挨拶しても返事なし、それでもめげずに続けることに意味がある田中淳子の人間関係に効く“サプリ”

あいさつは職場の活性化に欠かせないものだが、相手があいさつを返してくれないのでは明るいムードも台無しになる。しかし、ここでめげずにあいさつを続けると、不思議と周りが変わってくるのだ。

» 2013年09月19日 11時00分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]

田中淳子の人間関係に効く“サプリ”:

 職場のコミュニケーションに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。「上司にこんなことを言ったら怒られるかもしれない」「部下には気をつかってしまうし」――。

 本コラムでは、職場で役立つコミュニケーション術をご紹介します。具体例を挙げながら「なるほど! こういうやり方があるのか」「これなら自分でもできるかもしれない」と感じてもらえるよう、筆者が見聞きした出来事をちりばめています。

 明日から……ではなく、いますぐに試すことができる「コミュニケーションのヒント」をご紹介しましょう。


 ある企業のリーダーを対象としたワークショップ型研修で、「メンバーに求めることは?」というテーマで自由に話し合ってもらった。グループごとに好き好きに「これが大事」「これはポイント」というところをリストアップしていった。大勢が「そうそう!」「それ、基本だよね!」と賛同していたのが「あいさつは大事だ」ということだった。「あいさつがどうして大事なんですか?」と突っ込んでみると、「あいさつから人間関係のすべてが始まるでしょう?」と言う。私も同感だ。

 ワークショップ2日目、私は会場内に早くからスタンバイしていた。開始時間の10分前ほどになると、次々と参加者が入ってくる。ところが、部屋に入ってくる際、誰も「おはようございます」と言わず、黙ったまま席に着こうとする。私から「おはようございます!」と声を掛けても、返事をしてくれない人が多かった。「あれ? 昨日、あいさつは大事、あいさつができる人でいてほしい、という話をしていたよね」と不思議に思ったものだ。

 人は、他者のあいさつや自分が行ったあいさつへの反応については敏感だけれど、自分自身の行動には意外に無頓着ということなのかもしれない。

 だから、「あいつ、あいさつしないよね」と他者のことは気がつくものの、自分があいさつしなかったこと、あいさつのチャンスを逃したことについては無自覚になる。自分だって他者から「あいさつしないよね」「あいさつに返事しないよね」と思われている可能性はある。自分があいさつしない時はたまたま考え事をしていたから反応できなかったなど理由があるかもしれないが、他者にはそう映らないことも考えられる。だから常に、自分の行動を客観視する力は必要だろう。

 「相手があいさつしない」ことを嘆く気持ちもわかるけれど、他人を変えるのは難しい。変えられるのは自分の行動だ。自分が行動を起こすことで多少は周囲を変えられるかもしれない。実際にあいさつによって職場のムードを変えた例を紹介しよう。

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 新入社員に聞いた例だ。「入社して自分が貢献できたと思うこと」は、「あいさつを交わす職場に変えたこと」だと言っていた。

 彼はこう言う。

 「僕が配属されたチームは誰もあいさつしないところでした。新人研修で「あいさつ、あいさつ!」とさんざん言われていたので、現場に行ってとても驚きました。でも、言われるまでもなくあいさつは大事なことだから、誰もしないからといってそれに合わせるのではなく、自分だけはあいさつをし続けようと思いました」

 彼は、来る日も来る日も元気に「おはようございます!」とあいさつを続けたそうだ。最初はほとんど反応がなく、自分の声がオフィスにこだまするような状況だったらしいが、諦めずに続けているとあいさつを返してくれる人が1人、また1人と現れ始めた。そうなるとあいさつしている側も勇気が出てくるもので、これまで以上に気持ちを込めてあいさつをした。数カ月もすると、そのオフィスはほとんどの人が「おはようございます!」と元気に言葉を交わすようになったという。

 組織を変えようと思う時、壮大なことを考えて、「自分には無理!」と腰が引けてしまうことがある。「そういうことは経営者に考えてほしい」「それはマネージャの仕事でしょ」と自分の手の及ばないレベルで「できない」と思ってしまうのだ。しかし、この新入社員の例のように「あいさつ」を毎日し続けることは、格別に権限が必要な行為ではない。新入社員にできることをただひたすら続けたことで、そのチームのムードが徐々に変わってきたというのだ。素晴らしいことではないか。

 何か始めたいと思っても、賛同者が増えないからとすぐ諦めたり、賛同者が増え始めてもまだまだ少数派だと思うと、あと一歩が我慢できず、諦めてしまうことはある。これを諦めずに続けるためには、信念が要る。自分が大事に思うことを自分の中心にしっかりと据えておくことが継続のコツといえるだろう。

あいさつを返してもらうためのヒント

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 ところで、返事をしてくれない人対策のヒントを。

 職場でのあいさつは、大勢に向かってすることが多いので、言われた側は、自分に対するものとは思わず、反応しないケースが多々ある。だから、単に「おはようございます」と声をかけるだけではなく、「山田さん、おはようございます」というように名前をつけるほうが効果的だ。自分からあいさつしてくれない人であっても、「山田さん」と名前つきで声をかけられると思わず返事をしてしまう。だから、反応の薄い人には特に「名前」と「あいさつ」をセットにしてみることだ。

 朝のあいさつを例に挙げたが、帰る際も同じだ。「お先に失礼します」「お疲れ様でした」など退社する時、それぞれに声をかける。これも、全くしない職場があると聞く。ふと気がついたら誰もいなくなっており、オフィスに自分だけぽつーんと残されていた――という、切ない話もある。誰一人声をかけずに、そーっと姿を消しているわけだ。

 まだ残っている人に気兼ねする部分はあるかもしれないが、自分の仕事が終わって堂々と帰宅するのだから、あいさつもきちんとしたほうが互いに気分がよい。

 「あいさつ」は職場のムードを活性化するのに役立つ。「誰もあいさつしない職場」だと嘆いているなら、小さなことでも自分から始めてみることだ。

著者プロフィール:田中淳子

田中淳子

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。

 1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。


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