夢の国産旅客機が世界の空を舞う:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(5/5 ページ)
MRJ(三菱リージョナルジェット)の離陸が間近に迫っている。予定している初飛行は、2013年の第3四半期。多くのファンが待ち望んだ国産旅客機の実用化に向け、これからの半年間はまさに正念場だ。
日本の航空産業のスタートに
さて、多くの日本人の期待を背負ったMRJも、前述したように2013年第3四半期の初飛行を経て2015年度半ばにはANAへの納入が予定されている。2012年12月には米国スカイウェストから確定100機、オプション100機の正式契約を得たことで、累計の受注機数は計325機(確定165機、オプション160機)となった。
最大のマーケットはリージョナル路線が発達している米国や欧州だが、三菱航空機は今後の成長が期待されるアジア市場にも目を向ける。現在商談が進んでいるとみられるのがベトナム航空だ。2013年1月に安倍晋三総理がベトナムを訪問した際にも、MRJ導入についてベトナム側に後押ししたもよう。MRJについては日本政府も積極的にトップセールスを展開すると名言している。YS-11以来の国産旅客機計画を、官民一丸で推進する構えなのだ。
名古屋の製造現場では、飛行試験用の初号機の組み立て作業が続いている。その後は静強度試験用の機体の組み立てに移行。実用化に向け、すでにカウントダウンが始まった。
もちろん初飛行に成功したからといって、それで実用化が約束されるわけではない。初飛行後は安全性の実証──型式証明取得のための険しいプロセスが待っている。さらに事業として成功させるには、より強固な販売・サービス体制の構築も不可欠だろう。いまはまだ日本に存在しない産業の根を、どう育てていくか。それには当然、時間もかかる。
しかし、世界をリードする自動車産業だって、今日の地位を築くまでは試行錯誤の繰り返しだった。MRJの現在の立ち位置は、私の目には半世紀前の自動車産業とオーバーラップする。10年後、20年後に振り返ったとき、人々が「日本の航空機産業のスタートは2013年のあのMRJの初飛行だったな」と懐かしそうに語る──目の前で進行しているのはそんなプロジェクトであると信じたい。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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