他社からの出資も成果――スタートアップの背中押す「KDDI ∞ Labo」という場
KDDIが若い起業家・エンジニアの事業支援を目的に、メンタリングなどの各種支援を行なう「KDDI ∞ Labo」。同社がどのような姿勢でプログラムに取り組み、どんな結果がでているのか、担当者に聞いた。
「参加した5社すべてに出資があった」
若い起業家・エンジニアを募り、将来性が感じられたチームに対してKDDIや外部アドバイザーが3カ月間、サービス開発をさまざまな形で支援する――そんなKDDIのインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」の第2期が始まる。第1期の参加企業5社はプログラムを終え、サービスをリリースするとともにそれぞれ期間中に他社からの出資を受けた。彼らの事業計画書は、KDDI ∞ Labo関係者のサポートを得て作られたものだという。KDDIも2社に対し出資しているが、他の3社はベンチャーキャピタルから出資を受けている。
支援した結果、他社が出資する――KDDIとしては“うまみ”が少ない話にも思えるが、それでもいいのだとKDDIの井上敏了課長(新規ビジネス推進本部 ビジネス統括部 新規事業推進グループリーダー)は説明する。KDDIのメリットばかりを考えると、サービスがしぼみ、つまらなくなる――それでは、取り組む意味がないというのだ。
新しいKDDIの象徴の1つとして
「auモメンタムの回復」――2010年12月からKDDIの社長に就任した田中孝司氏が、さまざまな場で口にした同社の目標だ。同社は2011年、出遅れていたスマートフォン分野で挽回すべく、端末ラインアップを拡充。Android/iOS/Windows Phoneという3プラットフォームを日本のキャリアとして唯一そろえ、さらに3GとWiMAXの双方に対応した端末を展開するなど、ユーザーが端末やサービスを自由に選べる環境作りに力を入れた。
そして、新生auのイメージ作りに力を入れる田中氏が、強い思い入れを持って始めたというのがKDDI ∞ Laboだった。「頑張るエンジニアの力になりたい」。KDDI ∞ Laboのキックオフミーティングで、田中氏は取り組みの目的をそう説明した。田中氏自身、学生時代に“ソフトウェアで一旗揚げる”べく渡米し、夢破れて帰国した経験があるという。
とはいえ、この事業はボランティアではない。新生auのブランディングでもあるほか、良いサービスが生まれれば他社に先駆けて手を組むチャンスにもなる。第1期プログラムに参加した5チームのうち、KDDIはランチセッティングサービス「ソーシャルランチ」のシンクランチと、マイクロギフトサービス「giftee」のギフティに出資した。両社にはKDDIの事業部門の担当者が付き、提携などについて話し合っている。
すでに提携の第1弾として、gifteeではキャリア決済サービス「auかんたん決済」が利用可能になった。gifteeは、SNSを通じて仲間にささやかなギフトを送れるサービス。SNSやO2Oサービスに注目が集まる中、同サービスの視点に可能性を感じていると、ギフティとの業務提携に関わったKDDIの久保禎浩氏(新規ビジネス推進本部 事業開発部 スマートコマースビジネス1グループ)は話す。
参加者同士の化学反応にも期待
こうした結果がある一方、「出資や提携を前提にプログラムを組んでしまうと、参加者が本来やりたいことからずれてしまう危惧」(井上氏)も感じ、参加者を囲い込むような制限はなるべく排除したという。「しがらみは廃しつつ、その中でもし一緒にできることがあれば、やっていこうというスタンス」(井上氏)。他社から出資を取り付けるための事業計画作りについても、メンターが積極的にアドバイスする。「事業計画のメンタリングは、参加者メリットの大きな部分の1つ。結果として第1期のプログラム期間中に、参加した5社すべてに出資があった。この点は参加者にも感謝してもらえた」――井上氏は満足そうにそのことを話す。
プログラムでは、サービス開発に必要なサーバやワーキングスペース、検証用端末を参加者に貸し出す。また、KDDI事業部門からの定期的なメンタリングや、外部アドバイザーらを招いて毎週行う進捗報告会も実施する。こうした中で参加者はサービスを磨き、時にはサービスの方向性を再考していった。例えば、シンクランチのランチセッティングサービスは「SyncLunch」という名前になる予定だったが、周囲のアドバイスもあってその案は取りやめに。同社社長が個人でサービスを開発していた時代の名称と同じ、「ソーシャルランチ」という名前になった。また、事業性を議論した結果、サービスの内容が随分と変わったチームもあったようだ。
このように、メンターや外部アドバイザーらとのコミュニケーションの中で、“第1期生”はサービスやアプリを作りだしていった。今後は「1期と2期との交流の場も提供していきたい」と、井上氏は話す。「第1期と第2期のサービスがコラボレーションするといったことも、ありえるのでは。KDDI ∞ Laboの狙いの1つは若手の育成支援だが、取り組みの中で若い企業のネットワークが生まれることも、期待している」(井上氏)
第2期は、応募者の中から合計4チームが選抜された。周囲の人とノートを共有するという「U-NOTE」、友達同士でどんなアプリを使っているか共有する「Peepapp(仮)」、Twitterからユーザーの嗜好を分析してユーザーの好みそうなものを自動的にコレクションするという「スキコレ!」、クリエイターが作品の情報を発信する場を提供する「Creatty」――これらサービスの展開を目指すチームが、プログラムに参加する。事業性や参加者の熱意など、さまざまな視点でKDDIのメンターらが見込んだチームだというが、果たして3カ月後、どんなサービスやアプリが生まれるのだろうか。
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