今週末見るべき映画『ルート・アイリッシュ』(1/2 ページ)

» 2012年04月02日 12時06分 公開
[二井康雄,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

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※この記事は、エキサイトイズムより転載しています。


 まことに骨太、ケン・ローチという映画作家の信念にあふれた映画である。『ルート・アイリッシュ』(ロングライド配給)は、イギリスの民間兵として、イラク戦争に関わった男同士の友情を描くが、話はそこに留まらない。そもそも、イラク戦争は、アメリカのブッシュ政権が、イラクに存在しなかった大量破壊兵器が、さもあるようにみせかけての暴挙である。いろいろと大義名分があるようにいうが、冗談ではない。詳細が分かるにつれ、ブッシュ政権の、ひいてはアメリカのいい加減さが浮き彫りになる。

エキサイトイズム (C) Sixteen Films Ltd, Why Not Productions S.A., Wild BunchS.A.,France 2 Cinema, Urania Pictures, Les Films du Fleuve,Tornasol Films S.A, Alta Produccion S.L.U.MMX

 アメリカのブッシュたちは、イギリスのブレアたちを巻き込んで、勝手にイラクに侵攻、現在のオバマ政権が、やむなく終結宣言をした。まったく無意味な戦争で、勝利もなければ、平和もない。武器商人たちは大儲けだったかもしれないが、多くの人が死んでいった。ことに、一般のイラクの人たちが。イギリスは、戦争請負の人材派遣会社を通して、多くの民間兵を送り込む。貧しい階級の人たちが、高い賃金と引き換えに、イラクに向かう。

 2011年12月のオバマ大統領による「イラク戦争終結宣言」に、ケン・ローチはコメントする。「真のイラク戦争終結は、すべての戦争請負業者たちが、あの地から去ってからはじめてなされるとわれわれは信じている」と。ケン・ローチは、表現したいこと、伝えなればならないテーマを、妥協せず、映画にする作家の1人だと思う。その作品群は、風格があり、説得力に富む。どの映画もハズレはないが、ことに好きなのが、1995年に撮った『大地と自由』だ。イギリスの老人デヴィッドが死ぬ。孫娘に残された古びたトランクから、色褪せた写真、古い新聞記事や手紙が出てくる。スペイン内戦で、国際義勇軍として戦ったデヴィッドの青春が、鮮やかに浮かび上がる。

 ルート・アイリッシュもまた、大地と自由に似た構造の映画である。ルート・アイリッシュとは、バグダッドの空港から、アメリカ軍の管理する区域グリーンゾーンを結ぶ道路のことで、当然、攻撃目標となる危険な道路である。

 ファーガスとフランキーは、幼いころからの親友、成人後、民間兵としてイラク戦争に赴く。ファーガスは、故郷のリバプールに帰還するが、残ったフランキーはイラクで亡くなる。フランキーが襲われて死んだ場所が、ルート・アイリッシュだった。ファーガスは、携帯電話に残された映像から、フランキーの死の真相を解明しようとする。

 映画は、2人の友情を描くが、テーマは重く、広い。大金で人を雇う「戦争ビジネス」の実態や、イラク戦争におけるアメリカとイギリスの欺瞞、犯罪が暴かれる。イラク戦争そのもの、ひいてはアメリカやイギリスのイラクでのやり方に、ノーを唱えることは簡単ではある。ケン・ローチと脚本のポール・ラヴァーティは、イラク戦争に加わった多くの兵士にインタビューを重ねる。結果、脚本は、声高にアメリカを告発しなくても、事実に基づいた重みが、イラク戦争の無意味さを伝える。

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 映画では、何ども「ヤバいときにヤバい場所に」というセリフが出てくる。民間兵たちに大金を支払っているけれども、ビジネスとして、さらに大金を得る企業、組織があることへの怒りを覚える。そして、まさに「ヤバいときにヤバい場所」で、犠牲となったフランキーを思うファーガスの行動に、心震える。大地と自由、『麦の穂をゆらす風』に続いて、ケン・ローチは、本作でもまた、戦争の愚かさ、無意味さを、描ききったように思う。

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