居心地のいい“よそ者”でいられる――徳島・神山町がITベンチャーに選ばれる理由滞在して分かった独特の文化(1/3 ページ)

日本全国で過疎化が問題となるなか、珍しい地域おこしで注目を浴びる徳島県神山町。IT企業などがサテライトオフィスを設置し、若者の移住が増えているという。なぜこれほどの変化が起きたのか。そこには「よそ者」を快く受け入れる独特の文化があった。

» 2014年11月21日 08時00分 公開
[庄司智昭,Business Media 誠]

 日本全国で過疎化が問題となっている。日本創成会議が発表した資料(参照リンク)によると、このまま都市部への人口移動が進めば、2040年には523市町村の人口が1万人を割ると言われており、消滅する危険性も高いという。2014年4月時点の市町村数は1741。その3分の1が消滅の危機にさらされているというわけだ。

 最近では「ゆるキャラ」や「B級グルメ」など、さまざまな方法で地域を盛り上げる動きもあるが、目立った効果が出ている市町村はそう多くない。そのような中、ITベンチャー企業のサテライトオフィスの誘致で地域おこしに成功している町が徳島県にある。人口6015人(2014年10月1日時点)の神山町だ。高齢化率(=65歳以上の人口の割合)が46%(2010年)と限界集落(※)にも近い同地域だが、最近では2つの変化が起きている。

※高齢化率が50%に達し、社会的共同生活の維持が困難になる状態

 1つは1955年に神山町が生まれてからずっと続いていた人口の転出超過が、2011年に初めて転入増加に転じたことだ(参照リンク)。2012年以降は再び転出増となったが、その数は年間で100人程度だった1990〜2000年代に比べて、現在は20〜30人に抑えられている。

 もう1つは、名刺管理サービス「Eight」を提供するSansanを皮切りに、IT企業など10社がサテライトオフィスを設置したことだ。この“新しい働き方に取り組む”企業の話題は注目を集め、今も多くのメディアに取り上げられている。急激な過疎化が進んでいた地域に、なぜこれほどまでの変化が起きたのか。神山町を訪れ、その理由を探ってみた。

photo 徳島県神山町。昔は林業が盛んだったが、木材価格が低迷するなかで町は衰退していった

「来る者拒まず、去る者追わず」というスタンス

 「大義名分があったわけじゃなくて、『あれをやったら面白い』ということを、思いつきで手掛けてきた」――こう話すのは、グリーンバレー(参照リンク)理事の岩丸潔氏。グリーンバレーとは、神山町在住の数名が中心となって立ち上げた、移住支援や空き家の再生などの事業を行うNPO法人(特定非営利活動法人)だ。

 国内外のアーティストの製作支援をする「アーティスト・イン・レジデンス」や、半年間の職業訓練を提供する「神山塾」の運営も行っており、神山町が“まちづくり”で注目されるようになったのもグリーンバレーの存在が大きい。岩丸氏は移住交流と神山塾を担当しており、地域の“お父さん”のような役割を担っている。

 「神山には、誰でも生活していいし、合わなければ帰ればいいというスタンスがある。それが人をホッとさせるのかもしれない。家を探してあげたり、ときには飲んで話をしたりしながら、フォローをするのが私たちの仕事。ここ(岩丸家)でも3日に1回くらいのペースで視察者や若い人を囲むパーティーをしている」(岩丸氏)

photo グリーンバレーで移住交流と「神山塾」の担当をしている岩丸氏

 神山に移住してくる人の経歴はさまざまだ。一度就職をしてから挫折した人もおり、新しい場所で何かを掴もうという気持ちで来る人が多いという。グリーンバレーは彼らに「家を探してあげるからこうしろ」というような強制はせず、あくまでフォローに徹すると岩丸氏は言う。

 サテライトオフィスに関してもそうだ。Sansan コネクタ・Eightエバンジェリストの日比谷尚武氏によると、同社社長の寺田氏が「地域貢献はできないかもしれないが大丈夫か?」と聞いた際に、グリーンバレー理事長の大南信也氏は「別に地域貢献はいいので、本業が神山で成立することを示してほしい。ダメだったら神山から出ていっても構いません」と言ったそうだ。

 「国や自治体から、移住に対する支援策で補助金をもらって町を設計するという方法もあるが、それだと補助金の目的に合わない人たちが排除されてしまう。神山に移住してくる人は、IT関係のほかにも店舗を構えたい人や自然農法を志す人などさまざま。そういう人たちがみんなで共存できる場所を目指している」(岩丸氏)

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