価値観型の人に、私は重ねて言いたいのですが、ビジョンが浮かばないからといって、不安になったり落ち込んだりしないでくださいね。
ビジョン型は、転職にしても独立にしても「5年後に○○物産か△△商事に入って、○○部門でこんなことをやる!」というイメージがありありと浮かびます。5年後のそれに向けて、という明確な目標があると安心感があります。
しかし価値観型の人は、未来が浮かばない分、不安になってしまうことがあるのです。でも不安に思わないでください。その代わり、あなたが大事にしたいこと(価値観)に沿って今の仕事ができているか、もし転職するとしたら、それを満たせるかどうかを基準にしてほしいのです。給料がいいとか、知名度があるとか、社会的安定があるとかを基準にしないでほしい。もちろん、それが価値観だったら、それはそれでいいのですが。
スタンフォード大学の研究ですが、学生が卒業するときに、寄せ書きに自分の目標を書いた人のほうが、その後、精神的に充実した人生を送り、収入もほかの人の数倍から数十倍あった、という統計があります。だから、ビジョンが大事、目標が大事、というわけです。
ところがこれと相反するように、クランブルツ博士の「Planned Happenstance Theory」という考え方があります。この博士は「キャリアの8割は偶然によって決まる」というのです。「あの仕事に就きたい」と思って就いている人は2割しかいないのです。だいたいは、たまたま知り合った人に声を掛けられたり、たまたま配属されたりして、現在のキャリアを築いている。だから未来の目標やビジョンを設定するよりも、自分の大事なものを軸にして、アンテナを広げていろんなものを吸収したほうがいいですよ、という言い方をしています。これは価値観型を支持する考え方です。
一見、ちょっと対立しているように見えるのですが、私はこれを対立ではないと考えます。その人の傾向によってどちらが合うか、だと思うのです。
では、ここであなたが「価値観型」か「ビジョン型」かを調べてみましょう。以下の「どちらかというと?」という表を実践してみてください。AとBのどちらの状態の方がやる気を感じるでしょうか? やる気を起こさせる方に○を付けていってください。
下記の16項目それぞれに対して、自分にとってAとB、どちらがやる気を起こさせるか、どちらかに○を付けてください。
A 目的地はなくても、方向性はある
B 方向性がなくても、目的地はある
A 仕事で何が大事?
B 将来どんな仕事がしたい?
A 今、大切なことに生きる
B ゴールのイメージに向かう
A 自分のこだわりや譲れないもの
B 将来の夢
A 目の前のことから始める
B 将来の理想から現在を見下ろす
A 日々、コツコツ積み上げる
B 目標への手段として、今の行動をとる
A 目標は自分の未来を制約する
B 目標がはっきりしないとやる気が出ない
A 今日1日どう過ごしたい? 今週1週間どう過ごしたい?
B ビジョン実現のため、今週何ができる? 今日何ができる?
A 今日1日、どれだけ自分の大事にしていることに沿って過ごせた?
B 自分のビジョン、ありたい未来に近づいている? 遠ざかっている?
A 特定のキャリアのイメージはなく、自分の価値観を満たすキャリアならなんでも
B これでないとダメという特定のキャリアのイメージがある
A 決断しないで、いろいろな物事が同時進行
B 決断して、目的地への優先順位がある
A その場その場で、自分の価値観に沿って物事が判断される
B 目的地に近づくことが基準となって、物事が判断される
A どんなとき充実? どんなとき不満? どんなとき自分らしい?
B 3年後、5年後、10年後、どんな仕事がしたい?
A ○年後までは、ここでがんばる。今精一杯何ができる?
B ○年後までには、そのキャリアを実現させたい。そのためにここで何ができる?
A 成果は後からついてくる
B 成果は決めて目指す
A どちらかというと過去を味わうのが好き
B どちらかというと先を考えると楽しい
Aの○の数が多い人は価値観傾向が強い人、Bの方が多ければビジョン傾向の強い人、ということになります。
「価値観型」か「ビジョン型」かは、こっちじゃなければダメだ、というものではありません。また完全にビジョン型/価値観型に分かれるのではなくて、半々の人もいます。あくまでも価値観傾向が強いか、ビジョン傾向が強いかを確認するためのものです。枠にはめるものではありません。
自分のキャリアを構築する際に、どちらが行きやすい道か、という感じです。富士山を、静岡から登るか山梨から登るかという違いはありますが、行き着くところは結局一緒。それと同じです。あまり型にこだわり過ぎないでください。
それに価値観型といっても、ビジョンが出ないわけではありません。価値観傾向の強い人がビジョンを出すには、まず、充実していたことや楽しかったこと、やりがいを感じたときなど、過去の具体的な場面を掘り出していき、それの何が良かったか、そして自分にとって何が大事か(価値観)を引き出します。価値観を掘り出せたとしたら、「じゃあそんな価値観を満たせる未来って、どんな未来だろう?」と問いかけていくことで、将来のビジョンが出てきます。
ビジョン型の人の場合は、何年後にあれを実現させたい、という場面をありありと思い描いてもらって、「それの何がいいのか、自分にとって何が大事か」と問いかけることで価値観が見えてきます。
平本 では斎藤さん、これが大事だということはありますか?
Biz.ID 斎藤 「新しいことに触れること」です
平本 じゃあ、ちょっと極端かもしれませんが、今の会社にいることよりも、「新しいものに触れる」という価値観が満たされることが大事ですね。ITmediaで新コンテンツの立ち上げなど、新しいものに触れていられたら幸せですが、「10年やっているこのコンテンツを引き継いで、そのまま踏襲してやってくれ」といわれたら、たぶん、やる気がなくなっちゃいますね。それだったら、メーカーとか商社とか、今と全然関係ない業種の会社でも、新しいものをやれるんだったら、そっちの方がきっとやる気が出ますよね。業種・職種じゃなく、価値観を満たせるかどうかが大事でしょう?
Biz.ID 斎藤 まさにそうですね。その説明はとても腑に落ちる感じです。
平本 房野さんの価値観はなんですか?
房野 「日々、平和な落ち着いた生活」です。実はあまり変化が好きじゃないんです。斎藤さんとは、おそらく全く違う価値観かと(笑)。同じペースで生きていたいな、と思っています
平本 例えば、ライターとして非常に人気が出てきて、今の10倍くらい仕事量があってお金もいっぱい儲かるとしたら?
房野 う? ん……ちょっと想像できません。「そういうタイプじゃない」と思っているんです。
平本 そういうスタンスだと、ビジョン型の人に「それじゃダメだよ、もうちょっと高いところに目標を持たなきゃ」って言われませんか?
房野 「もっと仕事しましょうよ」とは言われます。でも「いや、別に今のままで十分です」という感じなんです。
平本 むしろ平和が保たれるなら、という感じですね。
房野 そうです。「このまま普通にご飯が食べていければ十分」とか「毎日おいしいお酒が飲めれば幸せ」とか、そんな感じです。
平本 斎藤さんの場合は、新しいものにチャレンジできなくなったら、できる職種・仕事に就いたほうがいいし、房野さんの場合は、平和が保たれるなら、別にライターじゃなくてもいいんですね。2人とも価値観傾向が強い人です。未来のビジョンが浮かばないからといって、不安に思わないでくださいね。
ピークパフォーマンス 代表取締役
平本相武(ひらもと あきお)
1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。
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