「サービスは半日で完成させる」――SETAKE・たつをさん田口元の「ひとりで作るネットサービス」探訪

「有名人身長推定サイト SETAKE」「EREK」などのサービスを作ったたつをさんはドメイン取得からサービスリリースまでは半日でこなすという。飲み会で生まれたアイデアをもとにサービスを開発することもあるため、ペンはどこにでも持ち歩く工夫をしている。

» 2007年06月11日 12時40分 公開
[田口元,ITmedia]

 「ひとりで作るネットサービス」第11回目は、Web APIを活用して次々と小粋なサービスを開発するたつをさん(35)にお話をうかがった。「ドメイン登録からサービスリリースまで半日が目安」と言い切る彼は、どのように企画・開発・運用を行っているのか。その秘訣に迫った。

飲み会の会話から「有名人身長推定サイト」が生まれた

 「作ったものはたくさんの人に使ってもらいたいですよ。エンジニアですから」と話すたつをさん。彼が作るサービスはWeb APIを使ったシンプルなものが多い。ちょっとしたアイデアが、情報の見せ方を工夫することで“意外と便利”なサービスになる。

 サービスを作るのにかかる時間は基本的に半日。これはアイデアに基づいたドメインを取得し、開発してリリースするまでの時間だ。休日を使って一気に作り上げるという。

 アイデアは、思いついたときにすぐメモする。小さなメモ帳とノートを持ち歩き、何げない会話や思いつきから便利なサービスができないか考える。

 ネット上の情報から有名人の身長を推定するサービス「有名人身長推定サイト SETAKE」も、飲み屋での会話から生まれた。「テキストマイニングって、Web APIを使えば簡単にできるんじゃないかな」と友人と盛り上がったのがきっかけだ。

 (編集部注:テキストマイニングとは、表現が異なる大量のテキストデータを、統計解析手法を用いて分析すること。@ITの解説

 さっそく休日を使って試すことに。まず有名人の名前と、身長を表す「cm」などの語句で検索し、その結果を見てみると“それっぽい”データが取れた。「これはいける」と一気にサービスを作り上げてリリースした。

 有名人の身長を扱ったので、技術系に限らず多くの人の注目を集め、ニュースサイトでも取り上げられた。一時は負荷のためサービスがつながりにくくなり、仕事のあとに急いで負荷対策を行わざるを得なかったこともあるという。

「有名人身長推定サイト SETAKE」トップページ(左)とドラえもんの身長を推定したページ

アイデアを思いついたら、すぐにWebの情報をいじってみる

 SETAKEと同様の考え方で「EREK」「買ったら検索」「簡易好き嫌い判定」も作った。

 「EREK」は、ある英語の表現がどんな文脈で使われているかをネット上から抽出して表示するもの。検索キーワードに加えてその前後の文字列を表示するKWIC(KeyWord In Context)という手法を採用した。見ていると、どういう風に英語を使いこなせばいいか分かってくる。「自分が受験生だったころに使いたかったですね」とたつをさんは説明する。確かに、受験勉強で威力を発揮しそうだ。

 「買ったら検索」はある製品を買ったあとに人々がどうしているのかを教えてくれるサービス。Web APIを使って「〜を買ったら」で検索した結果、この表現が思ったより多く出てくることに気付き、思いついた。

 たとえばiPodを「買ったら検索」にかけると「iPodを買ったらこれを聞け」「iPodを買ったら、書籍『iPodは何を変えたのか』を読め」などの結果が出る。こうした情報を参考に、買った商品をさらに活用できる。

 同じように「簡易好き嫌い判定」もネット上の文章を検索し「好き」「嫌い」に関する表現を引っ張ってくることによって実現した。「簡易版なので不正確ですが、それっぽい結果が出てきますよ」という。試しに「iPod」で検索してみると、99.3%が「好き」、0.7%が「嫌い」という結果だった。具体的な評判を知りたいときは、「好き」「嫌い」のそれぞれから、判定の元になった検索結果にジャンプできる。

たつをさんが作った3つのサービス。左から順に「EREK」「買ったら検索」「簡易好き嫌い判定」

 アイデアを思いついたら、とにかくWeb上の情報をいじってみる。そうした習慣がたつをさんの開発姿勢から見えてくる。

 Web APIのパラメータを変えるだけで結果がすぐに得られる、試験用のテンプレートを自作した。検索結果が十分多く、かつ面白い結果が出てくる“筋がいい”ものを選んでサービスを開発する。

 「試してみるとすぐ分かるので、くだらないアイデアでもまず試します。逆に良いアイデアだと思っても、プロトタイプで試してみると全然結果が面白くないこともありますね」

シンプルなサービスを休日に開発し、平日は保守・運用を

 サービスは休日に開発し、平日は保守・運用、ちょっとした改善作業にあてる。基本的にシンプルなサービスしか作らない。「ユーザー登録が必要なサイトなど、複雑にすると平日の昼間にメンテナンスせざるを得なくなります。昼間は仕事があるので、それはできません」

 また、作ったサービスは毎晩動作確認を行う。「20分程度ですが、この作業は欠かさず行います」。具体的には、まず自分が作ったサービスにsite:パラメータをつけて「site:setake.net」のように検索する。自分のサイトがどれだけ検索エンジンにインデックスされているのか確認するためだ。その増減を見ながら、サービスが多くの人に使われているかどうかチェックする。

 次にそのサービスのWebサイトを開いて、動作確認をする。このとき「もうちょっとこうしたいな」という部分があればすぐにメモする。

 そして最後にブログ検索で、自分が作ったサービスの評判をチェックする。自分のサービスがどう使われているのか、誰がどうブログで取り上げてくれているのかを検索し、改善点を洗い出す。

 必要なときはアクセス解析も行う。「無料のアクセス解析サービスを入れて全体のアクセス傾向を把握し、より細かく知りたいときは直接アクセスログを当たります」

 こうした作業を行ったあと、使える時間を使ってサービスの改修を行っている。開発はサーバに直接SSHでアクセスし、テキストエディタの「emacs」でファイルを編集する。Macも持っているので、動作確認はInternet Explorer、Firefox、Safariの3ブラウザを使う。

 (編集部注:SSHとは、サーバなどにネットワークを介してアクセスするプログラム。ネットワーク上を流れるパスワードやデータを暗号化することが特徴)

 サービスに利用する画像はPowerPointで作っている。SETAKEのロゴや身長比較のために登場する棒人間の「SETAKEくん」もPowerPointで描いたものだ。

ペンとポストイットはあらゆるところに忍ばせる

 「ペンはユビキタスになるようにしています」というたつをさん。次々と生まれてくるアイデアを書きとめるには紙とペンが必要だ。財布やバッグの中に紙片は見つかるが、ペンがなくて困ることが多い。そこで、たつをさんはあらゆるところにペンを潜ませている。

 ロディアのメモ帳を愛用しているが、そのケースはペンも挿せるものだ。さらに、携帯のストラップにもペンをつけている。バッグの中には常に2、3本ペンを入れる。「よく会議室などでペンを忘れますよね。だからいつも余分に持ち歩いています」

 同様にユビキタスにしているのが“ちびポスト・イット”。本を読んでいてちょっと付箋を貼りたいとき、ポスト・イットがないとストレスになる。そこで、ちびポスト・イットは読む前にまとめて本の内側に貼り付けておく。余ったポストイットは携帯の内側に貼り付けておき、いざというときに備える。もちろんメモ帳にもポストイットを常備している。

 ブログ「たつをのChangeLog」は1995年以来、10年以上の歴史を持つ。サービスをリリースしたら、まずここで発表すると、コメントやトラックバックですぐにフィードバックを得られる。フィードバックには技術的なものもあり、サービスの負荷対策について自分の手法を公開したところ「こういう方法もありますよ」と教えられ、新たな知識を仕入れたこともあった。

ペンは“ユビキタス”状態にしている。携帯にもペンをつけている(左)ほか、ロディアのカバーもペンを挿す
本に貼りながら読む「ちびポスト・イット」は携帯の内側にも貼っておく

 初対面の人と会話を盛り上げるための工夫として見せてくれたのは「プレゼンセット」。自身が開発したサービスのスクリーンショットなどをまとめたものだ。以前は名刺にサービス名を書いたりしていたが、うまく伝わらないことが多かった。しかしこのプレゼンセットを見せれば「あ、これ知っていますよ」となることも多く、知らない人ともすぐに打ち解けられる。

 たつをさんの本業は、自然言語処理の研究開発だ。プログラミングは中学のときから始めていた。フリーウェアを作って公開もしている。「昔に比べるとずいぶん簡単にいろいろなものが作れるようになりました」。その理由の1つがWeb APIだという。APIを使って数々のアイデアをサービスにしているたつをさんの次回作に期待したい。

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