2つの合宿・田口編シリーズ「ゆるやかにつながる」(1/2 ページ)

現代ビジネスパーソンの横のつながりを追うシリーズ「ゆるやかにつながる」。第1回のテーマは「合宿」だ。2006年12月中旬、筆者は伊豆半島・今井浜海岸にいた――。

» 2007年01月19日 23時23分 公開
[鷹木創,ITmedia]

 30分ほど夜の山道を歩き、「やっぱり宿から迎えに来てもらえばよかった」と若干後悔し始めていた矢先、旅館の灯が見えた――。2006年12月中旬、筆者は伊豆半島・今井浜海岸にいた。夕方、伊豆急行の今井浜海岸駅に降り立ち、もくもくと山道を登った。暖冬のせいもあったかもしれない。緩やかな坂道を10分ほど登るとそれなりに汗ばんでくる。駅から30分ほど山道を歩くと、目的地の旅館「リゾートイン今井浜」が見えてきた。

歩いた距離をGoogleマップで確認してみた
翌朝撮影したリゾートイン今井浜

会社ではなくブロガー個人がつながる

 時間を少しさかのぼる。12月初旬のイベントで、本誌でGTD「ひとりで作るネットサービス」探訪の連載を執筆する田口元さんから、「2006年毎月行ってきた開発合宿ですが、定期的に開催するのはひと区切りにしたい」と聞いた。開発合宿とは、Webアプリケーションなどを開発するための合宿で、田口さんがブロガー仲間ら数人を誘い合って行ってきた。check*padなどのサービスもこうした合宿の中から生まれたのだ。

 そもそもサービスやプロダクトを開発する際、会社のプロジェクトチーム単位で合宿を行うことをはそれほど珍しいことではない。大手メーカーはもちろん、最近では、はてながこの手の合宿を効果的に行っていることも知られている(2006年5月の記事参照)。

 当時、プログラムスキルに自信がなかった田口さんは、技術向上の方法を模索していた。そんな時、「はてなのような合宿がしたい」と思ったのが開発合宿を始めるきっかけとなった。田口さんの手法が独特なのは、会社ではなく、ブロガーが個人として結びついて合宿していることだ。当然、参加するブロガー各氏はそれぞれの自立した目標をもって合宿に望んでいるのである。

キーワードは「ゆるーく」

 合宿には田口さんのほか、2006年田口さんの開発合宿を一緒に支えてきた赤松洋介さん(サイドフィードのCEO)はじめ、過去に参加経験のあるサイボウズ・ラボの秋元裕樹さん、コンテンツマッチ広告を提供するブレイナーの代表取締役・本田謙さん、女性初の参加者になった中央大学の大学院生・小宮香織さん――の5名が参加した。全員がオンラインサービスやアプリケーションなどのプログラミング経験者だ。

リゾートイン今井浜のミーティングルームで開発。全員ノートPC持ち込みだったが、そのうち3名は20インチクラスの液晶ディスプレイでマルチディスプレイ環境を構築していた

 キーワードは「ゆるく」。合宿中、筆者が質問するたびに田口さんは「ゆるーく、やりましょう」「ゆるくでいいじゃないんですか」「ほんと、ゆるくでいいんです」と口にする。会社のようなガチガチの営利目的ではない。有給休暇をとってまで参加した方もいたが、個人で無責任にやるわけでもない。オフのようなゆったりとした雰囲気ながら、「食事の時間」「お風呂の時間」「合宿中に必ず何か作る」といったルール(?)は守る。宴会のようなどんちゃん騒ぎにはならないのである。あくまでも「ゆるく」しかしながら着実に進んでいくのだ。

 この「ゆるさ」を効果的に実現しているのは、緩急なのかもしれない。合宿のスケジュールを見て、そう思った。コードを打ち込んでいる時の集中力と、報告会でのざっくばらんさ――だ。

 今回の合宿は2泊3日。真ん中の1日を抜き出し、筆者の感じた「ゆるさ度」を付記した。ゆるさ度は場の雰囲気から類推した。あくまで筆者の感じ方によるが、「冗談を許容するか」「個人行動を許容するか」「個人作業か」などのチェックポイントを設け、それに応じて3段階に分けてみたわけだ。

時間 イベント ゆるさ度
8:00〜 朝食 ☆☆☆☆☆
9:00〜 開発
11:00〜 報告会 ☆☆☆
12:00〜 昼食 ☆☆☆☆☆
13:00〜 開発
16:00〜 報告会 ☆☆☆
18:00〜 夕食 ☆☆☆☆☆
19:00〜 開発
23:00〜 報告会 ☆☆☆
〜朝まで 開発、個人ごとに就寝 ☆(開発)

 このスケジュールはあくまで1つの類型だ。田口さんを例に出せば、6時ごろに起床して朝食の前に2時間ほどプログラミングしていた日もあった。その代わりといっては何だが、13時〜16時の間に「頭をすっきりさせる」「1人で考えたい」などと、2時間ほど昼寝していたのも田口さんだったりする。

 要は、自由なのである。その一方、レビューの時間になるとお互いのサービスやプロダクトについて、厳しい質問も飛ぶ。「えー、それゲームなの?」「それじゃ、Google(の検索)からのアクセスはないな」「どうやってユーザー集めるの? それで集まるの?」などと率直だ。とはいえ、けっして暗い雰囲気はならない。同じ技術者同士、ある程度気心が知れているのかもしれない。「それは○○タグを入れたほうがいい」「URLを動的にはきだして、画像もダイナミックに表示するといいかも」などとフォローもある。

 中には、報告会の合間に開発が進まず、時にお気に入りのサイトやソフトを紹介してごまかす参加者もいた。ただし、それなりに面白かったりするので、筆者も「ゆるいな」とにやけつつ、役に立ちそうなサイトやソフトをメモしたりもした。

報告会で意見を交わす。左からブレイナーの本田さん、サイボウズ・ラボの秋元さん、サイドフィードの赤松さん
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