォンへの移行も注目である。
田中専務は12月1日にKDDIの新社長に就任するが、新たな経営陣のリーダーシップと、全社的なIS seriesへの移行・推進に期待したい。
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