夢の国産旅客機が世界の空を舞う:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(2/5 ページ)
MRJ(三菱リージョナルジェット)の離陸が間近に迫っている。予定している初飛行は、2013年の第3四半期。多くのファンが待ち望んだ国産旅客機の実用化に向け、これからの半年間はまさに正念場だ。
信頼を培った日本の技術
YS-11は決して成功したプロジェクトではなかったが、しかしその終焉(しゅうえん)をもって日本の航空機産業の芽はついばまれてしまったのかというと、そうではない。航空機はボディや主翼、内部の電気設備などさまざまなパーツの集合体であり、それぞれの要素技術を担うメーカーはその後も航空関連の技術を蓄積し続けてきた。
例えば、2007年10月にデビューしたエアバスのオール2階建て機A380(関連記事)。「空飛ぶ豪華ホテル」の異名をもつこの最新鋭大型機の開発パートナーには、日本の20社が名を連ねている。一方のボーイングでも、話題の“ドリームライナー”787の開発・製造(関連記事)では機体の35%を日本の重工メーカーが分担した。完成間近の時期に米シアトルのボーイング工場を取材で訪ねた際に、エンジニアたちが「“メイド・イン・ジャパン”のテクノロジーがなければ787の誕生もなかったよ」と口をそろえていたことを思い出す。787はまさに「準国産」ともいえる旅客機なのだ。
ボーイングの開発パートナーとしては、日本のメーカーはすでにボーイング767から関わってきた。製造の担当比率は767のときが約15%。それが次に開発された777では約20%に増え、787では機体構造の35%に日本の技術が採用されるまでに至っている。ボーイングはなぜこれほど大きな部分を日本に任せることになったのか? ボーイングの開発責任者は私に次のように話してくれた。
「767や777も海外の多くの協力メーカーとパートナーシップを組んで開発・製造を進めてきました。その中でも、日本から納入されるパーツは非常に優秀だったのです。品質が高いだけではありません。こちらの要求する予算枠で、しかも約束の時間に遅れずに製品を仕上げて届けてくれる。そんな実績が大きな信頼となり、社運をかけた“ドリームライナー・プロジェクト”を成功させるには多くの部分を日本に任せたほうがいいという発想になりました」
なかでも三菱重工業は、最も重要なパーツである主翼部分の開発・製造を一手に担ってきた。そうして蓄積された技術やノウハウが、MRJというリージョナルジェット機の分野でさらに大きく花開こうとしているのである。
関連記事
- 世界最大のオール2階建て旅客機、エアバスA380を解剖する
2007年10月にシンガポール航空のシンガポール/シドニー線でデビューを果たしたエアバスのオール2階建て旅客機A380の、世界へのネットワークが広がっている。「空飛ぶ豪華ホテル」の異名をもつこの巨人機は、どんな発想から生まれ、旅の可能性をどう広げたのか? - ボーイング787“ドリームライナー”は空の旅をどう変える?
開発の遅れが懸念されていた次世代機787について、ボーイングは今年1月に「初号機納入は2011年第3四半期(7〜9月)」と発表した。1号機を受領するのはANAだ。スケジュール通りに進行すれば、いよいよ年内にも日本の空でデビューすることになる。787は、これからの空の旅をどう変えるのか? - 新型旅客機が誕生するまで──その開発・製造プロセスを追う
新しい旅客機が完成するまでに、いったい何年かかるのか? よくそんな質問を受けることがある。そこで今回は、新機種の開発プランが持ち上がってから、設計・製造を経て市場に送り出されるまでの具体的なプロセスを追ってみた。 - 太陽エネルギーで世界一周飛行を目指す、夢のソーラーインパルス・プロジェクト(前編)
化石燃料をいっさい使わず、太陽エネルギーだけを動力とする有人飛行機で世界一周を実現する──そんな夢みたいなプロジェクトが現在、スイスを拠点に進行中だ。プロジェクトの詳細と現在までの取り組みを2回に分けて報告する。 - 「秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話」バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.