探し物ファイル1――1983年のチョコクッキー(その1)Web時代の情報探索術

新聞、雑誌、写真、映像――Webにあらゆる情報が集中する時代。情報の多くは、Googleで検索すれば一瞬のうちに手に入るようになりました。しかし、Webだけでは見つからない情報もあります。味や形、過去の記憶……Webでは検索できない手がかりを基に、求める情報にたどり着く方法を探る「Web時代の情報探索術」が始まります。

» 2008年11月10日 08時00分 公開
[美崎薫,ITmedia]

 インターネットとGoogleの時代である。

 インターネットやGoogleと情報との相性は抜群によい。探し物が情報であるならば、探しているものがなにか知っていれば、インターネットは極めて強力に機能する場合がある。

今回の“探し物”は、25年前に食べたチョコクッキー。メーカーも製品名も分からないところから、記憶の中のチョコクッキーを探す。写真は手がかりになるかもしれない、現在市販されている主なクッキーとチョコクッキー

 今さらわざわざいうまでもないが、Webには情報はもちろんある。かつてない勢いで、あらゆる情報がインターネットに集中しているためである。新聞、雑誌、写真、映像、etc……。とはいえ、まだすべての情報がインターネットに載っているわけではないし、載っているとしても、探すのが容易であるわけでもない。探せたとしても、それを使えるわけではない。ここでいう使用とは、著作権の問題ではない。

 例えばプログラミングである。インターネットとコンピュータの相性はきわめてよく、プログラミングのソースコードが大量に手にはいるが、それをそのまま使えることはまれである。なんらかのカスタマイズが必要なのだ。基本的には情報は「理解しないと使えない」のである。

 情報を使うには、内面的な成熟が欠かせない。知るとは、事後的になにを知っていたかを知ることでもあり、手にしたものを見つめて、これが探していたものだったのかと悟るものである。

Webの歴史以前の情報

 インターネットの歴史という問題もある。大づかみにざっくりいえば、日本でのWebは1992年の商用化、Netscape Navigator(1994年10月)やWindows 95(1995年11月23日)の登場以降に急速に発達した。デジタルカメラの発売もほぼ同時期であり、画像つきのWebページは、1995年以降の情報に限られるといってもよい。もっといえば、携帯電話やデジタルカメラが普及した2000年以降の情報には比較的画像も豊富だが、それ以前の情報は極端に少ないか、文字のみに限られる場合が少なくない。

 Webへの継続的な情報提供という問題もある。Webの情報は、個人や企業や団体が行っているわけだが、しばしば個人は飽きることによって、企業や団体は、組織換えや廃業などによってなくなってしまう。その結果、Webの情報はひんぱんに失われる。インターネットアーカイブや、Googleのキャッシュなどで一時的に情報を得ることは可能であろうが、インターネットの情報の半減期は、かなり短いと考えられる。

 こうしたなかで、少し前の情報を探すことは、とてもむずかしい。インターネットの詳細な歴史は、例えばこちらを参考にされたい。

インターネットとデジタルカメラの歴史はリンクする。1995年に発売されたカシオ計算機のQV-10以降、インターネット上のコンテンツには写真の比重が次第に高まってきた。デジタルカメラが一般にも普及し始めた2000年以降の写真は、とくに多めである

「チョコレートコーティングされたクッキー」の1983年

 具体例を出そう。筆者は長いあいだ、ある「チョコレートコーティングされたクッキー」を探していた。先日ついに見つけたので「探していた」と過去形ではある。

 Webの情報を利用するときに内面的な成熟と理解が必要なように、クッキーの場合の「見つける」とは究極的には「食べる」ことを意味していると考えれば、まだ探し続けているといったほうが正確かもしれない。最後にそのクッキーを食べたのは1983年ごろだから、ざっと25年にもなる。

 四半世紀も前の情報は、まずWebでは見つからない。Webにかぎらず、どこのなにを探しても、ほとんど見つからないといってもいい。探す手段を考えるのが大変なのである。これがクッキーでなければ、むしろ探すのはずっと容易だろう。

1983年(昭和58年)の有名な事件
日付 事件
4月 大塚製薬、バランス栄養食「カロリーメイト」発売。※4月の何日かという情報は見つからず
4月15日(金) 雨。東京ディズニーランド、オープン。
6月28日(火) 俳優の沖雅也(31)が「おやじ、涅槃(ねはん)で待つ」の遺言を残して東京・新宿の京王プラザホテルの最上階(47階)から投身自殺。
8月16日(火) 名古屋地下鉄東山線栄駅で火災。死者2、傷者5。
9月1日(木) 大韓航空機撃墜事件。乗員29人と、日本人28人を含む乗客240人の合計269人全員が死亡
10月3日(月) 三宅島 噴火。
10月14日(金) 東北大学で日本初の体外受精児(試験管ベビー)誕生。

 などがあるが、なんといってももっとも印象深い事件は、

  • 9月1日(木) 大韓航空機撃墜事件。乗員29人と、日本人28人を含む乗客240人の合計269人全員が死亡

 であろう。

 食品系では、次のようなものもあった。

  • 4月 大塚製薬、バランス栄養食「カロリーメイト」発売。

 Googleでの検索数は、次のようになる。東京ディズニーランドと大韓航空機撃墜事件については、アマゾンでも検索してみた。Googleで多い順に並べた。

1983年の主な出来事のインターネットでの検索ヒット数(9月25日時点)
検索ワード Googleでのヒット数
東京ディズニーランド オープン 36万5000件※Amazon.co.jpの和書では343冊がヒット
大韓航空機撃墜事件 20万9000件/※Amazon.co.jpの和書では22冊がヒット、ほかに金賢姫などでも出版多数
カロリーメイト 発売 15万件
三宅島 噴火 10万8000件
沖雅也 自殺 3万6000件
東北大学 試験管ベビー 2420件※意外と少ない
名古屋地下鉄東山線栄駅 火災 76件※これも意外と少ない

 食品であっても、有名な商品はけっこう情報があることが分かった。このような「だれでも知っている」有名な事件なら、インターネットに限らず、あらゆるところで入手できるだろう。カロリーメイトならスーパーでだって売っている。

 問題はさほど世間の注目を集めなかった情報の場合である。例えばこの年の年末。1983年12月31日(土)に都内では、雪が積もった。このあと、大みそかに雪が積もるのは、21年後の2004年12月31日(金)になる。

 大みそかやクリスマスに降る雪は、ノルタルジーを誘い、なんだか幸福な気分に浸れるものだ。だが、地球温暖化が叫ばれて久しい昨今では、もはや東京では、年末の雪にお目にかかれることはないかもしれない。――などということには、別にだれも関心がないか、あるとしても気象庁のデータベースマニアか、環境問題に関心のある人くらいのものである。

「チョコレートコーティングされたクッキー」の手がかり

 おそらく先の「チョコレートコーティングされさたお菓子」の関心度は、ひどく低いのにちがいない。さて、この場合どうやって探せばよいだろうか。

 決定的な問題は、その「チョコレートコーティングされたクッキー」の名前が分からないことにある。名前も分からなければ作っていたメーカーも分からない。Googleで検索することもできない。分かっているのは、味の思い出と、パッケージの感じである。おいしかったので、もう一度食べたい。あの味、というのだけが先行している。

 手がかりは次のようなものだ。

  • 母と買い物にいったスーパーで、1980年代初頭の、たしか冬の時期にひんぱんに購入した。
  • 小判形(というか、さいとう・たかを原作の特撮番組『超人バロム・1』の「ボップ」を彷彿とさせる形)である。
  • パッケージは白地にクッキーのイメージが描かれていた。商品名はアルファベット表記で読めなかった。 
(左)お菓子のイメージはこんな感じ。小判形で厚みがあって、底にチョコをコーティング。表面に放物線のかたちにチョコで線を描いてあった。(右)パッケージのイメージ。白い紙のパッケージ。商品名にはCとOがあったような気がするが、読めなかった。

 これではとうてい探しようがないのである。探しようのないものではあるが、どうしても見つけたい。願わくはもう一度食べたい。年々強くなるそんな気持ちを抱えながら、御茶ノ水駅付近を何とはなしに歩いていたある日。「記憶の中のクッキー探し」の手がかりは、やはりWebではないところで手に入った――。


 この話の教訓、あるいはポイントは、Webにある情報を探すには、文字に頼るしかない、ということであり、したがって商品名、商標、メーカー名、作者などの文字情報には、細心の注意を払うべきだ、ということにあるだろう。あるいはまた、見つかるまであきらめないことこそが、ほんとうのポイントかもしれない。

 次回は、ついに見つけたクッキー探しの手がかりと、その後筆者が取った行動について見ていこう。

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