なぜ三井不動産は、マンションの「ズレ」を放置したのかスピン経済の歩き方(1/4 ページ)

» 2015年10月20日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。


 日本中のマンション購入者たちを「ウチの杭も偽装されていないか」と心配させている横浜市都筑区の「傾斜マンション」問題。これまでメインだった、建物を支える杭のなかで固い地盤まで到達していないものが8本あったという偽装に加えて、杭の底を固めるセメント量のデータ改ざんまで新たに明らかになっており、まだまだ新たな偽装がでてきそうな雰囲気もある。

 京都府立医科大学の臨床研究で不正が発覚した後、データの解析者だったノバルティスファーマの社員が関わった他案件を調べるとことごとく「クロ」だった。そういう意味では、報道されている「旭化成建材の担当者」が関わった他の案件もかなり危うい。過去10年間に行った3000件を調査するということなので、1日も早く偽装の全貌が明らかにしていただきたいと思う一方で、この問題は旭化成建材1社をどうこうすればいいわけではなく、日本の建築業界のシステムが生んだ「ひずみ」だと強く感じる。

 それを象徴するのが、問題の棟と別棟をつなげる渡り廊下の手すりが2センチずれていたと住民がクレームを昨年11月に入れたにもかかわらず、三井不動産レジデンシャルが10カ月以上も放置していたという事実だ。

 報道によると、「ずれ」を指摘された当初、三井不動産レジデンシャルは以下のように説明をしていたという。

 「東日本大震災時に棟の揺れ方に違いがあって生じたひずみと推察される」

 素人のみなさんは大騒ぎしますが、われわれのような「プロ」からみるとよくあることなんですよ、と言わんばかりだが、こんなフワッとした説明で引き下がる住民はいない。このロジックが通用するのなら、東日本のマンションは「ずれ」だらけになっていなくてはおかしいからだ。不信感を募らせた住民側が8月上旬に横浜市へ泣きついたことで、渋々ボーリング調査など重い腰をあげて「偽装」が発覚したという経緯なのだ。

 「三井不動産」という日本を代表する一流企業、そしておそらくほとんどの購入者もこのブランドに惹(ひ)かれていたであろうなかで、そのブランドの重みも誰よりも分かっている本人たちがなぜこんなあからさまに不誠実な対応をとったのか。

「傾斜マンション」問題。データの改ざんは「氷山の一角」なのか(写真はイメージです)
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