夢の国産旅客機が世界の空を舞う:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(4/5 ページ)
MRJ(三菱リージョナルジェット)の離陸が間近に迫っている。予定している初飛行は、2013年の第3四半期。多くのファンが待ち望んだ国産旅客機の実用化に向け、これからの半年間はまさに正念場だ。
常識を破ったエンジン配置
ここで、今回の「夢の国産旅客機」というテーマとは少し外れるが、本田技研工業が初めて手がけた旅客機として注目が集まる小型ビジネス機──ホンダジェットについても触れておこう。
テーマとは少し外れると書いたのは、これは厳密にいうと米国に本社を置くホンダエアクラフトカンパニーが製造する米国製旅客機だからだ。しかしもちろん、構想や基本設計は日本人スタッフが担当した。その意味ではMRJ同様、メイド・イン・ジャパンの技術の上に成り立っている。
6〜7人乗りのホンダジェットは、MRJよりもひと足先に2010年12月に初飛行を成功させている。その日、ノースカロライナ州グリーンズボロのピードモント・トライアド空港を離陸したテスト機は、約50分間の飛行で性能面や飛行特性など評価試験を実施。ホンダの技術力の高さを世界にアピールした。
特徴はエンジンの取り付け位置だ。多くの機種で主翼の下部につり下げられるように置かれることの多かったエンジンを、ホンダジェットでは主翼の上部に設計している。飛行機は、主翼の丸くふくらんだ上面に速い速度で空気が流れ、下面との間にできる負圧(空気圧の差)によって揚力を生じさせる。その負圧を得るために「主翼の上面には気流を乱すものを置かない」というのが航空力学の常識だった。
しかし、エンジンを主翼の下側に付けると胴体が地面から高くなり、乗降のための施設(タラップなど)を用意しなければならない。ビジネスジェットには機体後尾の両脇にエンジンを取りつけている機種もあるが、それだと胴体内部に支柱を通すことが必要で、客室が狭くなってしまう。
ホンダのエンジニアたちは「何とか主翼の上側にエンジンを置けないか」をテーマに、主翼上面のさまざまな位置にエンジンを設置して気流の乱れをコンピュータで計算・分析する作業を繰り返した。その結果、主翼の上側であっても気流が乱れず、空気抵抗の少ないエンジンの置き場所を見つけたのである。
2012年秋から量産1号機の生産をスタートしたホンダジェットは、2013年後半にもいよいよ世界の空を舞い始める。
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