上空1万メートルを表現した「アルティクロン シーラス」――デザイナーに聞くBASEL WORLD 2013(3/4 ページ)

» 2013年06月07日 15時22分 公開
[岡田大助,Business Media 誠]

美しく、デザインされたものに囲まれて暮らしたい

――井上さんはフランス車が好きとのことですが、クルマも実用と感性の二面性があると思います。時計とクルマ、何か共通点はありますか?

井上さん: クルマだけでなく、照明やイスでも、美しいカタチであったり、デザインされたりしたものを所有する喜びとか、それらに囲まれて生活するのが好きです。デザインの仕事をしていると、例えば私がデザインした時計を使ってもらって、その人が幸せな気分になるとか、毎日が楽しいとか、そういうことが生まれてくるとうれしいですよね。

シーラスシーラス

 やっぱり、「好きだからほしい」「気にいったから身に着けたい」というのはあると思います。だから私にとってもフランス車は、美しいカタチだったり、走らせてみて面白かったり、乗り心地だったりという、そういうことを感じて幸せになる。こういう考え方が私のデザインにも通じているかもしれません。

 自分が美しいと思うものを作る、それを美しいと共感する人がいる、そして使ってもらえる。そうなるといいなと思っています。

――シーラスに戻ります。最先端の機能と、美しいデザインがうまく融合した時計だなと思いました。

井上さん: 今作は「プロマスター」シリーズということもあって、機能がプロフェッショナルであるというのが根底にあります。プロの使用に耐えられる機能を備えていて、そのうえに既存のプロマスターとは違う方向性のデザインを加えています。発表以来、「デザインでも機能を高度なところで生かしている」と評価されているようです。

時計メーカーとして、時刻表示は譲れないね

――アナログ針しかないのに、時刻を表示しながらも高度も表示できる。機能とデザインが融合しているひとつの例だと思います。

井上英樹 井上英樹さんとアルティクロン シーラス

井上さん: こだわったのは、「時計メーカーとして、時刻表示は譲れないね」ということ。ほかのメーカーでは、デジタル表示を併用したり、高度の表示に時分秒の針を使うので同時に読めなかったりということがあります。

 だから「アナログだけで」というのも大きなこだわりでした。デジタルのコンビネーションクオーツではなく、アナログ針で表示する。そのこだわりの中で、技術者と一緒に、針の動きはこうだ、針の位置はこうだといった具合に、表示方法を検討していきました。

 いろいろ試してみて出したアイデア図も、評価担当者から「このやり方だと目盛が読めない」と、ダメ出しをくらって……。何回も何回も「こうならどうだ」「これでどうだ」と試行錯誤して、試作品を何百本か作ったんですけど、それでもNGがでてしまって……。

(ここで同席の広報さんから「ぜいたくな……」というツッコミが入る)

 これでいける、という前提だったんですけどねえ(笑)。実際に試作品を持って山を登った評価リポートが戻ってくるのですが、「こういうときに読めない」「これはダメだった」と。だから、完成品は本当に読みやすくなったと思っています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.